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すばらしい才能を秘めた3人の若き女優に出逢う!注目のインディーズ映画「おろかもの」の魅力に迫る

水上賢治映画ライター
「おろかもの」 出演の村田唯(左)笠松七海(中央)猫目はち(右) 筆者撮影

監督も絶賛するすばらしい才能をもった3人の女優に出会う映画「おろかもの」

 結婚を間近に控えた兄が婚約者とは別の女性と関係を続けている現場を押さえた女子高生の妹。兄を軽蔑するようになった彼女が、おなじように軽蔑するはずだった浮気相手の女性となぜか心が通じ合い、破談計画を企てる。

 田辺・弁慶映画祭でグランプリを含む史上初の最多5冠、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019での観客賞など、数々の映画祭で受賞を重ねた、芳賀俊と鈴木祥の共同監督によるインディーズ映画「おろかもの」は、こんな危うい状況に立った女性たちのスリリングな物語が展開していく。

 その作品世界は、最近相次ぐ不倫問題や男性上位の日本社会に言及している、いわゆる社会派の側面もあれば、共犯関係を結んだコンビがちょっとした騒動を企てるというシンプルなクライム劇のようなエンターテインメントとしての味わいもある。芳賀監督と鈴木監督および脚本を担当した沼田真隆は、「フェミズムについて意識」し、「きちんと女性を描きたかった」とも語っていることから女性映画といっても間違いではないだろう。

 でも、最も本作の核心といえる映画のジャンルをあげるとすれば、「女優映画」なのかもしれない。「おろかもの」で、わたしたちは芳賀監督が惚れこみ、「彼女たちで映画を撮りたい」と思わせた3人のすばらしい才能をもった女優に出会うことになる。

 兄の浮気を知る妹、洋子を演じた笠松七海、浮気相手で洋子と共闘する美沙役の村田唯、結婚相手である果歩役の猫目はち。この3人の女優たちに出会う映画であり、彼女たちに当て書きされたこの3名の役に魅入る映画でもある(厳密に言うと、葉媚、林田沙希絵、南久松真奈という女優たちもまたキーパーソンとなって物語にアクセントをつけている)。

 今回、「おろかもの」で三者三様、個性を発揮する3人が集結。彼女たちの言葉から「おろかもの」の魅力を紐解く鼎談を3回に分けてお届けする。

映画「おろかもの」より
映画「おろかもの」より

まだ高校生のとき、芳賀さんが『絶対に七海で映画を撮るから』って言ってくださった(笠松)

 まずは脚本を初めて手にしたときの印象から。3人がそれぞれに演じた役は、ほぼ当て書きと芳賀監督も明かしている。それぞれどんな印象を抱いたのか?

村田「私が最初に手にした脚本は、おそらく第1稿か第2稿で。すでに『美沙役で』とお話をいただいていたので、美沙を中心に読んだところがあるので、あまり物語全体では考えることができなかった気がします。

 あと、3人(芳賀監督、鈴木監督、脚本の沼田のこと)と、日本大学芸術学部映画学科の同期なので、きちんと感想を伝えないといけないと思って。どのようなことを書いたのかよく覚えていないんですけど、いろいろと感想を送りました。

 その中で気になったは、(笠松)七海ちゃん演じる洋子と美沙の関係がどう成立していくか。たぶん普通に考えたら、洋子にとって美沙は兄の浮気相手で、美沙にとって洋子は顔を合わせていいのかわからない交際相手の家族、しかも多感な高校生の妹ですから、なかなか互いを認め合う方向へはいかない。そこをどう成り立たせるのか。

 そこには美沙の気持ちが深く関わってくる。だから、沼田に、ここは美沙としてどういう感情が生まれているのかとか、逆に私の意見もぶつけました。『ここは、こう思うんだけど』と。

 とにかくおもしろいものになるだろうと思ったので、美沙としてどう作品にかかわっていくかをまずは考えました」

笠松「私は、『おろかもの』の前に、『空(カラ)の味』という映画で、芳賀さんと沼田さんと鈴木さんとご一緒してて。まだ高校生だったんですけど、そのときに芳賀さんが『絶対に七海で映画を撮るから』って言ってくださったんです。

 それはとてもうれしかったんですけど、インディーズの映画って、やろうといいつつ、口約束で終わっちゃうこともままあるし、そういう言葉を真に受けちゃダメなこともわかっていました。

 だから、『おろかもの』の脚本が届いたときも、期待半分ぐらいといいますか。まだ、その時点では実現するかわからなかったので、全体像をつかむ感じでフラットに読めた印象があります。

 その中で、私と沼田さんにしろ、私と芳賀さんにしろ、スタッフと俳優部という立場を超えての関係性を築けているところがある。だからこそ脚本の台詞について、現場で色々意見を言えたことはありました」

