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中国で32歳の人妻が地方役人に誘われ泳ぎに行き溺死。役人は事実を隠蔽か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国の権力者が守るものは...(写真は北京・天安門)(写真:アフロ)

 中国で地方政府の幹部3人から夜中に誘われ、水泳に出かけた女性が溺れて死亡した。幹部3人は、女性の所持品を川に捨てるなどした上で現場から車で走り去った。全貌は不明だが、庶民の命を軽視する権力者の傲慢さが滲む。

人妻と夜中のランデブー?

 事件がおきたのは湖南省の双峰県。地元メディアによれば死亡した女性は32歳で一児の母。夫は別の省に働きに出ていて最後に会ったのは2か月近く前だった。

 夫らの話によれば、女性は8月6日午後6時頃、県よりも更に下の行政単位である鎮政府の幹部の一人から電話で誘いを受けた。他の幹部2人と共にダムに泳ぎに行くことになった。

 女性は午後8時過ぎ、バイクで待ち合わせ場所まで行き、そこで幹部3人が乗るSUV車にピックアップしてもらいダムまで行った。女性は姑に対しては、娘の同級生の母親と泳ぎに行くと話していたという。

 幹部3人は女性が溺れた後、救命措置を取らず通報さえしなかった。それどころか女性のスマホとバイクの鍵を川に投げ捨て、車で走り去った。その後、警察が通報を受けたのは、幹部3人ではなく近所の人からだった。

なぜ死者の所持品を捨てたのか?

 家族が警察から連絡を受けて女性の死を知ったのは翌7日の午前2時過ぎだった。

 女性の死を受け、女性の姉たちが地元の派出所で幹部3人との面会を求めた。女性を誘った幹部は「完全な事故だった」と言い、スマホやバイクのキーを捨てた理由を問い詰められると「慌てた」などと答えたという。

 夫と姉は口を揃えて、女性が「泳げなかった」と話しているというが、鎮のトップである鎮長は、地元メディアに対し、女性は事故の2日前にも泳ぎに来ていて「泳げないわけはない」などと説明したという。また、女性と幹部が泳ぎに行ったのは「互いに約束し合って」であり、水に入ったのは女性とその1人だけで他の2人は岸から見ていたなどと説明した。3人の幹部が現場の状況を偽装した点については「慌てたからだ」などとも話したという。

庶民の命より保身が重要?

 溺れた女性を放置して死に至らせた3人だけではなく、鎮長でさえも、守ろうとしているのは自身や身内であり、市民の命ではないということがよく分かる。

 分かっている事実は断片に過ぎないが、不自然な点は多い。幹部たちに女性を放置して逃げ出すほどの後ろめたさがあったのであろうと想像せざるを得ない。例え女性が本当に事故で溺れたのだとしても、その命を救おうという努力さえしなかった権力者の傲慢さは否定しようがない。

 警察は調べに乗り出し幹部3人から事情を聞いているという。夫は県の規律検査委員会に通報したという。女性や夫の無念さがあまりに切ない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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