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結婚して子どもを産むのが一番の幸せという価値観から女性はいつ解放されるのか?

水上賢治映画ライター
「Eggs 選ばれたい私たち」 川崎僚監督 筆者撮影

 まだ日本ではあまりなじみのない、子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した独身主義の純子を通して、現代を生きる女性の心模様を映し出す映画「Eggs 選ばれたい私たち」について川崎僚監督に訊くインタビューの後編。前編では主にエッグドナーに着目した点や川崎監督の今の社会に対する違和感などについて訊いた。ここからはさらに作品世界に深く分け入る。

女性が結婚して子どもを生んで、子育てをするのが一番の幸せという、

古い価値観から女性たちは解き放たれていない

 まず、エッグドナー(卵子提供者)に志願した純子について。現在29歳の彼女は、常に男性目線にさらされる社会に生きづらさを抱えている。

 ただ、独身主義を心では決めているものの、それを周囲に宣言することはない。プライベートよりも仕事をとるかというと、そうでもなく、どちらかというと「なんとなくもう自分はこれからの人生も独りかもしれない」と諦めにも似た感情を抱いている。

 もしかしたら、社会から見たとき、純子のような存在は、「なぜ結婚しないのか?」「早く結婚すればいいのに」と一番よく言われるタイプと言ってもいいかもしれない。

 こうした設定にした理由をこう明かす。

「その通りで、純子は、周りから見ると、すぐにでも結婚できそうなタイプ。でも、これを逆で考えると、男性ですぐにでも結婚できそうとか言われる人いないよなと思ったんです。

 男性だと独身貴族とか、何か前向きにとらえられる。『この違いはなんなんだろう』と思って、独身でいることさえも、男性だと許されて、女性だと許されず、すごい後ろめたさが生じる社会ってどうなの?と思ったんです。

 女性が結婚して子どもを生んで、子育てをするのが一番の幸せという、古い価値観が根付いるのではないか?そこから女性たちはいつまで解き放たれないのか?きちんと向き合うことで考えられればと思いました。

 あと、29歳という設定にしたのは、女性は30歳でひとつ区切られるところがあるといいますか。20代と30代では男性の、そして社会の見る目も扱いも違ってくる。そこには子どもを産むという年齢制限も深く関わっているような気がする。

 ということで、とりわけ世間の風当たりが強い気がする20代の後半ということで、29歳という設定にしました」

「Eggs 選ばれたい私たち」より
「Eggs 選ばれたい私たち」より

結婚している方が上とか、子どもがいる方が上とか、決めつけないでほしい

 そこには川崎監督のこんな思いも封じ込めたという。

「やはり社会にあるこういう風潮みたいなものが少しでも変わってくれたらとの思いがありました。

 別に結婚してお子さんがいる幸せもあると思うけど、一人で自由に生きている幸せもある。いろいろな幸せの形があっていい。

 今は、多様化が認められつつある時代。にも関わらず、現実は違う。その現実が少しでも変わればとの思いはありました。

 結婚している方が上とか、子どもがいる方が上とか、結婚して子どもがいるから幸せそうとか、結婚していないから不幸せそうとか、独り身で寂しそうとか、独りだから性格がひねくれているとか、決めつけないでほしい。

