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中国で国民半数がワクチン接種を終えてもコロナ再発。ワクチン頼みの日本の対策は本当に大丈夫か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
感染拡大を受けPCR検査を待つ市民(湖南省張家界 2021年8月12日)(写真:ロイター/アフロ)

 中国では14億人の国民の半数が、すでに新型コロナのワクチンの2回接種を終えたという。しかし、7月下旬から始まった感染の再爆発を抑え込むに至っていない。菅義偉首相は「対応するにはやはりワクチンだ」(8月13日、首相官邸で記者団の質問に対し)と強調したが、中国の実情を知るとワクチン頼みの日本のコロナ対策は「本当に大丈夫なのか?」という疑問が生じる。

ワクチン接種は18億回以上

 中国の国家衛生健康委員会の担当者らによる13日の記者会見によれば、中国のワクチン接種はこれまでに延べ18億3千万回以上に達した。また、すでに7億7千万人以上が2回目の接種を終えたという。中国の人口は約14億1千万なので、数字の上では、国民の半数以上がすでに2回のワクチン接種を完了したことになる。

 中国は、一旦は市中感染をゼロにし、コロナをほぼ抑え込んだとみられた。しかし、7月20日、中国東部江蘇省の南京の空港に端に感染の再発を許し、拡大を止めらずれにいる。

7月下旬より感染再発

 20日以来の感染は、13日の発表によれば前日の24時までに、18の省、48都市に拡がり、感染確認者は延べ1282人を超えたという。

 国家衛生健康委員会の発表によれば、昨日13日の0時から24時まで、新たに確認された中国国内で感染した人は30人。同日24時現在で、感染者は重症者62人を含む1907人に上っている。

 日本に比べれば感染者数は遥かに少ないが、ワクチン接種も遥かに日本に先行した中国で、感染がこのように拡大した事実は見過ごせない。

 中国で感染が再拡大したのは何故なのか?

まず国際空港から感染

 今回の感染の再爆発を許したのは、いくつかの“起爆”ポイントがあったと考えられている。北京の新聞「新京報」の報道などを要約すると次のようになる。

 7月20日に南京の国際空港の清掃員らからPCR検査の陽性反応が見つかった。実は、その10日前にロシアからやって来た飛行機の乗客7人の感染が確認されていた。その際の予防対策が不十分で、汚染された飛行機から清掃員らが感染し、市中感染の感染源になったとみられている。

 この問題について、中国民用航空局の幹部は、防疫対策が長期に亘ったため、現場に気の緩みが生じていたことや、清掃業務が外務委託であったために防疫対策が厳格ではなかったことなどが原因と分析した。

大型公演で集団感染?そして他の都市へ移動?

 東北地方、遼寧省の大連で7月26日と27日に見つかった感染者の行動に共通点があった。辿ると南部湖南省の張家界という都市で催された大型公演を観に行っていたことがわかった。この公演は、3100人を収容できる劇場で1日4回ずつ行われていたが、会場の消毒なども不十分で、観客はマスクをしていなかった。

 後に中国各地で見つかった感染者は、張家界への訪問歴があり、飛行機や鉄道を使った省を跨いだ移動によって感染が拡がった実態が明らかになった。

さらに院内感染も

 河南省の鄭州市では、7月31日の記者会見で、28人の感染者が報告されたと発表した。感染者の急増は、前日にPCR検査の陽性反応が出た患者を収容した病院で、院内感染が起きたためだった。

雀荘とPCR検査が媒介?

 江蘇省揚州市では、感染が広がっていた南京から来た高齢女性が、連日雀荘に通っていた。人の密集する雀荘で遊んでいた高齢者の間で感染が拡がったのが特徴で、当局は当初94人の感染者のうち64%が雀荘と関わりがあったと発表した。そのため、省内の雀荘を全て営業停止にする措置も採った。

 さらにこの揚州市では、35人の感染者が同じPCR検査場に関連していたケースが見つかった。PCR検査が感染を仲介してしまったことが明らかになった。

市民生活を厳しく制限もコロナ再発?

 中国は今回の事態を重く見て、感染を許した地域や施設の責任者らを更迭するとともに、国民生活の点では、移動制限に加え、観光地や劇場の閉鎖という措置も採っている。

 中国では今回に限らず、感染者が見つかった場合には、本人や濃厚接触者の隔離や医学観察はもちろんのこと、感染者が出た地域の住民の外出を禁じ、大規模なPCR検査を実施して感染疑いの者を洗い出すなど、日本と比べればかなり厳しい措置を採ってきた。それに加え、ワクチン接種を国民の半数まで進めていた。

 にもかかわらず、今回のような感染再発を許す綻びが生じた。

日本はワクチン接種だけで大丈夫か?

 一方、強い措置を採らなかった日本では、ワクチン接種を進めることが、結局コロナをコントロールし切れなかった免罪符のように語られ、もはやワクチンに頼るしかなくなったようにも見える。

 菅総理は「8月下旬には、2回目の接種を終えた方の割合が全ての国民の4割を超えるよう取り組み」(7月30日総理会見)と述べ、更に「10月初旬までには国民全員に2回、8割の希望する方に打てるように体制を作っている」(8月13日)と意欲を示した。

 だが、例え予定通りに接種が進んだとしても、ワクチンだけではコロナを克服しきれない可能性を、中国の例は示していないだろうか。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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