猫目「私は村田さんと同じで、果歩を演じてほしいと言われてのことだったので。果歩の視点で脚本を読みました。

 第一印象としては、果歩さんて、なんでこんなに素直なんだろうというか(笑)。何事にも動じないでどっしりしているのが、理解できないわけではないんですけど、にしてもすべてを受け入れすぎだろうと思って、沼田さんに『何故こういう行動をするんですか』ということは聞きましたね。そこで果歩の心情について説明を受けて、共感と納得ができました。

 あと、やはり脚本を読んだときよりも演じたときのほうが、脚本の描く物語の世界が自分の中に強い印象として飛び込んできたところがありました。脚本上ですと、恋敵である美沙さんに気がいっているように思ったんですけど、実際に演じていると、むしろ洋子ちゃんの方が気にかかる。

 脚本を読んだときは、美沙とどう向き合うのかと考えていたところがあったんですけど、演じていくうちに、洋子との関係性をしっかりと演じなければならないと思ったところがあります」

個人的には美沙に感情移入。私もああいう負の感情をもった人間なので(猫目)

 彼女たちが演じた洋子、美沙、果歩はそれぞれが主人公と言ってもいい。その中で、芳賀監督らは、男性の理想像を体現したようなキャラクターではない「女性をきちんと描くこと」を目指したと語っている。そのあたりでなにか感じたことはあっただろうか?

猫目「個人的には、美沙にすごい感情移入ができたんです。私もどちらかというと、ああいう負の感情をもった人間なので(苦笑)。きれいごとばかりはいえない。

 そういう点では、男性が書いてる物語で男性監督が描いているんですけど、女性の気持ちをすごく汲み取っている感触はありましたね」

笠松「私自身は、この作品を、そんなにフェミニズム映画とか、女性の映画とかいうふうには捉えていないです。そういうことを意識して現場にいたわけでもない。

 だけど、洋子がいて、美沙さんがいて、果歩さんがいて、あと、林田さん演じる真奈美がいて、葉媚さん演じる小梅がいて、南久松さん演じる吉岡先生もいる。ひとつひとつみていくとやっぱり女性が際立つ映画になっている。女性の心模様をきちんと描いた作品にもなっている。そういう意味では、芳賀さん、沼田さん、鈴木さんが目指された女性映画になったのかなと思います」

映画「おろかもの」より
映画「おろかもの」より

女性だけのものではなく、男性も心が痛くなる映画でもあるんじゃないか(村田)

村田「私が脚本を読んだ段階で、すごく美沙のことを考えて彼女のことを知りたいと思ったのは、やはり脚本自体にひとりの女性としての琴線に触れるところがあったからだと思うんですね。

 どうしても美沙をちゃんと生きたい、生きてあげたいって思うような要素が書かれていたからこそ、自分もなにかできることがないかと考えました

 この映画がフェミニズムについての映画なのかはわからない。でも、それぞれの女性たちの肖像であり、彼女たちの人生をきちんと描こうとしている。それが『おろかもの』だなと思っています

 ただ、私が沼田のシノプシスをもとに、『おろかもの』の脚本をあらためて書いたとしたら、たぶん全然違ったものになる。おそらくもっとドロドロのドラマになるような気がする。

 そういう意味で、『おろかもの』は、女性を理解したいと思う男性が作ったものに、女優たちが加わることで、いい具合にバランスがとれて自然な女性像が描けた物語になった気がするんです。

 一方で、それは女性だけのものではなくて。私は『おろかもの』って、男性が心痛くなる映画でもあるんじゃないかなと思うんです。いろいろな意味で健治とわが身を重ねながら見る方もいるのではないかなと。

 そう感じてもらえるのも、女性の気持ちがきちんと描けているからこそだと思うんですよね。だから、私自身はあまり男性とか女性とか意識させない作品になったのではと思っています」

猫目「村田さんの話を聞いて思いましたけど、私もたぶん書いたら男の人に『怖っ』と思うような方向になると思います。『おろかもの』には、むしろ女性には書けない女性が描かれているかもしれないと思いました」

(※次回に続く)

映画「おろかもの」ポスタービジュアル
映画「おろかもの」ポスタービジュアル

「おろかもの」

監督:芳賀俊・鈴木祥 

脚本:沼田真隆

出演:笠松七海 村田唯 イワゴウサトシ 猫目はち 葉媚 広木健太 林田沙希絵 南久松真奈

12月4日(金)〜12月10日(木) テアトル新宿にて、12月18日(金)~12月21日(月)シネ・リーブル梅田にてレイトショー公開

場面写真はすべて(C)2019「おろかもの」制作チーム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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