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中国批判の香港新聞が停刊。日本政治家の発言にキレる中国大使館の意図は?

宮崎紀秀ジャーナリスト
最後となった「リンゴ日報」紙を求める香港市民(2021年6月24日香港)(写真:ロイター/アフロ)

 中国に批判的な香港の新聞「リンゴ日報」の停刊に関する日本の政治家の発言を、日本にある中国大使館が改めて非難した。今、このタイミングで中国政府の見解を繰り返す本心は、日本あるいは日本にいる香港市民や中国人に対する「脅し」?

香港のメディア人を新たに逮捕

 香港紙「リンゴ日報」を巡っては27日夜、社説を執筆する幹部の1人、馮偉光氏が新たに香港警察に逮捕された。香港メディアが伝えた。香港国家安全維持法(国安法)の違反、外国勢力との結託の疑いがかけられているという。馮氏は香港の空港からイギリスに向かおうとしていたところだった。

 「リンゴ日報」では、17日に創業者の黎智英氏ら5人が逮捕され、その後さらに1人、今回の馮氏を含めすでに7人が逮捕された。香港警察は、更に捜査が拡大する可能性を否定しなかったという。

 「リンゴ日報」は資産凍結などを受け、停刊に追い込まれた。それに対し、日本の加藤勝信官房長官は、24日、「香港の民主的、安定的な発展の基礎となる言論の自由や報道の自由を大きく後退させるものであり、重大な懸念を強めている」とコメントした。茂木敏充外務大臣も、創業者の黎智英氏らが逮捕された際に、同様の発言をしていた。

駐日中国大使館が日本の官房長官を非難?

「日本側の関連する言論は、深刻な中国の内政干渉」と断じた上、「中国は強烈な不満を表し、断固反対する」と憤った。

 日本にある中国大使館が27日に発表した見解である。加藤官房長官と茂木外務大臣のリンゴ日報の停刊に対する発言について、大使館の報道官がコメントするという形式で、中国語版のホームページ上に掲載した。

 中国大使館は、日本側に「厳正な抗議を申し入れた」こと明らかにした。

 中国政府が日本の政治家の発言を不満に思っていることは、すでに明らかにしていた。

「日本の政治家が公然と香港問題と中国の内政に介入するのは、国際法と国際関係の基本的なルールに厳重な違反」

 加藤官房長官が記者会見上で「重大な懸念」を表明した24日の午後、中国外務省の趙立堅報道官はこう主張した。その上で、不満と怒りを表明した。これが中国政府の立場である。

「日本の誤った言論は絶対に受け入れられない」

「報道の自由は違法行為の口実ではない」と取り締まりを正当化?

「香港は法治社会であり、香港基本法と国安法は香港住民の法に基づく権利と自由を保障し、それには言論と報道の自由も含まれる。しかし報道の自由は違法行為の口実ではなく、反中で香港を混乱させる活動を保護する傘でもない」

 駐日中国大使館のホームページにはこのような見解が続くが、これも中国外務省の報道官が、これまで表明していた立場と基本的には同じ。

 国安法と「リンゴ日報」への取り締まりを正当化している。

 さらに中国政府が香港政府を全面的に支持しているという立場も改めて表明した。

「香港警察は、国家の安全に危害を加える疑いのある個人と会社に対し行動を起こしたものであり、法に基づく犯罪への取り締まり」とした上で、中国中央政府は、香港政府と警察の法に基づく職務遂行を確固と支持する」

なぜこのタイミングか? 

 中国大使館が見解を表明した27日から始まる今週は、中国にとって重要な記念日が並ぶ。中国にとって重要な日は、「敏感」な日でもある。

 6月30日は香港国家安全維持法を成立させてから1周年となる。7月1日は1997年に香港がイギリスから返還されて24周年。それ以上に7月1日は、中国共産党創立から100周年という記念日であり、北京で大規模な式典を予定している。

 香港が返還からわずか20数年でここまで“中国化”したのは驚きだが、これらの記念日に合わせて、“中国化”する香港の現状を憂う、いわば中国にとっての“反体制勢力”が声を上げる可能性は高い。

駐日中国大使館の見解には以下の部分に「日本を含む」という点が加えられていた。

「国安法の実施以来、香港社会は安定を取り戻し、法治の正義が守られ、香港住民、及び日本を含む外国に住む香港市民の様々な合法的な権利と自由がより保障されるようになったのは、客観的な事実である」

国安法で外国人の取り締りも可能?

 国安法の効力範囲は、実は香港領内にいる香港市民だけではない。同法は第37条で、香港の永住権を持つ市民、香港で成立した会社、団体、法人や組織が、香港以外で同法が規定する犯罪を犯した場合も、同法が適用できると定めている。

 また第38条は、香港の永住権を持っていない者が香港以外で香港に対し同法が規定する犯罪を犯した場合も、適応対象になると規定している。

 条文に従えば、外国にいる外国人でさえも、国安法で取り締まられる可能性はある。

 同法が犯罪と規定するのは、大きく分けて4つ。国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託である。これらのことを、計画したり実行したり、そのために扇動や資金援助をするのも犯罪となる。

目的は日本への「睨み」? 

 香港と中国共産党に関わる重要イベントが連なる直前、駐日本の中国大使館が中国の立場を改めて表明した点を考えると、「脅し」効果を期待したのではないかと疑いたくなる。

 日本語を話す民主活動家の周庭氏の影響もあり、強権的に多様な声を押さえ込もうとする香港の現状に対する懸念は日本でも強い。そんな日本の各界から、中国にとって重要イベントを前に、香港民主派への支持、ひいては中国共産党に対する批判の言動が盛り上がるのを牽制しようとしているように見える。

 日本は民主主義を標榜する国家であり、その社会には言論の自由もある。日本の各界や日本で活動する香港市民らに対して脅しをかけようとするならば、それこそ内政干渉である。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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