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埼玉・入間市発の「焼肉ホルモンたけ田」が店舗を拡大中。その驚きの訳とは

三輪大輔フードジャーナリスト
(提供:株式会社ミナモト)

焼肉ホルモンたけ田の成り立ち

ゴールディンウィークを境に、久しぶりに居酒屋に人が戻ってきた。実際、5月のビール大手4社の業務用ビールの販売は3倍以上に増加。依然として、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年の水準には届いていないものの、ここ2年と比べると劇的に状況は改善している。

ただ全ての飲食店に人が戻って来ているわけではない。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などが解除された後も客足の戻りが早かったのは、普段から常連客の多い店だった。それはつまり料理やサービス、雰囲気など、行くべき理由のある店である。株式会社ミナモトの展開する「焼肉ホルモンたけ田」も、そうした店舗の一つだ。コロナ禍で急速に店舗を増やしており、いずれの店も連日行列を成している。

オープン日をはじめ、街で話題となる同店は行列になる日も多い(提供:株式会社ミナモト)
オープン日をはじめ、街で話題となる同店は行列になる日も多い(提供:株式会社ミナモト)

同社は2010年に、埼玉県の南西部に位置する入間市で創業した。入間市は人口15万人ほどの都市で、東京都に近接していることもあり、通勤や通学はもちろん、遊びに行く際も都内まで行ってしまう人が多い。その中で同社は、入間市を中心に「和食居酒屋もへじ」や「産直酒場おかめ」などの店舗を展開し、限られたマーケットでしっかりとリピーターをつくる戦略で存在感を発揮してきた。

注力してきたのは、大手チェーンができないことの徹底だ。多業態でドミナント展開を行い、エリアの食の需要を全て取り込むとともに、サービスにも手数を掛けてとにかくお客に喜んでもらうことに力を注いだ。そうした取り組みがリピート需要につながり、地域になくてはならない店を作り上げてきた。いわばリピーターづくりのスペシャリストといっても過言ではい。そのノウハウは、焼肉ホルモンたけ田にも注ぎこまれている。

2021年12月には辻堂店(神奈川県藤沢市)もオープン(提供:株式会社ミナモト)
2021年12月には辻堂店(神奈川県藤沢市)もオープン(提供:株式会社ミナモト)

飲食店や小売店で会計やオーダーをする際、スタッフのサービスに不満を覚えた経験はないだろうか。その原因の多くは、深刻な人手不足にある。人手が少ないので、一人当たりのスタッフの業務負担が増え、肝心な顧客とのコンタクトが疎かになってしまうのだ。そこでミナモトでは少ない人手でも高いサービスレベルが維持できるだけでなく、従業員の待遇を向上させながら、客にも喜ばれる業態を模索。こうして出来上がったのが焼肉ホルモンたけ田だ。だからこそ、同店の売りは何といってもサービスに他ならない。温かで親しみがあるのはもちろん、気遣いの行き届いたサービスを提供しているとあって、同店には家族連れの姿も目立つ。

サービスのレベルの高さが焼肉ホルモンたけ田の強み(提供:株式会社ミナモト)
サービスのレベルの高さが焼肉ホルモンたけ田の強み(提供:株式会社ミナモト)

客も従業員も幸せにする業態

同店はオペレーションを簡略化し、アルバイト中心のシフトを組めるからといって、肉のクオリティが低いわけではない。むしろその逆だ。同店は大手肉卸と提携し、提携工場でホルモンや正肉などを下処理した後、カットから真空パック、リキッド瞬間凍結まで行う。昨今、冷凍技術の進化が目覚ましく、解凍した後も肉の細胞膜が壊れず、うま味が逃げることがない。テクノロジーをうまく活用しているからこそ、おいしい肉の提供が可能なのだ。

また、同店ではメニュー開発会議も週に数回開催し、常に商品のブラッシュアップに取り組む。こうした企業努力を重ねた結果、焼き肉やホルモンの価格がほとんど380円というリーズナブルな価格を実現している。

最新の技術も活用し、品質の高い肉をリーズナブルに提供している(提供:株式会社ミナモト)
最新の技術も活用し、品質の高い肉をリーズナブルに提供している(提供:株式会社ミナモト)

それに加えて、卓上サーバーだ。同店では、各テーブルにサーバーが設置されていて、60分500円でレモンサワーが飲み放題となっている。ここ最近、卓上サーバーを設置した焼き肉酒場業態は多い。しかし、関東でこうしたスタイルの店を初めて出店したのは、同店だとも言われている。

テクノロジーの活用でうまく省人化を実現し、たくさん食べて、飲んでも会計は一人3000円に収まるように設計されているので顧客満足度は高い。

卓上サーバーは集客装置としても機能しており、多くの客から好評を博す(提供:株式会社ミナモト)
卓上サーバーは集客装置としても機能しており、多くの客から好評を博す(提供:株式会社ミナモト)

同店はアルバイト中心でシフトが組めるため、高い収益性も実現できる。現在、人手不足やアルバイトの時給の上昇などにより、外食業界ではここ数年人件費の高騰が続く。その中で、同店はアルバイトだけで回せる簡単なオペレーションを構築し、厳しい競争環境の中でも確かな存在感を放つ。

しかし、同店の目的は省人化による収益アップではなく、「従業員の待遇を向上」にある。それに関して同社代表取締役の細田源太氏はこのように話す。

業態の意義について語る細田源太氏(提供:株式会社ミナモト)
業態の意義について語る細田源太氏(提供:株式会社ミナモト)

「私たちが焼肉ホルモンたけ田で目指したのは、従業員のQOLの向上です。作業の負担を減らし、待遇を向上させた上で、従業員たちが日々の生活や人生に豊かさを感じられるように業態を設計しました。その実現には、会社として原資が必要です。そこでこれまで以上の売上をつくれるように、チェーン展開できる業態につくりこんでいます。

現在、焼肉ホルモンたけ田は、全国で22店舗展開していて、そのうち18店舗がフランチャイズです。狭小マーケットでも成り立つことから地方でのニーズも高く、問い合わせ件数は増加しています。客単価3000円で良質なお肉が楽しめる焼き肉店というポジショニングで、今後も店舗を広げていきたいですね」

コロナ禍が長引いているからこそ、同店のようなサービスを提供する飲食店の価値は上がっている(提供:株式会社ミナモト)
コロナ禍が長引いているからこそ、同店のようなサービスを提供する飲食店の価値は上がっている(提供:株式会社ミナモト)

コロナ禍で一等立地の考え方が変わった。人流が変わった結果、駅前やビジネス街といった立地ではなく、住宅街に近い立地などでも勝負していかなければならない。そこで大切になるのがリピーター戦略だ。そうした背景もあって、焼肉ホルモンたけ田の快進撃はもうしばらく続いていきそうだ。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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