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中国メディアにさえ不安がられる日本の五輪コロナ対策の不備

宮崎紀秀ジャーナリスト
選手村にかかげられた中国チームの文字(2021年7月18日東京)(写真:ロイター/アフロ)

 東京オリンピック・パラリンピック大会の開催に向け、日本が採ったコロナ対策は「バブル方式」。海外からの選手や関係者を隔離し、一般市民らと接触させない方法だというが、すでにそのほころびが明らかになっている。自国のコロナ対策に自信を持つ中国のメディアは、中国選手に日本の一般市民が接触してしまった様子を報じ、日本の対策の不備を案じている。

人気選手と記念撮影?

 中国のネットメディア「看看新聞」が報じたのは、7月17日に中国の卓球の選手団が成田空港に到着した際の映像。

 映像は、赤と白のユニフォームを着た中国の選手が数人で連なって、空港ロビーを歩く様子が映っていた。すると白いTシャツや短パン姿の3人の男性が後ろから近づき、その中の1人の選手を挟み込むような位置にまとわりついた。3人はそれぞれ、その選手の顔の前まで携帯電話を持った手を伸ばして、写真を撮り出したように見えた。

 男性の1人は、マスクの上から鼻を出しており、別の1人はマスクをあごまでずり下げているようにさえ見える。

 報道によれば、男性たちは卓球女子の世界ランキング7位で、福原愛さんとも仲が良かったという劉詩雯選手と記念写真を撮ろうとしたらしい。

中国でも人気の劉詩雯選手(中国卓球協会のHPより)
中国でも人気の劉詩雯選手(中国卓球協会のHPより)

 中国選手は到着後、大会組織委員会の引率の担当者に手違いで、バスに乗るまで空港ロビーを行ったり来たりさせられたのだという。その際の一幕だった。

「看看新聞」の女性記者は空港ロビーからこうリポートしている。

「ご覧の通り現場は混乱しています。中国代表団がここを通る時、メディアだけではなく一般の人との距離がとても近かった。大会組織委員会が要求する1、2メートルという距離は全然保たれていませんでした」

 このニュースに対し、中国のネット民から以下のような書き込みがなされていた。

「戻っておいで。中国でも来年オリンピックがある」

「日本もそんなに民度が高い国ではない」

「日本人の民度もひどい。まだ新型コロナがあるのに、マスクを下ろしてどうする。中国チームは安全に注意して」

 中国では一般的に日本人は礼儀正しいと信じられてきただけに、日本人としては大変、残念な出来事である。

隔離なのにコンビニ外出はOK?

 別の新聞「環球時報」の記者は、日本に入国した際の自身の体験を記事にした。7月5日に成田空港についてから、専用のタクシーで隔離先のホテルに到着するまで4時間を要したという。とは言え、空港で準備されていたPCR検査や記者証の有効化などの手続きは、時間はかかったが、スムーズだったと好印象だった。

 ところが、隔離先のホテルに到着した後、説明された対策に不安を覚えている。

 記者たちは規定に従いホテルで3日間、隔離されなければならないが、チェックインを終えた後、大会組織委員会が手配した監督員にこう告げられたという。

「通常の生活ができるように、隔離期間であってもホテルの近くのコンビニにまで行っても構いません。でも1回の外出は15分以内にして下さい」

 このようなルールに対し、記者たちは喜びと心配が半々だと困惑している。

「隔離期間であっても外出できるのは嬉しいが、このような措置なら果たしてどれだけ効果があるのだろうか」

 他にも、コンビニに行ったり、出前を取りに行ったりする際に、ホテルのロビーを自由に通行できてしまう点も、心配のタネとしてあげている。

むしろ日本での感染が心配?

 先に日本入りした中国のセーリングのチームからは、「隔離が不十分」という懸念が上がった。ホテルの宿泊エリアに、他の国から来た選手や一般の客が混在していたからだ。中国チームは「できるかぎり安全を保証するため」、ホテルの一階にまとまって宿泊し、エレベーターの使用で外部の人と接触を避けるようにしたという。このことは中国の国営新華社通信が報じた。

 中国は国内でのコロナの抑え込みに絶大な自信を持っている。PCR検査の頻度や、居住地、職場などでの日常的な管理でさえ、五輪を前にした日本よりも厳格である。私自身も日本に戻る前には、中国人の知人たちから「中国にいた方が安全だよ」と何度も心配された。

 そんな中国のメディアや関係者にとっては、日本にコロナを持ち込む懸念よりも、日本でコロナにかかる心配の方がよほど大きいだろう。

 日本国民のみならず、日本の手腕を注視している世界中の人々のためにも、「五輪株」などと呼ばれる感染拡大が起きないよう祈る。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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