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「女性もオーダースーツ」の傾向なぜ拡大? あえて男性用で仕立てる人も

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
女性のビジネススーツが広がりをみせる(写真:ロイター/アフロ)

働く女性の仕事着がカジュアル化している中でも、きちんとした正統派スーツを着たいと感じる女性も増えてきたようです。管理職やエグゼクティブ層の女性が多くなってきたことが背景にあります。その流れで、男性と同じように、オーダーメードで本格的なスーツを仕立てる人も。女性客からのオーダーを受ける上質サービスも相次いで登場。いわゆるスーツ専門ブランドではない、アパレルブランドやセレクトショップなどにも広がりを見せているのが、近ごろの変化ポイントです。今回はこのような新たな流れのウィメンズ・オーダースーツの新傾向を解説します。

自分だけのオリジナル注文で仕立ててもらうスーツは、納得感が高いから、自然と愛着がわきます。長く着続けやすい点では、物を大事に扱う「スローファッション」にも通じると言えそう。

人気が広がった背景には、従来よりもオーダー手順がわかりやすくなり、初めての人でも気軽に頼みやすくなってきたことがあります。スーツ専業メーカーでは以前から見られたサービスですが、アパレル企業やセレクトショップがそれぞれの強みを生かした提案を始めたことも、ファン層を広げた理由と言えるでしょう。

アパレル企業やセレクトショップが女性向けオーダースーツへ相次いで参入

オーダースーツが気軽に取り入れられる時代に
オーダースーツが気軽に取り入れられる時代に写真:アフロ

■オーダーメードの「KASHIYAMA」、女性専門店が相次いで誕生

グループ傘下に「23区」「組曲」などの有力ブランドを持つオンワードホールディングスは国内アパレル大手の代表的な存在です。子会社のオンワードパーソナルスタイルを通じて、オーダーメードブランド「KASHIYAMA(カシヤマ)」を手がけていて、ウィメンズスーツにも力を入れています。

オーダーを扱う店舗として、日本を代表するオフィス街の東京・丸の内に構える「KASHIYAMAウィメンズ 丸の内店」や横浜駅に隣接する商業施設内の「KASHIYAMAウィメンズ NEWoMan横浜店」を20年に相次いでオープンしました。いずれもウィメンズの専門店で、スーツと靴のオーダーを受け付けています。

目指しているのは「オーダーメードの民主化」。仕上がりイメージがわかりやすいサンプルディスプレイや、女性スタイルガイド(フィッター)による接客などを通して、注文にあたっての不安を解消。靴も約30万通りの中から好みのデザインを選べます。

■パーソナルオーダースーツ「STORY & THE STUDY」、色彩戦略や骨格診断を導入

「EPOCA(エポカ)」や「100年コート」で知られる三陽商会も「STORY & THE STUDY(ストーリー アンド ザ スタディー)」のブランド名で、パーソナルオーダースーツを19年9月から展開しています。

メンズ、ウィメンズの両方で、「イメージコンサルティング サービス」を21年3月から南青山サロンでスタートしました。色彩戦略や骨格診断を使って、顧客の印象をトータルプロデュース。ビジネスシーンでのゴール(目的)達成につながるオーダーを提案しています(来店予約が必要)。

■有名セレクトショップ「STRASBURGO」、リュクスなパターンオーダーイベントを開催

スペシャリティストア(セレクトショップ)の「STRASBURGO(ストラスブルゴ)」は1990年に創業し、30年を超える名店です。以前からスーツに定評があり、ウィメンズのスーツも人気があります。

21年2~3月には東京ミッドタウン店でオリジナルスーツを仕立ててもらえるパターンオーダーイベントを開催。限定でワンピースのオーダーも受け付けました。ジャケットとワンピースのセットアップは新しい着こなしとして関心を集めています。このようなトレンドへの対応が期待できるのは、流行に敏感なセレクトショップならではでしょう。

■「NEWYORKER」、自分好みに仕立ててもらえるパターンオーダーを提供

「High Quality and Basic」のコンセプトを掲げ、時代の空気やトレンドのエッセンスもプラスしたスタイルを提案する、ダイドーリミテッドのブランドが「NEWYORKER(ニューヨーカー)」。生地やモデル、オプションなどを選んで、自分好みに仕立ててもらえるパターンオーダーを提供しています。既製服を選ぶような手軽さはパターンオーダーの強み。

母体のダイドーリミテッドが老舗の毛織物メーカーだけに、生地のバリエーションが多彩です。ブレザー型のトラッド感は「ニューヨーカー」ならでは。ソフトな印象のノーカラー(襟なし)ジャケットも選べます。

■「Brooks Brothers」、女性のためのパーソナルオーダーをスタート

メンズで人気があるパーソナルオーダーを女性にも投入 (画像協力:Brooks Brothers)
メンズで人気があるパーソナルオーダーを女性にも投入 (画像協力:Brooks Brothers)

ジョン・F・ケネディをはじめ、多くのアメリカ大統領に選ばれてきた「Brooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)」には、日本でも多くのファンがいます。以前からメンズスーツのオーダーを手がけていましたが、新たに21年2月から始まったウィメンズのオーダーでも、アメリカンクラシックの伝統を受け継ぐスーツを仕立ててもらえます。

