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ゲスな兄を持つ妹、愛人、動じない婚約者。演じた女優たちが「おろかもの」のヒロインたちの女心を語る!

水上賢治映画ライター
「おろかもの」より

 結婚を間近に控えた兄が婚約者とは別の女性と関係を続けている現場を押さえた女子高生の妹。兄を軽蔑するようになった彼女が、おなじように軽蔑するはずだった浮気相手の女性となぜか心が通じ合い、破談計画を企てる。

 こんな危うい状況に立った女性たちのスリリングな物語が展開し、田辺・弁慶映画祭をはじめ数々の映画祭で受賞を重ねた、芳賀俊と鈴木祥の共同監督による話題のインディーズ映画「おろかもの」の出演女優3人、笠松七海、村田唯、猫目はちの鼎談。

 前回は脚本の第一印象や実際の物語について訊いたが、第2回は、それぞれの役、笠松七海演じる兄の浮気を知る妹、洋子、村田唯演じる浮気相手で洋子と共闘する美沙、猫目はち演じる兄の結婚相手の果歩について。

制服を着たら気持ちが高校時代に戻りました(笠松)

 はじめに洋子という人物について3人はどう感じたのだろうか?

「おろかもの」より
「おろかもの」より

笠松「洋子は17歳の設定で、私が同じころどうだったかなと振り返ると、彼女より自分は少し大人ぶっていたというか。俳優として活動し始めたのが16歳のときだったので、おそらく同年代に比べると、少しだけ早く家族や親戚ではない大人と接する機会があったところがあると思うんです。それで、なんとなくですけど、大人の社会を垣間見ていたところがある。

 対して、洋子は、ほんとうにまだ外の世界を知らない。日々の中で、接する大人は学校の先生ぐらい。だから、当時の私の実体験と比べるとまだ無邪気で子どものような感覚が残っているかなと。

 それから、単純に家庭環境は私と洋子ではかなり違う。私自身は一人っ子なので、兄がいませんし、兄弟の関係性も想像でしかわからない。

 ただ、だからといって洋子のことがわからなかったわけではない。芳賀監督や唯さんとかからも私は『若いのにしっかりしている』とか言われることがけっこうある。でも、実際はそんなことない。高校生ぐらいになったら、人前でしっかりしたように見せようと思ったら、相応の見せ方を体得しているじゃないですか(笑)。ですから、大人が思うほど、子どもでもなければ、大人でもない。このような気持ちはわかるところがある。

 そのあたりを踏まえて、私の中で、洋子は大人の世界を知り始める段階にいる女の子。美沙さんは初めて出会う自分の世界の外にいる大人の女性だと思うんです。

 なので、私が初めて自分の世界以外の大人の人と会ったときに感じたこととか、知らない世界に触れたときの新鮮さを忘れないようにしながら洋子は演じました。あとは、制服を着たらけっこう気持ちが高校時代に戻りましたね(笑)」

村田「私の目線と美沙の目線とまじってしまうんですけど、洋子ちゃんはうらやましい存在ではあるのかなと。自分より確実に若くて、まだまだ未来をいかようにも拓くことができる。いい意味で価値観も確立していなくて、真っすぐで正直で嘘がつけない。

 洋子ちゃんは初対面でいきなり美沙に切り出しますよね。あなたのやっていることは間違っているといった主旨のことを。

 あれだけ真っすぐいわれると、美沙としては『こんなに真っ正直な子がいるんだ』とちょっと喜んでしまうところがあったと思うんですよね。私も洋子ちゃんのそういう正直なところ、嘘のない言葉が好きでした。

 そういう気持ちがあったから、美沙と洋子ちゃんは接近したのかなと思いました」

猫目「私も、果歩として見てしまうところがあるんですけど、第一印象はやはり素直な子。ただ、気軽には触れられないというか。少し親し気にした瞬間に『嫌い!』と突き放されそうな危うさがちょっとあるなと思いました。

