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カマラ・ハリス氏が新大統領就任式で着たブランドは? 黒人デザイナーを応援

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
就任式直前の行事でも着用(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ファッションリーダーとしても注目を集める、アメリカのカマラ・ハリス副大統領が就任式に臨みました。晴れ舞台での装いからは、様々なメッセージが読み取れると、欧米メディアでは大きな話題を呼んでいます。女性としても黒人としても史上初の副大統領となったハリス氏が大統領就任式で披露したのは、アメリカの黒人新鋭デザイナーが手がけた服でした。

1月の首都ワシントンは寒さが厳しいことから、ジョー・バイデン大統領、ハリス氏の両夫妻とも厚手のコートを着て、会場に現れました。ジル夫人、ハリス氏はマスクと手袋も着けていました。

ジル夫人、ハリス氏はあらかじめ打ち合わせしていたのか、ブルー系で色をそろえ、息の合った間柄をアピール。青は民主党の色です。コートルックの見え具合でも足並みをそろえていました。ハリス氏のほうは紫がかっていて、共和党の赤との融和も感じさせます。

ハリス氏がまとった服はブルーのワンピースとコート。お気に入りのパールは大粒イヤリングとネックレスでおそろい使い。一方、マスクと手袋、パンプスは黒で統一。服と小物の色数を2色に抑えて、厳粛な場にふさわしいシックな雰囲気に整えています。

すっきりしたエレガンスを印象づけていたのは、ウエストを適度に絞ったコート。このようにシェイプを利かせたコートは、「コートドレス」と呼ばれ、それ自体がワンピースのような華やぎとエレガンスを備えています。

マイノリティー人種を応援 黒人デザイナーの2人が手がけた服

夫のダグラス・エムホフ氏と一緒に登場。ドレスのようなきれいにシェイプが利いたコートをまとって
夫のダグラス・エムホフ氏と一緒に登場。ドレスのようなきれいにシェイプが利いたコートをまとって写真:ロイター/アフロ

ハリス氏の着た服をデザインしたと伝えられているのは、ニューヨークを基盤とするクリストファー・ジョン・ロジャーズ(Christopher John Rogers)氏とロサンゼルスを拠点とするセルジオ・ハドソン(Sergio Hudson)氏の2人です。2人とも若手・中堅の黒人デザイナーで、ハリス氏がマイノリティー人種へ送るメッセージが感じられます。

ロジャーズ氏は2020年にCFDA(アメリカファッション評議会)の選ぶ、その年に最も評価された新進デザイナーに贈られる「American Emerging Designer of the Year」を受賞している伸び盛りのデザイナー。南部ルイジアナ州の出身であるところにも、地域間の分断をつなぎ直そうと考える新政権の意識がうかがえそうです。

一方のハドソン氏も南部サウスカロライナ州の出身。現在はロサンゼルスを拠点に活動しています。ファッションデザイナーの勝ち抜きリアリティー番組『Styled to Rock』で優勝し、知名度をアップ。就任式で歌を披露した歌手のジェニファー・ロペスも顧客に持つスターデザイナーの仲間入りを果たしました。

日ごろは「コンバース」のスニーカー(「チャック・テイラー」)を愛用しているハリス氏ですが、さすがにこの日は封印。一方、トレードマークの真珠はこの日も健在で、大粒のデザインが耳と首をダブルで彩っていました。

「分断から協調へ」 アメリカの希望をファッションで表現

晴れ舞台にふさわしいエレガンスと華やかさが融合したデザイン
晴れ舞台にふさわしいエレガンスと華やかさが融合したデザイン写真:ロイター/アフロ

ファーストレディーとなったジル夫人はニューヨークブランドの「Markarian(マルカリアン)」をチョイス。女性デザイナーのAlexandra O'Neill(アレクサンドラ・オニール)氏が2017年に立ち上げた、まだ5年という若いブランドです。

ジル夫人の装いでは、コートに合わせてマスクも手袋もブルー系で統一。服には「スワロフスキー(Swarovski)」のきらめきパーツがあしらわれ、晴れ舞台にふさわしい特別感を寄り添わせていました。

アメリカの新鋭デザイナーを起用するのは、ハリス氏が最初ではありません。オバマ元大統領のファーストレディーだったミシェル夫人は就任式の日の装いを、台湾系のジェイソン・ウー氏に任せ、ウー氏の知名度を飛躍的に高めました。その後もミシェル夫人は国内の気鋭デザイナーを起用して、アメリカンファッションを盛り上げました。今回のジル夫人、ハリス氏の選択は、このミシェル夫人の前例にならって、ファッションで国民の融和を呼びかけたものと映ります。

ちなみに、主役のバイデン大統領は正統派のスーツ姿にコートを羽織って登場。選んだブランドはアメリカントラッドの「ラルフローレン(Ralph Lauren)」。ネイビーブルーで誠実さと手堅さを印象づけていました。

女性2人のファッションから読み取れるのは、多様性を認め、若い力を応援する気持ちです。出身地や人種などのバランスを取って、「分断から協調へ」という流れを強めたいという願いも感じ取れそうです。

(関連サイト)

Christopher John Rogers

Sergio Hudson

Markarian

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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