細身のシルエットなので、着たときのシャープ感が際立つのも「ブルックス ブラザーズ」の魅力。袖まくりでの着崩しや、ジャケット単品でのカジュアル使いにも向く新たなスーツです。

「パーソナルオーダー」というサービス名が示す通り、自分好みを追求して、納得感の高い「オンリーワン服」に仕上げられます。デジタル採寸やタブレット注文を用いるサービスが珍しくない中、店頭でプロが手作業で採寸し、相談を重ねながらシルエットを決めていくという伝統的な手順。約600種類の織物から生地を選べるのもいいところ。裏地やボタン、袖先ディテールなどを決めて、オリジナル感の高い着映えに導きます。

オーダースーツをジェンダーレスで提案する「FABRIC TOKYO」

「ジェンダーインクルーシブ」がテーマのオーダーメードスーツ (画像協力:FABRIC TOKYO)
「ジェンダーインクルーシブ」がテーマのオーダーメードスーツ (画像協力:FABRIC TOKYO)

性別にとらわれない「ジェンダーレス」がファッションの着こなしの面でも人気がでています。女性がメンズ服をオーバーサイズで着こなしたり、男性がウィメンズの細身パンツをはきこなしたり。大きなうねりとなる中、性別を問わないオーダースーツの受注も始まっています。

オーダーメードスーツのD2Cブランドを手がける「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」では、メンズパターンのスーツを、性別に関係なく誰でも購入できる機会を期間限定イベントの形で設けています。

一般的なオーダースーツではメンズとウィメンズで別々のパターンを用意しているケースが大半ですが、こちらでは女性体形の方がメンズパターンを選べる仕組みです。「オーダー=ジャストフィット」を覆す発想です。

19年夏に開催した「女性のためのメンズオーダースーツ採寸イベント」が最初の試み。20年からはジェンダーインクルーシブをテーマに、性別を問わずメンズパターンのオーダースーツを注文できる「FABRIC TOKYO think Inclusive Fashion」プロジェクトへ発展しました。

男性の体型データを元にしているので、一般的な女性向けスーツに比べ、直線的なシルエットに仕上がる点が魅力の一つです。日本では体型の違いを理由に、女性がメンズパターンを選ぶことを認めていないところが多いので、貴重なサービスと言えるでしょう。

ファブリックトウキョウ社長室の高橋政裕・広報担当にプロジェクトのきっかけやジェンダーインクルーシブについて話をうかがいました。

Q: どういった方が購入されるのでしょうか?

A: 昔からレディースの洋服が好きになれず、普段着も古着屋通販でメンズの洋服を購入されていた女性体形のお客さまから寄せられた要望が企画のきっかけとなりました。ファブリックトウキョウでメンズスーツを購入する女性は20~30代が中心。オーダーイベントには「仕事でスーツを着る必要があるが、体のラインが強調されがちなレディーススーツが好きではなかった」というお客さまの来店もありました。

Q: 他の女性向けオーダースーツメーカーとはどのような点が異なりますか?

A: メンズとレディースで最大の違いは、スーツを作る際に使われるパターン(型紙)の違いです。具体的な違いは、くびれやラインに強弱を出す「ダーツ(切り込み)」です。男性のダーツは胸元からウエストにかけて、1本細く入っているのに対し、女性のスーツは曲線的なラインを作り出すために、男性よりもダーツが大きく、さらに肩にもう1本多くダーツが入っている場合があります。

Q: 女性スーツの着こなしは今後、どのように変わっていきそうですか?

A: 今後は女性らしさよりも、自分らしさを重要視される方が増えていくと思います。これまでのレディーススーツの「女性らしさ」という表現方法が、現代の価値観にフィットしなくなってきている(違和感を持つ女性が増えてきている)と理解し、顧客一人一人の「らしさ」を引き出す着こなしの提案が求められるとみています。

高橋氏が語ったように、近年は、オフィシャルな場や仕事での制服に関しても、着る人本人のモチベーションが上がるような、自分らしさを取り入れる着こなしが広がりをみせているように感じます。

オーダースーツにも他人目線ではなく、オンリーワンを重視

自分らしさをスーツスタイルでも表現
自分らしさをスーツスタイルでも表現写真:アフロ

今後は他人目線ではなく、自分らしさを重要視するスーツスタイルを選ぶ人が増えていきそうです。自分らしいこだわりを盛り込んだオンリーワンのオーダースーツは、特別感が高いのはもちろん、選ぶ段階から仕上がりを待つ時間までが楽しみになります。

いわゆる、服を購入する以外の体験(コト)消費でもあります。お気に入りのスーツをまとえば、仕事がはかどり、自分のモチベーションも高まりそう。また、ジャケット、ボトムスの単品コーディネートを楽しみやすいので、幅広いシーンでも活用できるのも支持される理由。女性の社会進出を受けた「女性向けオーダースーツ」という新ジャンルはこの先も選択肢が広がっていきそうです。

(関連サイト)

ファブリックトウキョウ https://fabric-tokyo.com/

ブルックス ブラザーズ http://www.brooksbrothers.co.jp/

ニューヨーカー https://www.ny-onlinestore.com/

ストラスブルゴ https://strasburgo.co.jp/

ストーリー アンド ザ スタディー https://www.story-study.com/

カシヤマ https://kashiyama1927.jp/

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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