 だから、果歩としては義理の姉になるわけですけど、どこか『仲良くなれるのか』という不安がつねにつきまとっていましたね」

笠松「前に、私が女子高生だったときにある現場で一緒になった方に、『高校生って、大人になりかけの年齢だとされるけど、どこか地に足が着いてないところがある。どこかふわふわしていて、触ったらどうにかなっちゃうんじゃないかなっていう怖さがある』ということを言われたことがあったんですけど、その通りだなと思って。そういった感覚を、私は洋子にずっと染み付かせようとしていたんです。

 だから、今、猫目さんがおっしゃったように、ふいに触ったら嫌われちゃうんじゃないかっていうのは当たっていると思います。でも、たぶん、洋子はそんなこと実際は考えていない。でも、周りからみると、そう見えるんですよね」

猫目「そう。近づきたいけど、おいそれと近づけない微妙な感じがある」

笠松「洋子の部屋に果歩が羊羹を持っていくシーンは、まさにそんな感じですよね」

美沙には愛されていいんだよということを体感させたかった(村田)

 次は、台風の目ともいうべく、物語に波乱を巻き起こす美沙については、どう感じたのか?

「おろかもの」より
「おろかもの」より

村田「私は美沙のことがとても大好きです。

 美沙はとても真っすぐな人間だと思うんです。毎回、彼女は本気で人を愛していると思う。ただ、自分が愛されてもいいとあまり思えずにこれまで生きてきているようなところがある。自分をなかなか肯定できない。

 なので、脚本を読んだときに、私は、この人のことを守らなきゃと思いました。彼女はすごく人を愛することができて、本当は、自分も心から愛されたいと思っている。でも、どこかで自分は愛されない人間だから仕方ないとなんとか割り切って生きてきた。だから、美沙を演じる際、彼女が人から愛される人間なんだよ、愛されていいんだよということを体感させたいと思いながら演じていたところがあります。

 まったく一緒じゃなくても、美沙と似たような感情を味わったり、人生を過ごした方に、届いてほしいと思っていました」

猫目「演じる上で、果歩と美沙とが一緒になる場面はほとんどない。なので、私の感覚としては作品を観て、初めて美沙の存在を知った感覚があるんです。彼女がどんなことを企てていたのかも作品で初めて知った(笑)。

 だから、作品を初めて観たときは、正直、もうずっと頭に来てました(苦笑)。果歩としては許し難い。どんな弱い女の人だとしても、私の知らないところであんなこと、こんなことやっていたのかと思うと、美沙がどういう人かと想像することさえできないレベルで嫌いでした。もちろん私個人ではなく、果歩としてですけど。

 いまだに果歩としてしかみられない。あと5回ぐらい観れば、もしかしたら、少し落ち着いて美沙を分析できるかもしれないですけど、いまはまだ無理。それぐらい果歩としてはショックを与えられる人物ですね(笑)」

笠松「私は、美沙さんて洋子にとって初めて友達になる必要はないけど、友達になれた人だと思ってて。学校だと、いろいろ出会い方はありますけど、いずれにせよ自分から仲良くなりたくて関係を作るところがある。

 ただ、洋子にとって美沙さんは別に親しい関係にならなくてもいい人で。友達になろうと思って接触していないけど、結果的にすごくいい関係が築けた初めての人だと思うんです。だから、その関係は一生続くんじゃないかなと。

 洋子が社会人になっても、ご飯とか一緒に行ったりする気がします。洋子にとってはいい存在だなと思いました。

 あと、撮影が終わって、確か1週間か2週間ぐらいたったときだったかな。私、当時、学生で毎日学校に行ってたんですけど、ふと授業中に美沙さんに会いたくなった。それで、唯さんにメールしたんですよ。なんか、それぐらい洋子としても美沙さんに会いたいし、笠松七海として初めて深津美沙という人にも会ってみたくなったんです。

 クランクアップの日も、もう洋子として美沙さんにしばらく会えないなと思ったらむちゃくちゃ悲しくなった。

 今年の春に予告編と本編の一部のアフレコをすることになって、久しぶりに洋子と美沙さんとしてしゃべったんですけど、そのときはなんかめちゃくちゃうれしかった。唯さんが美沙さんとなって語るセリフを聞いたら、その当時の洋子の気持ちがぱっとよみがえってきて、なんかすごくうれくなりました。

