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賠償命令で“脱”食べログが進むか!? 食べログの功罪をグルメサイトの歴史から考える

三輪大輔フードジャーナリスト
(写真:アフロ)

食べログの裁判の経緯

6月16日、東京地裁はグルメレビューサイト「食べログ」のアルゴリズム変更が独禁法違反に当たると認定し、3840万円の賠償を命じた。同裁判では、焼き肉チェーン「韓流村」の運営会社が、食べログを運営する株式会社カカクコムに対して「チェーン店であることを理由にアルゴリズムを不当に変更されて評価点を下げられた」として、約6億3900万円の損害賠償などを求めていた。

判決では「アルゴリズムの一方的な変更は優越的地位の乱用を禁じた独占禁止法に違反する」と判断され、同様の裁判が多数起こるのではないかと、大きな関心が寄せられている。今回の判決の意義をグルメサイトの歴史を踏まえて、解説していきたい。

グルメサイトの歴史

これまでグルメサイトの勢力図は、数年単位で大きく入れ変わってきた。その歴史を2000年代、2010年代、現在の3つのフェーズに分けて見ていく。

まず2000年代の主役は「ぐるなび」と「ホットペッパー」の二つだった。ぐるなびは株式会社ぐるなびが運営するサービスで、1996年からWEBでサービスを提供しており、その歴史はかなり古い。一方の「ホットペッパー」は、株式会社リクルートが発行するクーポンマガジンとして2000年に創刊された。当時、アフレコのテレビコマーシャルが話題を集めると、クーポンでお得に飲食店を楽しむ文化をつくり上げて一時代を築く。2005年にはWEBサービス「ホットペッパーグルメ」を開始したり、スキームを横展開して「ホットペッパービューティー」をリリースしたりと、今なおその影響力は強い。

2000年代に「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感が高まった理由は、ワタミ、モンテローザ、コロワイドの「居酒屋新御三家」の存在と深い関係がある。各社の代表的なブランドの「和民」や「笑笑」「甘太郎」はいわゆる「総合居酒屋」と呼ばれており、駅前の一等地に大型店舗を構え、サラダや刺身、焼き鳥、揚物、つまみ、ご飯ものなど、幅広いメニューを提供しながら多様な客のニーズに応えていた。

総合居酒屋の成長に合わせて「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感も高まった
総合居酒屋の成長に合わせて「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感も高まった写真:アフロ

しかし、総合居酒屋は駅前の一等地なので家賃が高いのはもちろん、大型店舗なのでスタッフをたくさん抱える必要があったり、さらにメニューが多いので仕入れ数も膨大だったりと、損益分岐の高いビジネスモデルだった。そうした弱点を補うため、生命線になっていたのが宴会ニーズに他ならない。あらかじめ予約で宴会が入ると売上の見込みが立てやすいだけでなく、コースが主流なので仕入れのロスが少なくなったり、必要なスタッフの数の予測がたったりと、効率的な店舗運営が実現する。つまり、いかに宴会ニーズを取り込めるかが総合居酒屋の命運を握っていたのだ。

それを実現したツールが「ぐるなび」と「ホットペッパー」だ。それを活用しているかどうかで集客に差が生まれるため、総合居酒屋の経営に欠かせない存在として両サービスは急成長を遂げた歴史を持つ。

ところが、2010年代に入るとマーケットは大きく変化する。特に大きな変化が2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災だ。リーマンショック後、デフレの深刻化に合わせるように三光マーケティングフーズの「金の蔵Jr.」などの単一価格で勝負する激安居酒屋が台頭した。

リーマンショックで起きた世界金融危機は、外食業界にも大きなダメージを与えた
リーマンショックで起きた世界金融危機は、外食業界にも大きなダメージを与えた写真:ロイター/アフロ

しかし、東日本大震災が起きると状況がまた変わり、今度は原発事故を経緯に食の安全への意識が一気に高まり、飲食店の専門店化が進む。そこで存在感を高めたのが「鳥貴族」や「串カツ田中」「ダンダダン」といった専門チェーンだ。

また、東日本大震災では人々の絆や、地元回帰などの動きもあり、大衆酒場や横丁など、古き良きものが再注目された。そうした社会環境の変化に合わせて、宴会ニーズを取り込む「ぐるなび」と「ホットペッパー」の存在感が低下。変わって覇権を握ったのが株式会社カカクコムの運営する「食べログ」だ。

