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「スパーリングは180ラウンド以上やっている」。井上尚弥に牙をむく実戦派ネリ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
最新のF・サルダール戦で2回TKO勝ちしたネリ(写真:サンフェル・ボクシング)

正味3ヵ月の特訓

 開始ゴングが待ち遠しい井上尚弥(大橋)vs.ルイス・ネリ(メキシコ)のスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ。一方で5月6日、東京ドームで鳴るゴングが“怖い”という見方をするファンや関係者さえいる。その一人が井上の米国の共同プロモーター、ボブ・アラム氏(トップランク社CEО)。そこに緊張感の高まりを感じる。勝敗予想が大きく井上に傾く中、米テキサス州エルパソで特訓中のネリと陣営に携帯電話でアクセスしてみた。

 1月半ば、地元メキシコ・ティファナでネリをアマチュア時代から情熱を込めて指導してきたイスマエル・ラミレス・トレーナーに聞いたところ、ネリは2月初めからエルパソで始動するということだった。だが、すでにその時点でエルパソに移動して動き始めていたようだ。そしてラミレス氏も2月初旬から同地へ移ってネリをサポートしていた。現地では「ダイナミス・フィットネスジム」を主宰するザミール・ロサノ氏とラミレス氏がネリを監督している。

 3月中旬、ロサノ氏にインタビューした時、山中慎介との第2戦でネリは調整に問題があったと同氏は明かした。それに比べると今回は日本へ旅立つまで正味3ヵ月と長期の準備期間が設けられた。ネリと陣営が並々ならぬ意気込みで井上戦を捉えている様子がわかる。陣営と一軒家を借りて調整に励むネリは、これまでティファナへ一度戻っただけでトレーニングに没頭しているとのこと。今月初めフェイスブックに投稿された映像を見ても引き締まったボディーと精悍な表情からフィジカル的にもメンタル面でも大一番に臨むネリの真摯な姿勢が計り知れる。

1日あたり12から14ラウンド

 順調な仕上がりぶりをうかがわせるネリにスパーリングのラウンド数を聞いてみた。すると「トータル・ラウンド数は正確に憶えていない。でも1回(1日)あたり12ラウンドから14ラウンド行う日もあるから180ラウンド以上やっていると思う」という返事が返ってきた。3日前のことである。

 ちなみにロサンゼルス合宿を行う3階級制覇王者で現WBC世界バンタム級王者中谷潤人(M.T)は筆者がジムで取材するたびに「もう200ラウンドを超えていますよ」と平気で言う。だから180という数字はそれほど驚きではない。またスパーリングをこなせばこなすほど実力が向上するとは言えない。調整段階で思惑通りに相手が確保できず、最低のラウンド数で試合に臨んで快勝してしまう選手もいる。スパーリング過多が災いしてリングで力を発揮できない者さえいる。

 それでも日本のメディアによると、昨日公開練習を行った井上は、その時点でスパーリングは87ラウンド、最終的に100ラウンドを超えると明かした。ネリは4月8日の時点で、井上をほぼ100ラウンド超えていたことになる。もしかしたらこれはハッタリではないかとも受け取れるが、もちろん連日ではないにしても1日12ラウンドから14ラウンドもこなせば、軽くその数字に達するだろう。

 やはり今回のネリは山中との第2戦の時より間違いなく気合いが入っているし、4本のベルト奪取にただならぬ執念を燃やしている――と見るのが正解のようだ。

 どうしてもスパーリングパートナーについて聞きたくなったので、しつこくたずねたが「主に3,4人を相手に行っている。全部アメリカ人で、オリンピック選手もいる。できるだけパンチがある若い選手を選んでもらった。名前は憶えていない」とかわされてしまった。スパーリング相手からも情報をゲットしようとしたが失敗に終わった。

ジムで特訓に励む”パンテラ”ネリ

ネリはやっぱりネリ。ビッグマウス復活

 海外の選手、とくに中南米のボクサーはスパーリングを重ねてコンディション調整に励む傾向がある。メキシコやプエルトリコでは1ラウンド4分のスパーリングで鍛える選手も少なくない。さすがにネリは1ラウンド4分のスパーリングは行っていないようだが、実戦派タイプのボクサーであることは間違いない。

 そしてどこまでも強気だ。「俺にはパワーがある。イノウエとも強打の応酬に持ち込んで倒したい。同時に15ラウンド動けるコンディションづくりを目指している」と勇み立つ。そして「ノックアウトを狙うことになるけど、イノウエに脚を使われて動き回られたら空振りに終わるかもしれない」とも。これは敗戦の逃げ口上なのか挑発なのか?

 東京での発表会見で対面した井上に対して「彼はとてもリラックスしているように見えたけど、世界最強ボクサーに勝てるというモチベーションが湧いた」とも吐露している。さらに日本ボクシング史上最大となるであろうメガイベントに言及してこう言う。

 「歴史的でゴージャスなイベントに出場できるのはこの上なき光栄。これだけグレードアップするのは俺の実力とネームバリューが大きく影響しているからだろう」

 この発言を聞けば日本のファンは怒り心頭に違いない。自身のキャラクターをわきまえているネリ。いよいよ本性を現わし、モンスターに牙をむく。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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