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中国で頻発するデモは下っ端役人のせい?遂にゼロコロナが行き詰まりか

宮崎紀秀ジャーナリスト
コロナ対策で封鎖された建物と防疫担当者(2022年12月2日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 中国政府でコロナ対策を担当する副首相は、現場で防疫措置にあたる人々に対し「予防抑制措置を正確に理解して実行するように」などと注文をつけた。大規模な抗議行動で明らかになった庶民のゼロコロナ政策への不満を認識した発言とみられる。同首相の言動からは、すでにゼロコロナ政策の行き詰まりを認識していることもうかがえる。

防疫措置を歪めるな

 国営新華社通信によれば、中国のコロナ対策を担当する孫春蘭副首相は、12月1日、防疫対策にあたる現場の代表者らを集めて座談会を開き、予防・抑制措置の最適化や調整についての意見を聞き取った。

 孫副首相は、末端で防疫措置に従事する担当者に対し、防疫上の役割の重要性を評価する、と一定の配慮を見せたものの、「政策の学習を強化し、予防・抑制措置を正確に理解して実行に移し、やり方をルール化して歪めないように」などと注文をつけた。

 これは、ゼロコロナ政策に反発して中国各地でおきている抗議行動を意識した発言とみられる。

 実は、中国政府は、先月上旬にはコロナ規制を部分的に緩和している。それは11月11日に発表された「コロナの予防・抑制を最適化する20項目の措置」で、例えば、濃厚接触者に対して要求していた集中隔離7日+自宅隔離3日の行動規制を、集中隔離5日+自宅隔離3日に短縮、他にも感染者が出た場合の隔離範囲を建物単位に限定してそれ以上を含めない、などを指示している。

お偉方のいつもの発想?

 にもかかわらず、中国では最近、首都北京や最大の経済都市上海も含む複数の都市、さらには各地の大学などで厳しい行動制限を伴うゼロコロナ政策への不満を訴える抗議行動が起きている。中には「習近平退陣」などの過激な要求も見られたが、市民の不満の多くは、直接的には各地域レベルで実施に移される理不尽な隔離や封鎖に向けられているとみられる。

 その意味では、孫副首相の発言は、中央政府の指示が末端レベルで正確に実行されていない現状をよく認識していると言えるが、責任を下っ端に押し付けるいつもの発想でもある。下っ端が住民の行動を厳しく管理したがるのは、元はと言えば、これまで何処かで感染が拡大したら、その現場に責任を取らせ、担当者の首をすげ替えるなどしてすすめてきた中国のコロナ対策の特徴がある。

事実上ゼロコロナを転換?

 孫副首相は、その座談会で、効果的な診療の技術や薬ができたこと、国民のワクチンの接種率が90%を超えたこと、さらにオミクロン株の病原性が弱まったことなどを示した上で、「(コロナの)予防・抑制措置を一段と最適化するための条件が整った」とも話したという。

 孫副首相は、前日の11月30日にも感染症の専門家らを集めた座談会で意見聴取している。この場でも、オミクロン株の病原性の弱体化やワクチン接種の普及などに触れ、こう述べた。

「わが国の対策は新たな情勢、任務に直面している」

 いずれも新たなコロナ対策の必要性を認識し、転換を模索していることを示唆する発言だろう。孫首相はこの両日とも、これまでお決まりであった「ゼロコロナ政策の堅持」について言及していない。

 ちなみに孫副首相は、2日に亘った今回の座談会のわずか9日前、11月21日に感染拡大に苦しむ重慶を視察し対策を指示した。その際には「『ダイナミックゼロコロナ』の方針を揺るぎなく堅持しなければならない」とお決まりの文句で従来の方針を強調していた。

 中国は、自国のゼロコロナ政策を優れた体制のみが成せる技とし、日本や欧米などのウイズコロナ政策を無作為と見做してきた。それだけに、防疫方針の転換そのものよりも過去の宣伝工作の呪縛から逃れることの方が難しいのかもしれない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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