東日本大震災は社会を大きく変え、飲食店に求められるものも変化した
東日本大震災は社会を大きく変え、飲食店に求められるものも変化した写真:ロイター/アフロ

食べログは2005年からサービスを開始しているが、それを本格化したのは2009年だ。同年2月に申込店舗数が1万店突破。それを契機にして有料サービスを開始すると、飲食店の専門店化の流れを受けて急成長を果たす。しかし、ここ数年、食べログは飲食店経営者からの評判がよくない。ユーザーから投稿されたレビューの削除が難しかったり、店の意思とは無関係に店舗ページを作られてしまったりと問題が山積していたのだ。中には心ないユーザーからの投稿で、店の売上が激減してしまったケースも少なくない。

そうした背景もあり、近年、徐々に存在感を増しているのがRetty株式会社の運営する「Retty」だ。Rettyは口コミサイトであるが、その投稿はすべて実名である。どういったバックグラウンドを持つユーザーが、どんなお店を評価しているかが分かるため匿名よりも信頼性は高い。2020年10月にはマザーズへの上場を果たし、その存在感を高めている。

これからのグルメサイト

コロナ禍では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返されたこともあり、外食の絶対数が減った。その結果、集客以前の課題となり、グルメサイトの解約が相次いだ。

コロナ禍の行動変容で外食の絶対数が減り、飲食店の在り方が変化した
コロナ禍の行動変容で外食の絶対数が減り、飲食店の在り方が変化した写真:ロイター/アフロ

一方で、コロナ禍に関係なく、ここ数年、グルメサイトを活用した集客が敬遠されていた背景もある。原因は費用対効果の低さだ。グルメサイトは高い掲載料を払っても、確実に集客ができるとは限らない。加えて、掲載料金だけでなく、グルメサイト経由で予約があった場合、送客手数料も取られるなど費用の負担が重たくなってしまう。代わって存在感を高めているのが、Twitterやインスタグラム、TikTokといったSNSや、Googleなどの検索エンジンだ。中でも無料で運用できるとあって、多くの飲食店がGoogle マイビジネスを活用したGoogle検索に注力している。

そうした市場環境の変化に合わせて、グルメサイト各社は収益の柱を多様化させ、飲食店の経営のサポートに重きを置いた取り組みを行う。例えば、ぐるなびは、店舗開発事業や飲食店向けの業務用ECサイトの運営など、そのサービスの展開の幅を広げている。リクルートもAirレジやAirペイなど、店舗業務をサポートするサービスの展開に力を注ぐ。そしてRettyも「Retty Order」というモバイルオーダーサービスを2021年4月にリリースしている。

原価の高騰もあり、現在、いかにコストをかけずに集客するかが重要になっている
原価の高騰もあり、現在、いかにコストをかけずに集客するかが重要になっている写真:ロイター/アフロ

外食の絶対数が減った今、飲食店で重要になっているのがリピーターだ。実際、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が明けた後、客足の戻りが早かったのは、常連の多い飲食店だった。そこで多くの飲食店が顧客体験価値を高め、リピーターづくりに苦心している。グルメサイト各社は集客だけでなく、時代に合わせた変化がうまく実現するように、さまざまなサービスの提供を通して二人三脚でサポートを行っているともいえるだろう。

その中で、食べログだけは別のポジショニングを取っていた。グルメレビューサイトの運営を通して、店舗をただ評価するというポジションを貫いてきたのだ。そうした姿勢を受けて、「店作りをサポートしてくれないだけでなく、店の集客にマイナスの影響を与えるレビューも放置する」と、食べログを毛嫌いする経営者が増えても仕方がない一面はある。しかも点数の根拠がブラックボックスとなっているので、そのストレスは大きい。

常連客の多い飲食店ほど、コロナ禍をうまく乗り切れている
常連客の多い飲食店ほど、コロナ禍をうまく乗り切れている写真:イメージマート

確かに、食べログは、名店の掘り起こしに役立った。飲食店の魅力に触れられる機会が増えると同時に、キャッチ居酒屋などの被害も減るなど、果たした功績は大きい。しかし、近年、某有名レビュワーが飲食店から接待を受けていたことが問題になるなど、その点数に対する信憑性が疑問視されていた。

カカクコムは、東京地裁の判決を不当とし、東京高裁に控訴した。最終的にどのような判決が下され、それに合わせて食べログがどのように変わっていくのか。寄せられる関心は高まっている。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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