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別格の「パリコレ」をご存じ? 超リッチが集まる「モードの最高峰」の実態とは

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
映画『オートクチュール』 2022年3月25日公開!オートクチュールの魅力とは?

ファッションの世界で「モードの最高峰」と呼ばれるのが高級注文服の「オートクチュール」です。一般には流通していないので、身近に感じにくい「高嶺の花」ですが、映画『オートクチュール』は秘密のベールに包まれてきた内側を教えてくれます。今回はオートクチュールの魅力や意味を解説します。

最初に言葉の意味を整理しておきましょう。「オートクチュール(Haute Couture)」の「オート」はフランス語で「高級」、「クチュール」は「仕立て服」という意味。つなげると「高級注文服」となります。

顧客の注文に沿って仕立てる服としては「オーダーメード」が知られています。日本でもスーツ類でおなじみです。しかし、お針子さんがひとつひとつ丁寧に作り上げる手仕事技が冴えるオートクチュールはパーティドレスが主流です。セレブのレッドカーペットがよく知られています。

老舗メゾンだけの歴史が物語る アートと職人技の世界

マリア・グラツィア・キウリが手がける、DIOR 2022年春夏 オートクチュール コレクション
マリア・グラツィア・キウリが手がける、DIOR 2022年春夏 オートクチュール コレクション写真:ロイター/アフロ

オートクチュールは世界のトップレベルのファッションブランドしか手がけていません。具体的には今回の映画に協力した「ディオール(DIOR)」をはじめ、「シャネル(CHANEL)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「フェンディ(FENDI)」など、ごく一握りのクチュールメゾンだけです。アトリエや職人を抱えている必要があり、長い歴史のある老舗メゾンならではの特権と言えるでしょう。

たとえば、2022年1月に発表された「DIOR(ディオール)」の2022年春夏オートクチュールコレクションでは、アトリエ独自の卓越性を表す刺繍で生地に立体感と造形美を演出。コレクションのシグネチャーであるタイツにアートと職人技が交差するような美しい刺繍を施したコレクションを披露しました。

プレタポルテとの違い 顧客リストのスペシャル感

映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

基本的には春夏と秋冬のシーズンごとに新作をパリで発表します。顧客はそのファッションショーを見て、気に入った服を注文するわけです。つまり、ゼロからのオーダーではなく、ショーで披露された新作に基づくカスタマイズになるケースが多いようです。

顧客層の違いも、オートクチュールの特徴です。常識をはるかに超える値段になる事情もあって、顧客は本当に特別な人たち。王族や特権階級、スーパー富豪などが顧客リストに名前を連ねています。分かりやすく言えば、中東の産油国の王族が主な顧客です。近年はロシアや中国の新興企業・財閥のオーナー層も顧客に加わっているといわれます。

ファッションが王様や貴族、富豪向けだった時代には、オートクチュールが基本でした。しかし、1960年代以降に「プレタポルテ(高級既製服)」が登場して、マーケットが広がります。プレタポルテはあらかじめ出来上がった状態の服を売る点で、注文服のオートクチュールと異なります。

今ではプレタポルテのほうがファッションの主流になりました。一般に「パリコレ」と呼ばれるパリ・ファッションウィークで発表されるのも、プレタポルテの服です。オートクチュールはプレタポルテとは別のタイミングで、別の顧客層に向けて発表されています。

プレタポルテを兼ねているブランドではオートクチュールも同じデザイナーが手がけることが多くなります。ただ、顧客層とシーンが異なるので、当然、デザインの傾向が変わってきます。さらに、繊細な作業が伴うので、現場のお針子さんたちの表現力に出来映えがかかってくるところにもプレタポルテとの違いがあります。

映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

オートクチュールが「モードの最高峰」と位置づけられる理由は、極上の素材と手仕事の仕上げにあります。最高品質の素材を贅沢に用いることができ、さらに、手間と時間のかかる製法にもこだわることが許されます。今回の映画では、クリスチャン・ディオール社のアトリエで撮影した、お針子さんたちによる職人技の成果を見ることができます。

多くの作業が専門のお針子さんの手で進められていきます。長年の経験と技術が、どのようにつちかわれて、次世代へ受け継がれていくのかというあたりは、この映画の見どころになっています。

社交シーンにふさわしい、豪華な別格の服飾美

映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

オートクチュールの服をまとうのは、外交やセレモニー、社交界、パーティなど、限られた人たちしか立ち入ることのできない場が多くなります。だから、なかなか一般の目には触れません。でも、例外もあります。たとえば、「レッドカーペット」と呼ばれる、映画の授賞式や開幕イベントがそうです。オートクチュール・ブランドにとっては、お披露目やマーケティングの機会ともなるので、有名俳優がドレスを着る機会が用意されます。

パンツルックやストリートテイストなど、様々な装いが提案されるプレタポルテとは異なり、着る場面が主に社交的なシーンに限定されているオートクチュールでは、大半がドレスです。それもたっぷりと時間をかけて丁寧で豪華な装飾を施した手仕事技の芸術品的な装いが人気です。

ただ、近年は感染症対策の影響があって、派手な社交的イベントは減る流れにあります。会食やパーティを手控える動きも広がっていて、オートクチュールの装いにもこれまでのドレス重視からの変化がうかがえます。パンツを取り入れたルックや、シックなデザインなど、これ見よがしではない、いくらか実用的な装いが増えてきた感じがあります。

クチュール文化の神髄に触れ、審美眼が磨かれる映画

映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
映画『オートクチュール』 (c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

3月25日(金)に公開される映画『オートクチュール』では、引退を間近に控えたベテランのお針子、エステル(ナタリー・バイ)と、彼女に見込まれてアトリエに入ったばかりの新顔お針子のジャド(リナ・クードリ)を通して、アトリエの日々が描かれます。オートクチュールのプロフェッショナルな仕事ぶりには職人仕事へのリスペクトを呼び覚まされます。クリスチャン・ディオール社が保管してきた幻のドレスや創業者のスケッチ画など、貴重なアーカイブが登場するのも見逃せません。クチュール文化の神髄に触れることができる映画です。

オートクチュールの世界は、日常的なファッションとはかけ離れて見えますが、実際にはプレタポルテと同じようにトレンドがあり、時代の変化を映し出してもいます。ダイナミックなデザインが多いだけに、かえってトレンドの動きを感じ取りやすいところも。新たな提案では普段の装いに取り入れやすいようなスタイリングも打ち出されているので、着こなしの参考にも役立ちそうです。

伝統的な服飾文化を見直す流れが強まる中、ファッションを支える職人気質にも光が当たっています。時代を超えた大切なものに関する気づきをもらえるのもオートクチュールの魅力と言えるでしょう。オートクチュールの価値を多面的に伝えてくれる映画を通して、おしゃれやアートについての新発見が得られるかもしれません。

映画『オートクチュール』

https://hautecouture-movie.com/

2022年3月25日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国公開

(c) 2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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