 そういうステレオタイプな女性の見方を変えたい気持ちはありました」

なぜ「選ばれたい」になってしまうのか

 こうした川崎監督の今の社会に対する考えを盛り込みながら、作品がひとつキーワードとしてあげるのはタイトルにも含まれる「選ばれたい私たち」。

 この「選ばれたい」という言葉にはかなり重要な意味が込められている。

「子どもを産むことにしても、結婚するのかしないかも、女性本人に決定権や選択権がないといいますか。

 自ら選ぶものではなく、常に選ばれる側にいるのが今の社会における女性の立ち位置のような気がするんです。

 私たち女性は常に選択できる立場にいるはずなのに、なぜか日本では『選ばれる』という受け身の姿勢が多い

 就活にしても、本来は私たち自身が企業を選ぶはずなのに、『選ばれる』という意識が強いですし、婚活でもお相手に『選ばれる』という意識を持っている

 女性が社会に出てからは、常に『選ばれる』立場のように錯覚している気がします。本当は自分にも選ぶ権利があるはずなのに、主導権がまるでないかのように。社会全体のマインドが、女性自らが選ぶことを良しとしない。それによって女性もどこか選ぶことよりも、選ばれたい方向に流れているようなところがある。自ら選択権をもっていいはずなのに。

 そういう空気を日本社会全体から感じるので、今回はドナーに選ばれるかどうかだけではなく、いまの日本で生きていく上での様々な意識を描きたいと思い、『選ばれたい』というあえてネガティブな要素も含むタイトルを選びました。

 よく日本人は、自己肯定感が低いと言われますが、私自身もつい最近までそうでしたし、SNSに振り回されてしまう気持ちもよくわかります。

 でも、ありのままの自分をまずは自分で認めてあげること。認められないなら、自分で自分に納得ができる生き方をしていくように、自分へ変わっていくしか、自己肯定感をあげる方法はないことに気がつきました。他人からの評価は後からついてくるのではないかな、と。

 他人に自分の幸せの価値基準を委ねるのはやめて、互いが互いをありのまま受け止めてあげられる世の中になれば、どれだけ平和になるのだろうと思います」

「Eggs 選ばれたい私たち」より
「Eggs 選ばれたい私たち」より

周囲にいる、身近にいるちょっと悩みを抱えている人に

寄り添ってもらえるきっかけに

 その上で、こう言葉を寄せる。

「エッグドナーについてはなじみがないかもしれない。でも、純子や彼女の従姉妹で同じくエッグドナーに登録する葵のような存在はきっと自分の身近にもいるはず。

 そういう周囲にいる、身近にいるちょっと悩みを抱えている人に寄り添ってもらえるきっかけに作品がなってくれたらいいなと思います。

 いろいろと社会に対しての私の意見をここまで語っているので、社会派ドラマに受け止められてしまうかもしれないのですが、自分ではジャーナリスト映画ではないというか。

 私が描きたかったのは社会問題というよりは、私自身や、私の友だちの素直な気持ちや本音。だから、まずは彼女たちのもとに届いて、少しでも心が和らいでくれたらうれしい

 その上で、同じような境遇にいる人たちのもとにも届いてくれたらこれ以上うれしいことはないです」

これからは性別で区切らず、すべての人の心を癒すような作品を作りたい

 今回が初の長編映画となったが今後をこう見据えている。

「ずっと女性特有の題材を描いてきましたが、これからは性別で区切らず、すべての人の心を癒すような作品を作っていきたいです。

 今構想しているのは、世間全体でフェミニズムの履き違えのようなものがあるなと感じているので、それに対して意識を持ってもらうような映画を作りたいと思っています。

 本当のフェミニズムとは、女性を優遇することではなく、男女同じ立場になることなのに、『男はどうせ』と過度に権利を主張しすぎている女性も少なからず多いように思います。『これだからフェミはさ〜』と言われてしまうのも、そのせいなのではないかな、と。フェミニズムを掲げて男性を敵にするのはやめようよ、と思います。

 性別や年代や国籍など、勝手に目の前の人をカテゴリーにはめて『どうせ男は』とか無意識に決めつけてしまっているのに気づいてほしい。

 そうしたことをテーマに次回作は挑めればなと思っています」

川崎僚監督 筆者撮影
川崎僚監督 筆者撮影

「Eggs 選ばれたい私たち」

監督・脚本:川崎僚

出演:寺坂光恵 ​川合空 三坂知絵子ほか

テアトル新宿にて公開中。

テアトル梅田、アップリンク京都にて4月9日(金)より公開

詳しくは、こちら

場面写真はすべて(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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