中国では、昨日12日、旧正月の新年・春節を迎えた。正体がまだよく分からなかった新型コロナウイルスの爆発当初に迎えた昨年の春節とは少々様子が違う。中国当局は、民族大移動と呼ばれるこの時期の人の移動を極力抑え、再流行を防ぐための“秘策”も繰り出した。

今年は里帰りできない?

 中国の人々にとっては、春節の休暇に帰省し家族と過ごすのは1年で最も大事な風習と言っても過言ではない。長期休暇を利用して旅行する人も含め、春節前後に例年延べ約30億人が移動するとされるが、この民族大移動が、新型コロナウイルスの拡散を招いた要因の1つともなった。新型コロナの“震源地”である武漢が都市封鎖(ロックダウン)したのは、去年の春節の2日前だったが、当時の周先旺武漢市長が「(都市封鎖する前に)すでに500万人近くが武漢を離れていた」と明かして、世界を驚愕させた事実がある。今年の民族大移動期は、折しもウイルスの起源解明を目指すWHOの調査チームが武漢に滞在していた期間にも重なった。

 中国政府は、今年、春節はなるべく故郷に帰らず、現住地で過ごすよう呼びかけていた。各地で、帰省しない人へ現金のお年玉や買い物券を配布するなどの措置が採られた。映画のチケットを無料で配る所もあった。

 景勝地では、帰省を諦めその地に留まる人に対し、入場料を無料や割引にする特典を出した。この期間の出勤を奨励する企業もあった。今朝、北京の街を歩いていたら、「帰省しない人優先」と書かれた店員募集の張り紙を見つけた。

 こうした甲斐あってか、鉄道当局によれば、春節前の鉄道での移動に関しては、去年の4割程度に抑えられたという。

「帰省しない人優先」と記された従業員募集の張り紙(2021年2月13日北京:筆者撮影)
「帰省しない人優先」と記された従業員募集の張り紙(2021年2月13日北京:筆者撮影)

去年はゴーストタウンだった北京だが…

 私が生活する北京の状況を振り返ると、1年前の春節では路上にほとんど人がおらず、まるでゴーストタウンだった。帰省して人が減っているのは例年と同じだが、新型コロナウイルスの最初の流行直後だっただけに、恐怖心もあって、人は敢えて街に出ようとしなかった。去年は、更に人の移動を抑えるために、春節の休暇を延長し商店や会社の再開を遅らせたため、閑散とした日々は長く続いた。

 ところが、今年は人の姿が目立つ。大晦日には、年越しの為の食材などを求める人が市場で行列を作っていた。1年前のマスク不足はすっかり克服し、皆、マスク姿だった。

 友人の中にも、恒例の帰省を諦め北京に居残っている人が多い。帰省先でPCR検査の結果の提示などを求められるのもやっかいだが、実は、休暇を終えて北京に戻って来るのが一苦労だからだ。そこには次のような事情がある。

旧暦の大晦日。入場者数を制限していたため市場には長い行列ができた(2021年2月11日北京:筆者撮影)
旧暦の大晦日。入場者数を制限していたため市場には長い行列ができた(2021年2月11日北京:筆者撮影)

北京を守るためなら…

 北京では、来月、中国の国会にあたる全国人民代表大会を控えている。そのため、感染者の流入に神経を尖らせている。他の都市から北京に来る際には、7日以内に受けたPCR検査の結果で陰性だった証明が必要で、北京到着後も14日間の健康モニタリング期間なるものが義務付けられる。その間、人が集まる場所への訪問や集団での飲食を避けなければならないという。さらに、北京到着の7日後と14日後にPCR検査を受け、陰性の結果を示す必要がある。ある友人は、帰省しなかった理由を「面倒くさすぎるから」と述べた。

 取材のため別の都市を訪れ、3日前に北京に戻って来た私も、今は、この健康モニタリング期間に当たっている。

コロナ対策、実は究極の形式主義?

 スーツケースを引いて深夜に自宅マンションに到着したところ、警備員に呼び止められた。荷物を自室に置きに行くことさえ許されず、マンションの管理部門に“出頭”し、手続きをしなくてはならなかった。7日以内に受けたPCR検査の陰性の証明証を写真に撮られた上、北京を離れた日と戻った日、訪問した都市名と更にその下の行政単位、乗った鉄道の座席番号まで届け出た。毎日、午前と午後に体温を測定し、報告するよう釘を刺された。

 こうした手続きに合理的な意味はあまり感じられないが、それを機械的に市民に強制するのが中国式な“強み”でもある。因みに、その時、私を“連行”した警備員は全く聞く耳を持たなかったが、旅行荷物をまず自宅に置いてから届け出の手続きをしても違反にはならない。その点については管理部門の担当者は平謝りだった。

宴会は10人以下で

 新型コロナウイルス2年目の春節を迎えるにあたり、中国はパンデミックの引き金にするような愚挙を繰り返すまいと、ネジを巻き直した。春節で親戚や友人らが集まり、老若男女が混在して飲んだり食べたりするのは、楽しみと同時に中国の伝統的価値観や風習に基づく美徳とさえ考えられている節がある。しかし。先月20日、中央政府の防疫担当当局は記者会見を開き、春節期間の行動自粛を呼びかけ、外食なら2時間以内、親族らの宴会などは10人以下にすべきだなどと指示した。

 これに呼応するように、複数の地方政府は、会食などの“防疫対策破り”があった場合、“密告”を奨励するなどの施策を打ち出した。

楽しいはずの春節も今年は密告に怯える?(2021年2月11日北京:筆者撮影)
楽しいはずの春節も今年は密告に怯える?(2021年2月11日北京:筆者撮影)

“密告”すればお年玉?

 一例を挙げると、新疆ウイグル自治区のテケス県が掲げた対策。

 「公共の場所で、マスクをせずに大勢でおしゃべりしたりタバコを吸ったり、マスクをそこら辺に捨てたりする行為を通報したら200元(約3200円)の報奨」などとする制度を導入した。防疫対策破りの深刻度に応じて、報奨金の額を上げているのが興味深い。

 「自宅隔離期間の者が、勝手に外に出たのを見つけたら500元(約8000円)」「許可を得ずに行われた結婚式や葬式や宴会、麻雀やスポーツなどの人が集まる活動を通報したら1000元(約1万6000円)」など。防疫破りの例と褒賞額を明示している。

 隣人同士に密告させ、政策を徹底させようとするやり方は、中国にとってはそれほど意外感のあるものでもない。

 親族や友人さえ密告する程度に至った文化大革命の陰惨な過去もある。コロナ以前にも、大学の教授の講義内容が、「反政府的だ」などと学生が密告し、教授が処分を受けるなどの事態も相次いだ。

 体制の維持と社会の安定を最優先する中国は、個人と個人の間に醸成される不信感を忌むどころか、むしろそれを利用する。中国政府は、コロナの抑えこみを強調し、1年前に世界へ感染を拡大させたことを忘れたかのように振る舞っているが、再びコロナの大流行を許せば、国際社会のみならず国内からも批判の目が向く。地方政府にしてみれば、その中央政府の目の前で感染拡大を許せば、責任を追及される。

 体制の優位性によってコロナを抑え込めたと喧伝してきたこともあり、中国は密告制度を導入してでも、再流行を許すわけにはいかないのだろう。