 だから、洋子と美沙さんが共犯関係を結ぶのも偶然だけど必然だったというか。洋子にとってたぶん、美沙さんは大人のはずだけど大人じゃない。自分が考える大人像とはまったく違う人で、そのひとりの人間としての魅力にひっぱられて気づいたら行動を共にしていたところがあるんじゃないかなと」

村田「美沙もたぶん洋子ちゃんと初めて会ったときから、どこか気持ちが通じるところがあったような気がします。洋子ちゃんのことを、好きな人の妹だからというわけでなく、『なんかこの子、ひとりの人として好きだな』という感覚が演じていてもありました。

 それはもしかしたら、洋子ちゃんと美沙は境遇もそれまでの歩みもまったく違うけど、なにか心の奥で思ってることや大切にしていることが、一緒なのかなと」

果歩の割り切った感情はすごいと思いました(猫目)

 では、最後に果歩はどうだろう?

「おろかもの」より
「おろかもの」より

猫目「果歩はやはりとにかくどっしりしている。何があっても動じないところがある女性ですよね。

 最終的に健治が自分のところに帰ってきてくれればいいと思っている。浮気をしてても自分のところにさえ戻ってきてくれればいいと、そのある意味の割り切った感情はすごい女性だなと、演じながらも思いました

笠松「果歩さんは、たぶんどっしりしてるように映る。そう見えるひとつの理由が、声のトーンなんじゃないかなと思うんです。トーンを果歩さんがあえて一定に保っているところがある。

 私は、さきほど話に出ましたけど、果歩さんと洋子が言葉を交わす羊羹のシーンがすごく好き。あのシーンて、唯一、果歩さんの声のトーンが違って少し明るい。ここに実は果歩さんの本来の性格や感情がつまっているんじゃないかなと思いました。

 あと、洋子にとって果歩さんって、義理の姉になるわけですけど、むしろもうお母さんというか。お姉ちゃんというより、家に帰るといつもいてくれるお母さんのような存在になっている。

 だから、洋子にとってはお守りみたいな人。ずっと自分を守ってくれる存在なのかなと感じました」

村田「美沙は一方的にも含めて、4度果歩さんと会っているんですね。

正直な感想は、憎かったです(笑)。

 結婚式のシーンでは、健治の前に立ちふさがりますけど、『なんだこの女は!』とほんとうに腹が立ちましたし、怖かったです。もちろん美沙としてですよ(苦笑)。

 猫目さんとはプライベートで仲良くさせていただいているんですけど、この撮影期間に関しては、お互い会うのを控えたし、会話を交わすこともほとんどありませんでした。作品を初めて観たときは、美沙としてしか観られなくて、負の感情が出ましたね。

 果歩さんと洋子ちゃんの羊羹でのシーンで、洋子ちゃんが果歩さんに『お兄ちゃんのこと怒ってないの?』みたいなことを聞くと、果歩さんが『あの女の人は健治が本当に欲しいものを持ってないから』ってさらっと美沙のことを言うんです。それが心底傷ついて、しばらくその傷心は消えなかったです。

 だけど、村田唯として見ると、果歩さんのような女性っていない気もすれば、いる気もしていて、女性として芯が強いなと、あの何事にもぶれない強さは憧れるところがあります。かっこいい女性で自分は敵わないなと思います」

<※第3回に続く>

「おろかもの」ポスタービジュアル
「おろかもの」ポスタービジュアル

「おろかもの」

監督:芳賀俊・鈴木祥 

脚本:沼田真隆

出演:笠松七海 村田唯 イワゴウサトシ 猫目はち 

葉媚 広木健太 林田沙希絵 南久松真奈

12月18日(金)~12月21日(月)シネ・リーブル梅田、12月19日~12月31日 横浜シネマリンにて公開

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)2019「おろかもの」制作チーム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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