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トランスジェンダーの子どもと両親が関係をどう構築していくのか?意味のある一歩を撮れたのではないか

水上賢治映画ライター
「息子のままで、女子になる」より

 ひとりのトランスジェンダーの女性を追った現在公開中のドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」。

 サリー楓というひとりのトランスジェンダーからいまの社会において、自分らしく生きることがいかに困難を伴うかということが浮かび上がる本作について、杉岡太樹監督に話を訊くインタビューの後編へ。

トランスジェンダーは特別な存在ではない。普通である

 前回のインタビューで触れた通り、エグゼクティブ・のスティーブン・ヘインズから紹介されサリー楓に出会い、とりあえずしばらく追ってみることにしたというが、その撮影の日々は新鮮だったという。

「先のインタビューでも触れましたけど、トランスジェンダーであることを自覚して出会った人は楓さんが初めてで。

 ビューティーコンテストの出場を目指しているぐらいだから、そういう華やかな世界に憧れているのかなと思っていたんです。

 でも、楓さんは、最近こそあまり言わなくなりましたけど、撮影当時は『トランスジェンダーは特別な存在ではない。普通である』と主張していて。

 彼女自身、当時は大学院に通っていて、仕事も夜の仕事ではなく、設計事務所に就職が決まっていた。

 それは僕にとってとても新鮮でした。いままで気づかなかったけど、こういうトランスジェンダーの方が実はいっぱいいて、それこそ、電車に乗って通勤・通学をして、僕の知らないうちにすれ違っていたこともあったんだろうなと想像できた。

 そこで、僕自身の視点がパッと開けた感じがして、彼女の私生活や背景も追ってみたいと思いました。

 その中で、彼女がお父さんにあまり理解を得られていないことを聞いて、この機会に親子が彼女のジェンダーに向き合う姿を撮りたいということで、会食のシーンを撮ったとき、これは映画にしないといけないと心に決めた気がします」

杉岡太樹監督  (C)Shinichiro Oroku
杉岡太樹監督  (C)Shinichiro Oroku

楓さんに、ある意味、丸裸になってもらう覚悟を求めたところはありました

 作品は、いわば二本軸でサリー楓をみつめる。

 ひとつは、女性として生きることを心に決めた彼女。

 もうひとつは、父親の期待に応えられなかった息子としての彼女。

 世間のトランスジェンダーに対するイメージを変えようとするサリー楓と、家族の中においてのサリー楓を追う。

 カメラはビューティーコンテスト優勝を目指しレッスンに励み、LGBT就職支援活動などに積極的にかかわる彼女の活動を追う一方で、楓の決意に戸惑いを隠せない父と母との対話にも同行する。

「作品においての重要な点なので、ネタバレは避けたいのですがコンテストの結果を受けて、もう一歩踏み込まなければいけなくなったことは確か。

 そこで楓さんに、ある意味、丸裸になってもらう覚悟を求めたところはありました。そうでないと、ひとつの作品にできる自信がなかった。

 でも、この覚悟があったことで、楓さん自身もお父さんとの関係に本気で向き合ったところがあったと思う。

 そのおかげで作品に広がりができたというか。女性として生きることを決めた楓さんの新たな一歩を踏み出す瞬間に立ち会えた一方で、トランスジェンダーの子どもをもった親の戸惑いや葛藤も垣間見える。

 トランスジェンダー当事者だけではない、年齢層も性別も関係なく関心が寄せられる作品になったのではないかと思っています」

「息子のままで、女子になる」より
「息子のままで、女子になる」より

僕たちと同じように、楓さんも矛盾を抱えている

 その中で、個人的にひとつ疑問が。

 監督もさきほど触れたが、楓さんは「普通」に生きることを望んでいる。

 ではなぜ、自分が前面に出ざるえないビューティーコンテストに出場し、優勝を目指したのか?

 このあたりについて杉岡監督の目にはどう映っていたのだろうか?

「客観的に観ると、大いに矛盾しているんですよね。

 目立ちたくないのに、目立ちたいといっているようなものですから(笑)。

 この矛盾は指摘したことがあるんですよ。

 『ほんとうに普通でありたいならば、トランスジェンダーであることを明かさないで、粛々と女性として生きていけばいいのではないか、世の中にそういうトランスジェンダーの方はいっぱいいるはず。実は、そういう人の方が、社会にダイレクトにアクションを起こせているのではないか』と問うた。

 僕としてはいまでもそう思っているところがある。

 ただ、彼女の中では『自分が<普通>であることを主張するためには、特別な存在にならないと多くのひとに伝えられない』という考えがある。

 とはいえ、そこには彼女自身の承認欲求であったり、自己実現みたいなことも含まれている。それを指摘する人はいっぱいいると思う。

 でも、僕はそれでなにが悪いんだろうと思うんですよ。

 僕だって、承認欲求はあるし、誰かに認められたいことが多々ある。

 僕たちと同じように、楓さんも矛盾を抱えている。それが特段悪いことだとは思わないし、そのまま描いたまでです」

「息子のままで、女子になる」より
「息子のままで、女子になる」より

トランスジェンダーの現実についてリアリティのある問いかけができた

 撮影を通して、杉岡監督自身は、とりわけ親子関係に深く考えさせられるところがあったという。

「楓さんはお父さんの期待を背負っているようなところがある。

 お父さんの『男らしくあれ』という期待に、息子として応えられなかった。だから、余計に後ろめたさを抱えていて……。

 二人の関係性は、観る人によっては絶望的に映るかもしれない。

 でも、トランスジェンダーの現実についてリアリティのある問いかけができた気がしています。

 トランスジェンダーのこどもを家族がどう受け止めるのかはそれぞれ。

 トランスジェンダーの子どもと両親が関係をどう構築していくのか、意味のある一歩を撮れたんじゃないかなと思っています」

「息子のままで、女子になる」より
「息子のままで、女子になる」より

「息子のままで、女子になる」

制作・監督・撮影・編集:杉岡太樹

エグゼクティブ・プロデューサー:Steven Haynes

出演:サリー楓 Steven Haynes 西村宏堂 JobRainbow 小林博人

西原さつき / はるな愛

大阪シネ・ヌーヴォ(大阪)、元町映画館(神戸)にて公開中。

9/18(土)より横浜ジャック&ベティ、

9/24(金)より京都みなみ会館(京都)にて公開

写真はすべて(C) 2021「息子のままで、女子になる」

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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