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コロナ感染不安で家に閉じこもり、フレイルや認知症リスクが高まる高齢者。その実態と対策は?

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
閉じこもる高齢者も訪問リハビリなどの利用はぜひ継続を(写真提供・石浜実花さん)

テレビ漬けになり感染不安を募らせる高齢者

新型コロナウイルスは、感染力の強い変異ウイルスが広がり、収束がますます見えなくなっている。感染予防のための自粛生活はすでに1年以上。早くから、「高齢者は感染すると重症化する」と、繰り返しアナウンスされたため、外出を控え、家に閉じこもっている高齢者は今も少なくない。

それまで利用していたデイサービス(通って利用する介護サービス)をやめる。買物にも散歩にも、友人との会食にも行かない。ずっと家にいて、「今日の感染者数は○人」「感染力の高い変異ウイルスが広がっている」といった、コロナ関連情報をテレビで見続ける。

そんな生活を続けると、どうなるか。

「コロナは怖い」という意識が日々、強化され、不安が募っていく。感染を恐れ、外出へのハードルがますます高くなる。運動する機会も、人と接して会話する機会も減り、気持ちが塞ぎ込んでいく……。

家に閉じこもり、テレビで新型コロナの情報を見続ける高齢者は、感染への不安が強まりやすい(フリー画像)
家に閉じこもり、テレビで新型コロナの情報を見続ける高齢者は、感染への不安が強まりやすい(フリー画像)

在宅より深刻な施設高齢者の機能低下

中には、不眠になったり、生活のリズムが乱れてしまったり、うつが心配される状態の人もいると、香川県高松市で訪問看護ステーションを運営する、作業療法士の石浜実花さんは指摘する。

「機能の低下が目立ち、ひとりで歩けていたのに歩行器が必要になったり、転倒の回数が増えたりしている高齢者は多いですね。寝ている時間が長くなって、幻覚症状が出たり、床ずれができたりしている人もいます」(石浜さん)

在宅の高齢者以上に深刻なのは、面会や外出などが中止になっている施設入所者だ。

「昨年はまだ、『早く外出したい』という声が聞かれていましたが、今は外出しないのが当たり前になってしまって。目標や希望を持てず、意欲が低下しているのを感じます」(石浜さん)

プライマリケア訪問看護ステーション(香川県高松市)を運営する、作業療法士の石浜実花さん(写真は本人提供)
プライマリケア訪問看護ステーション(香川県高松市)を運営する、作業療法士の石浜実花さん(写真は本人提供)

感染予防で外部サービスを受け入れない施設も

高齢者をケアする介護関係者が、行きすぎた感染予防策を取るケースもある。地域の施設でクラスターが発生すると、特に過剰反応が起きやすい。感染を恐れる近隣の施設やサービス付き高齢者向け住宅などが、訪問看護や訪問リハビリテーションなどの訪問を休止するよう求めてくるのだ。

「厚生労働省から2020年4月時点で、コロナ感染を恐れて訪問看護等を中止したりせず受け入れるように、という指示が出たのですが、当時はそれでも受け入れてもらえないところが多数ありました。

リハビリテーションなどが中断すれば、高齢者の心身の状態が悪化してしまう恐れがあります。役所に相談して、再度通知を出してもらったのですが、いまだに2割ぐらいの施設等は受け入れてくれないままです」(石浜さん)

感染予防で、外出も、ボランティアの受け入れも中止。家族等との面会もオンラインのみなど、制限している施設は多い。コロナ以前、様々な人が外からの空気を持ち込んでいた平時とは、比べようもない状態だ。

少なくとも、訪問看護、訪問リハビリテーションなど、心身機能を維持向上させるためのサービスの受け入れは必要だろう。

訪れる人がなく、入居者が接するのは職員だけという老人ホームでは、外からの空気が入らずどうしても刺激が乏しくなる。その状態が続けば、入居者の意欲や心身機能は低下してしまうことも(フリー画像)
訪れる人がなく、入居者が接するのは職員だけという老人ホームでは、外からの空気が入らずどうしても刺激が乏しくなる。その状態が続けば、入居者の意欲や心身機能は低下してしまうことも(フリー画像)

