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コロナ禍に人生を狂わされたヒロイン役を演じて。スタッフは監督だけ?未体験の撮影現場へ

水上賢治映画ライター
「続・掟の門」で主演を務めた、大塚菜々穂   筆者撮影

 元新聞記者という経歴を持つ伊藤徳裕がスタッフは本人のみ、つまりたったひとりでキャストとともに作り上げた映画「掟の門」「続・掟の門」の二部作。

 コロナ禍を前に「今やるべきことはこの空気感を映像として記録することだ」と思い立った伊藤監督の元で作られた両作品は、いずれも、もう忘れかけつつある、コロナ禍によって人生が大きく狂った人々の心模様が描かれる。

 その中で、東京オリンピックをバックグラウンドにした「続・掟の門」で主演を務めているのが大塚菜々穂。

 今月末には、主演とプロデュースを兼務した「雨の方舟」の公開も控え、これからの飛躍が期待される彼女に話を訊く。(全三回)

正直、監督がなにからなにまでやる現場はどうなるのかが想像できなかった

 まず、なにより訊きたいのは、伊藤監督がたったひとりでスタッフワークをこなすという現場について。おそらくこれまでこのような体制は経験したことがなかったと思うが……。

「はじめは、なにからなにまで伊藤監督がひとりでやっているとお聞きしたときはびっくりしました。

 正直、そのような撮影現場は経験したことがなかったので、もう全然どうなるのかが想像できなかったし、不安がなかったといったら嘘になる。

 でも、伊藤監督にお会いしたとき、とにかくエネルギーをひしひしと感じて。映画を作ろうという意欲に満ち溢れていた。

 しかも、当時はまだコロナ禍でいまよりも規制が厳しくて作品を作ることがなかなか難しい状況にあった。

 にもかかわらず、ひとりで映画を作ろうとする伊藤監督の熱意ってすごいなと思ったし、しかもきちんと最後までやり遂げて作品(『掟の門』)を完成へと導いている。

 その熱意に心を動かされてやってみようと思いました」

コロナ禍によって人生が狂ってしまった、とりわけ若者の胸の内

 事前に第一作となる「掟の門」を見たとのこと。その印象をこう語る。

「やはりすべてひとりでこなしているので『ここが限界』という点があることはある。

 でも、それ以上に伊藤監督の『いま、この映画を作らないといけないんだ』みたい思いが全編にわたって貫かれている。

 コロナ禍によって人生が狂ってしまった、とりわけ若者の胸の内を描いている。

 その続編となるということで、この作品から引き継ぐものは引き継ぎながらも、新たなコロナ禍の物語を描くのだろうなと想像しました」

コロナ禍でなにか歯車が狂っていくことの危うさを感じた脚本

 「続・掟の門」は、新型コロナウイルスが依然と猛威を振るう2021年の東京が舞台。東京五輪の開幕が近づく中、コロナ感染でオリンピック出場を断念した美紀と、前作で夫を殺害されたまゆみという2人の女性を基軸に、思いもしない物語が展開していく。

 脚本の第一印象をこう語る。

「わたしの演じた美紀はコロナ禍によってあまり明かせないですけど、過ちを犯す。

 ただ、美紀だけではなくて、ここに登場する人物のほとんどがコロナ禍というある種、閉塞感のある社会で不自由を強いられ、それに心身とも蝕まれてなにか歯車が狂っていくんですよね。

 そういうひとりひとりの身に起きたことが積み重なって、ひとつの大事につながってしまう物語だなと感じました。

 正直なことを言うと、わたしはそこまでコロナによって追い詰められたり、苦境に立たされることはなかった。

 コロナ禍自体に対しては、ちょっと恨めしいところがありましたけど、その恨みや辛みみたいなことが他人に向かうことはなかった。

 ただ、コロナ禍によって気持ちが沈んでしまったり、なんとなくただよっている社会の空気に重さを感じたことはありました。

 ですから、脚本にはあまり自分には当てはまらないところと、共有できるところがそれぞれあったんですけど、幸い監督がいろいろとわたしの提案や質問にもきちんと答えてくださったので、ひとつひとつ確認しながら、演じていければいいかなと思いました」

「続・掟の門」で主演を務めた、大塚菜々穂   筆者撮影
「続・掟の門」で主演を務めた、大塚菜々穂   筆者撮影

目指していたことを断たれてしまう美紀の哀しみはわたしもわかる

 美紀を演じる上では、まずこんなことから役作りが始まったという。

「まず、美術も衣装も担当者はいないので、身に着けるものから持ち物まである程度自分で考えて、伊藤監督に相談しながら美紀という役を作っていきました。

 ただ、さきほど、お話ししたように、わたしはコロナ禍に美紀のようにネガティブにあまりならなかった。なので、彼女が最後に選択していくことも、わたし自身には当てはまらない。

 だから、美紀の気持ちをどう自分の中に落とし込んでいこうかと悩んだのですが、目指していたことを断たれてしまうことの哀しみはわたしもわかる。

 それが檜舞台であったら、そう簡単に立ち直ることもできなければ、心をリセットすること難しい。

 そのあたりのことをひとつヒントにして演じていきました」

(※第二回に続く)

「掟の門」「続・掟の門」ポスタービジュアル
「掟の門」「続・掟の門」ポスタービジュアル

「掟の門」

監督・企画・製作・制作・撮影・脚本ほか:伊藤徳裕

出演:岡部莉子 松谷鷹也 石本径代 長谷川愛美 大瀬 誠 北島かん奈 釜口恵太 順哉 岩下莉子 飯田美代子 山下ケイジ 鈴木博之 佐伯日菜子

「続・掟の門」

監督・企画・製作・制作・撮影・脚本ほか:伊藤徳裕

出演:大塚菜々穂 井神沙恵 岡部莉子 松谷鷹也 豊満 亮 順哉 笠野龍男 長谷川愛美 徳弘大和 西田百江 岩下莉子 伊藤凛香 村内孝志 釜口恵太

しじみ 今城沙耶 飯田美代子 白木サキ 石本径代 山下ケイジ 鈴木博之

池袋シネマ・ロサにて7/9(土)~15(金)まで公開

場面写真はすべて(C)N・I FILM

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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