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中国がアナウンサーの締め付け強化。IOCバッハ会長と不倫テニス選手との会見を警戒?

宮崎紀秀ジャーナリスト
五輪を前に不都合な事実を警戒?(写真は彭帥選手 2014年9月2日ニューヨーク)(写真:ロイター/アフロ)

 中国当局は、テレビ番組などに出演するキャスターやアナウンサーの管理を強化する方針を示した。テレビやネットの番組、ひいてはエンタメ界への管理強化は最近の流れだが、開催まで10日を切った北京冬季オリンピックを前に、市民への影響力の大きいキャスターたちに中国当局が睨みを利かせる形にもなった。

交流関係を“浄化”?

 その方針とは、中国で国民の思想教育などを担う共産党の中央宣伝部と、放送局などを管理する国家ラジオテレビ総局が2022年1月25日付で出した通知。国家ラジオテレビ総局のホームページ上には本日26日に掲載された。

 通知は、キャスターやアナウンサーらはメディアのイメージを代表し、党の宣伝思想文化事業の重要な力であると位置づけた上で、地方の宣伝部やテレビ局などに対し、キャスターらの教育や管理を強めるよう求めるもの。

 「政治的な素養を培う」として、習近平国家主席が唱えた重要思想を学ばせるなどという、いかにも中国らしい内容以外にも、様々な要求がある。

 例えば、「職業道徳の構築を強化」しなくてはならないとする中には、キャスターらの交際関係や友人関係を“浄化”させなくてはいけない、という件がある。メディアや自身のイメージを損なうような組織や活動に参加させないようにも求める。さらに、身分や知名度を使って不適切な利益を得たり、公開の場で不適切な言論や挙動をしたりしないよう求めた。

相次いだスキャンダルが背景に?

 これは、中国のエンタメ界で相次いだ、強姦事件や巨額脱税事件などのスキャンダルを念頭に置いたものだろう。何気ない言動が、中国の歴史観や台湾政策などに反すると見做されて、“干されて”しまった芸能人らもいた。中国で有名キャスターらの影響力は、人気芸能人に匹敵するだけに、彼らが“緩む”と中国社会にとってもダメージが大きい。

 通知では、キャスターらが社外の社会活動に参加する際などには、事前の審査や届出を経た上に、財務関連や規律上のルールも厳格にするよう求めた。これは不正蓄財や腐敗への牽制だろう。

 また、キャスターらの資格登録制度を厳格に守るようにも求めた。

ネットでの発信強化も

 中国では権威でいえば国営中国中央テレビが圧倒的だが、国民や社会への影響力という点では、ネットメディアや中国版SNSには及ばない。しかも、前者が中国当局の「言いたいこと」を報じてくれるのに対し、後者は、場合によっては中国当局に「都合の悪いこと」も拡散させてしまう。

 その点を意識したのか、今回の通知では、キャスターらが、その影響力をテコにインターネットにおける発信に力を入れ、ネット空間における主要メディアの影響力や信用力を高めるようにも求めている。

IOCバッハ会長が注目される中...

 さて、10日を待たずして北京オリンピックを迎える中国。否応なく世界の目が注がれる。そうした環境では、当局にとって好ましくない状況や情報が噴出する。例えば、すでにIOC・国際オリンピック委員会のバッハ会長が中国入りしているが、世界の注目は、同氏が女子テニスの彭帥選手と面会できるか否かである。彼女は、かつての最高指導部の一人、張高麗元副総理と不倫関係にあったと暴露し、その後、自由を制限されたと見られた。中国における人権侵害の例として、日本をはじめ外国では注目された出来事だが、これまで中国国内ではこの経緯は報じられていない。

 だが、人や情報が入り乱れるオリンピック期間中には、この話さえ何らかの拍子で中国メディアに流出する“危険”がある。これは一例に過ぎないが、そうした“危険”を前に、国内で大きな影響力を持ち得るキャスターらの管理を強めておく対策は、中国においては十分に効果が期待できる。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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