「県外からの家族来訪でのサービス拒否は不可」の厚労省通知

県境を越えて来る別居家族がウイルスを持ち込まないかと、恐れる介護関係者も多い。

日本介護クラフトユニオンが、2020年11月、介護事業所を対象に実施した調査でも、「利用者の家族が県外に行くと2週間サービスを休止にしている」「遠方からの家族の来訪がある利用者のサービスに入りたくないと職員が言う」などの回答が見られた。

「感染拡大地域からの来訪者と接触した」「濃厚接触者と接触した可能性がある」というだけで、サービス提供を休止する介護事業所があるのだ。

これを重く見た厚生労働省は、2021年2月、「感染が拡大している地域の家族等との接触があり新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由にサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由には該当しない」と通知した。

1年以上、感染リスクと戦い続けている介護事業所の苦労は察するにあまりある。しかしそれでも、求められている役割はしっかり果たしてほしい。

自粛が明けたとき高齢者は楽しみを取り戻せるのか

新型コロナの感染状況の収束が見通せない中、高齢者はどう過ごすべきだろうか。

筆者は週1回、心理士としてクリニックで勤務しているが、先日、高齢の患者が、「ずっと旅行にもどこにも行けていない。このまま(体が動かなくなって)どこにも行けないままにならないだろうか」と不安を訴えていた。

これは、人によっては、現実になる恐れのある不安だ。

筆者は旅行に行きたいという高齢者に、「感染リスクがあるから」というだけで旅行の中止を求めるのはいかがなものかと考えている。感染リスクを考慮せずに自由に旅行すればいいということではない。リスク、得られるメリットのどちらが大きいかを、よく考えて判断する必要があるということだ。

人生の終末が遠くはない高齢者にとっての自粛生活は、先の長い若者にとっての自粛生活とまったく意味が違う。今、しなければ「できなくなる」ことがあるかもしれない。高齢者自身も家族も、そのことはよく考えてみてほしい。

一方、今は積極的には外出したくないという高齢者も多いだろう。そして、心身の状態から、出かけたくても出かけられないという高齢者も。

そうした人たちはどう過ごせばいいだろうか。

今年は旅行どころか、花見にも行かなかった、という高齢者も多いのではないか(フリー画像)
今年は旅行どころか、花見にも行かなかった、という高齢者も多いのではないか(フリー画像)

普段の生活から少しずつ行動を変えていく

前出の作業療法士、石浜さんは、訪問リハビリテーションで、感染予防とフレイル(加齢による心身の虚弱化)予防を両立したサービス提供を行っている。

感染を恐れるあまり、散歩に行くのもやめたという高齢者には、マスクを付けて、自宅周辺を散歩することの提案からスタートする。そこから?と思うかもしれない。しかし、感染不安が強い人の場合、その不安を取り除いて行動を変えるには、粘り強い働きかけと時間が必要だ。

家庭菜園をしていた高齢者には、菜園での作業の再開を提案。家でできる体操を提案し、家族も巻き込んで、一緒に体操してもらったり、声かけ役を担ってもらったりすることもある。散歩も体操もしたくないという高齢者には、家の中での役割を何か担うよう働きかける。

「ゴミ出しでもなんでもいいんです。普段の生活から少しずつ行動が変わっていった方は、1年経ってみると、機能の低下が抑えられていると感じます」(石浜さん)

外出してアップダウンのある道を歩き、階段を上り下りするだけで、機能低下の予防には効果がある(フリー画像)
外出してアップダウンのある道を歩き、階段を上り下りするだけで、機能低下の予防には効果がある(フリー画像)

