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中国が宇宙から極超音速兵器で核攻撃も台湾統一が目的か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国の圧力を受ける台湾では大規模な軍事演習が行われた(2021年9月14日)(写真:ロイター/アフロ)

 中国が核兵器搭載可能な、極超音速兵器の実験を行っていたという。中国共産党系の新聞は、「世界におけるアメリカの軍事的優位と争うつもりはない」と主張する社説を報じた。では、最新兵器の開発はいったい何のため?

核の搭載可能な極超音速兵器?

 この実験とは、イギリスの新聞「フィナンシャルタイムズ」がアメリカ情報機関の話として報じたもの。中国が8月、核兵器の搭載が可能な極超音速兵器の実験を行っていたという。ロケットで宇宙空間に打ち上げられた滑空体が、低空の軌道を飛んだ後、下降したものの、標的を約30キロ外して着弾したというもの。関係者は、「中国は極超音速兵器において驚くべき進展を遂げており、アメリカの認識よりもはるかに進んでいる」と述べたという。

 この報道について、中国共産党系の新聞「環球時報」が社説で触れた。

でも軍事でアメリカと競わない?

 報道が事実かどうかを論じるのはあまり意味がないとした上で、重要なのは「中国が経済や科学技術の実力を増強するに伴い、重要な軍事技術の領域においては、アメリカと差が縮まり、ひいては、アメリカの能力を超えるものさえ生じるのは、止められない情勢である」と自信を見せた。

 だが、中国はアメリカと“軍備競争”する必要はないと主張する。なぜならば全世界におけるアメリカの軍事的優位に中国は及ばないからだという。

 将来の相当な長期間において、アメリカの総体的な軍事的優位は保たれ、世界中の基地の配置や輸送能力では中国は敵わない、と述べた上でこう続く。

「中国は、世界でのアメリカの軍事上の主導的地位に挑戦する意図はなく、アメリカも世界的な軍事上の覇権を失う心配をする必要はない」

 一方、核戦略については、「アメリカと核軍備で競う気は全くない」のだが、核抑止力を高めることで、アメリカが核を使って中国を脅すようなことをさせないためだ、という。

中国近海では事情が違う

 社説は、世界レベルではアメリカを最強の軍事力をもつ覇権国であると認めて、持ち上げるのだが、中国が軍事的プレゼンスを高めつつある地域では、立場を変える。

「しかし、中国の軍事建設は台湾海峡と南シナ海に焦点を合わせており、地理的な近さや中国が力を入れ続けているために、これらの地域で、中国がアメリカの実力を逆転する優位は必然」

 この点に対して中国社会は強烈に期待しているだけではなく、我々には逆転を実現する決意と行動能力がある、と意気込む。

台湾に軍事圧力を強める中国

 実際に、この地域での実力の逆転の決意を示すかのように、中国は今月に入り、台湾の防空識別圏に頻繁に戦闘機をはじめとする軍用機を侵入させ、軍事的プレゼンスを高めている。

 17日には、中国軍の東部戦区が「全行程を監視し警戒していた」として15日にアメリカとカナダの艦船が台湾海峡を通過したと発表。「アメリカとカナダが結託して挑発し、台湾海峡の平和と安定に深刻な危害を与えた」などと非難し、ここでも「台湾は中国の領土の一部」と改めて主張した。

 先の社説は、中国とアメリカは戦略的な平衡は、両国が作る“安全緩衝地域”にある、とした上で、政治制度が違う大国は、協力してウインウインになれないのか?と問うのだが、アメリカに対し、世界での軍事的覇権の現状維持と台湾問題での譲歩というバーターを迫るかのような本音が透けている。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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