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中国で性暴行被害の女性が自殺。原因は警察の不作為か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国では警察官の姿を多く見かけるが(写真は北京の天安門広場)(写真:ロイター/アフロ)

 中国海南省の貯水池で7月下旬、女性の水死体が見つかった。遺体は地元の44歳の農家女性で自殺。女性は性的暴行の被害者で、警察がきちんと捜査をしなかったことが女性を自殺に追いやった可能性が指摘されている。

気分が悪くて休んでいた女性を...

 女性の夫がSNSで経緯を明かし、中国メディアは家族の話なども含め事件を報じている。

 女性は海南省文昌市で夫と農業を営んでいた。1か月ほど前に夫が足を怪我して以来、作業は女性が担うようになっていた。

 7月15日、女性は、家にやってきた作物の買い取り業者の男とお茶を飲んだ。その後、気分が悪くなり男を先に帰らせて作業場で休んでいたところ、戻ってきた男に暴行を受けた。実は、女性はその前にも男からキスされたり胸を触れられたりする被害を受けていた。

 家族がそのことを知ったのは、翌日だった。家族が男に電話をすると男は暴行を認めようとはしなかったが、3千元(約6万円)を補助するという。「何もしていないのになぜ3千元をくれるのか」などと問い詰めると男は電話を切ってしまった。

 男は翌日、女性の家に手土産として飲み物一箱を持ってやってきた。そして1万元(約20万円)を支払うという。家族は1万元を払う理由について書き留めて男にサインをさせると、金は受け取らずにそれを証拠として警察に通報した。

女性の遺書には...

 警察では性的暴行の疑いがあるとして刑事担当に引き継がれたが、刑事担当は証拠が不足しているといって事件化しなかった。男の身柄も釈放してしまった。

 女性が身投げしたのは7月23日。男が釈放されてから3日目だったという。

 女性は手書きで遺書を残していた。そこには男から「警察に親戚がいる」などと脅されていたことも記していた。勇気がなくて早く夫に相談できなかったなどと後悔の念も綴っていた。

「その悪人を殺せないのが恨めしい。法律で自分を守る術を知らない自分が憎い。法律を知らず、証拠を残していなかった」

 女性の死後、警察は証拠が不十分だとして性的暴行について立件しないと家族に正式に通知していた。しかし、家族の訴えやメディアの報道を受けたためだろう、8月26日に事件を改めて捜査し、その結果を公表すると表明した。

 最も非難されるべきは犯人だが、もし警察の不作為が被害者を絶望に追い込んでしまったのであれば、その責任は重く受け止めるべきだ。同様の事態は日本でも起きうる。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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