脱水で命の危機寸前。独居高齢者のリスク

作業療法士や理学療法士、看護師などの医療職が定期的に訪問する効果も大きい。家族だけでは気づけないことが、意外にあるからだ。

「近所に住む娘さんが毎日来てくれているのに、睡眠薬がなくなり、不眠が続いていることを言えていないケースがありました。人によって、言えない、言わない、言うのを忘れてしまうなど、家族に伝わらず、気づけない原因はいろいろあります」(石浜さん)

何かあっても、身近に気づける人がいない一人暮らしの高齢者はさらに心配だと、石浜さんは言う。

「尿が出ないからと前立腺の専門医に診てもらったら、前立腺は異常なしと言って帰された、一人暮らしの男性がいました。たまたま、うちの事業所の関係者だったので介入できたのですが、訪問してみたら肌がカサカサで吐き気も出始めていて、水も飲めない状態。脱水です。もう少しで命の危機に陥るところでした」(石浜さん)

この男性は要介護認定を受けず、自立した生活を送っていた人だ。コロナ以前、食事はいつも近隣の飲食店で摂っていた。

「それが、時短営業になったり、感染が心配で外食を控えたりしているうちに生活リズムが乱れ、食事も水分も摂れなくなっていたのです。今、こういうことがあちこちで起きているのではないかと、本当に心配です」(石浜さん)

石浜さんは、付き合いのあるケアマネジャー(介護サービスのコーディネート役)たちに、「感染不安から家に閉じこもっている高齢者で心身の状態が心配な人がいたら、作業療法士として無料で確認しに行く」という提案をした。すると、20人近くを訪問することになり、継続して訪問する必要がある人も多かったという。

うちの親は大丈夫か。そんな不安がよぎった人もいるのではないか。

離れて暮らす高齢の親にかけるべき言葉は

離れて暮らす親に、「コロナ感染が怖いからできるだけ外出しない方がいいよ」と電話で伝えている人もいるだろう。そうした気遣いは良いのだが、「その声かけだけではかえって危ない」と、石浜さんは言う。

家に閉じこもり、前述の男性のように脱水を起こす可能性もある。また、例えば高血圧の薬がなくなったのに、感染を恐れてかかりつけ医を受診せず薬が切れたままになれば、高血圧から脳卒中を起こすリスクも出てくる。

「外出しない」ことによるリスクも、よく考える必要がある。

「高齢の方は、子どもさんから『変わりない?』と聞かれると、何かあったとしても『変わりないよ』と答えることが多いものです。そうではなく、『体調はどう?』とイエス・ノーでは答えられない聞き方をしたり、『眠れてる?』『今日の薬は飲んだ?』など、具体的な質問をしたりすれば、体の状態などがわかりやすいと思います」(石浜さん)

感染の不安から受診を控え、体調を悪化させている高齢者が心配だ(フリー画像)
感染の不安から受診を控え、体調を悪化させている高齢者が心配だ(フリー画像)

孫世代も高齢者と声を掛け合う意識を持って

石浜さんはまた、孫世代にも祖父母たちとつながることを意識してほしいという。

「大学で学生たちに話をする機会があったのですが、話してみると、多くの学生が高齢の祖父母を心配しているんですね」(石浜さん)

しかし、心配するだけで何もしていない学生がほとんどだったと石浜さんは言う。

「電話でも、テレビ電話でも、祖父母と暮らす親族から伝えてもらうのでも、なんでもいい。『心配していたんだよ』と言ってほしいと話しました。孫からの言葉を受け取るだけで、高齢者はどれほど元気づけられるか」と、石浜さん。

孫を生きがいのように思っている高齢者は少なくないのだ。

学生自身、オンライン授業が続き、孤独感や閉塞感を感じている人は多い。まだまだコロナ禍は続く。多世代で互いに声を掛け、つながることで支え合い、乗り切っていきたい。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士として神経内科クリニックの心理士も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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