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ネリは井上尚弥に勝てる!辰吉丈一郎に2度勝った元メキシコ人王者が語る番狂わせのシナリオ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ブランドン・フィゲロアvs.ルイス・ネリ(写真:SHOWTIME)

井上とネリの差はアクティビティ

 5月6日、東京ドームでゴングが鳴るスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ。米国のスポーツブックメーカー「ドラフトキング・ドットコム」は井上の14-1、ネリの8倍と4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)が絶対有利のオッズを出している。挑戦者WBC1位ルイス・ネリ(メキシコ)が番狂わせを起こすチャンスはあるのだろうか。ネリと同じメキシコ人で、同じスーパーバンタム級でWBC王座を通算11度防衛。サウスポーという共通点もあるダニエル・サラゴサ氏(66歳)に質問をぶつけてみた。

 最後にサラゴサ氏にコンタクトしたのは3年前。その模様は下記の関連記事で紹介したが、相変わらず満ち足りた暮らしをしている様子だ。

――セニョール、コモエスタ?その後、変わりありませんか?

サラゴサ氏「シー(イエス)。おかげさまで快適な生活を送っているよ」

――早速ですが、来月東京ドームで行われる井上尚弥vs.ルイス・ネリの予想を聞かせてもらえますか?

サラゴサ氏「私はネリにとって難しい試合になると思う。理由は2人のアクティビティの差。イノウエはここのところ、連続して重要な試合をこなして勝っているけれど、ネリはそうとは言えない。イノウエはキャリアの絶頂期に向けて邁進しているのに対し、ネリの方は特筆すべきものがない。だからイノウエの手が上がると思う。いずれにせよ、ノックアウトで決着がつくだろう」

イノウエの長所は耐久力だ

――ネリにアドバンテージとなることはありませんか?

サラゴサ氏「それはイノウエが118ポンド(バンタム級)から122ポンド(スーパーバンタム級)に進出してまだ日が浅く、ネリはより長く122ポンドでキャリアを送っていること。もしイノウエがスーパーバンタム級に順応していなければ、メキシコ人(ネリ)がサプライズを巻き起こすこともあり得る。だがネリはノックアウト負けも喫しているし、絶対的なアドバンテージとは言い難い」

――パンチ力ならネリは井上に対抗できるという声もありますが……。

サラゴサ氏「もちろん、ネリにはパワーがある。いい準備をすれば、それを活かせるだろう。でも私はイノウエのアドバンテージとしてタフネスを挙げたい。彼はノニト・ドネアとの第1戦でアゴの強さを証明したと思う。ドネアの最大の武器、左フックを食らっても耐え抜いた。ハードパンチに対する耐久力もイノウエの見逃せない長所の一つだよ」

井上が耐久力を証明したドネアとの第1戦
井上が耐久力を証明したドネアとの第1戦写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 2度目のWBC世界スーパーバンタム級王座を畑中清詞(現SOUL BOX畑中ボクシングジム会長)から奪取したサラゴサ氏はエクトル・アセロ・サンチェス(ドミニカ共和国)を下して王者に復帰。その初防衛戦で“浪速のジョー”こと日本のスーパースター、辰吉丈一郎に11回TKO勝ち。続いて同じく大阪が地元の原田剛志に7回TKO勝ちで2度目の防衛成功。さらにこの3度目の王座の3度目の防衛戦では辰吉丈一郎のライバルだった薬師寺保栄を破って元WBC世界バンタム級王者に就いたウェイン・マッカラー(アイルランド)に公式スコアカードが2-1ながら明白な判定勝ちを収め王座を堅守した。そして辰吉との再戦でも3-0判定勝ち。ほぼ6年にわたり、日本人選手の壁となって立ちはだかった。

フィゲロア戦は新型コロナに感染していた?

――もしあなたが井上と対戦すると仮定した場合、どうやって対抗しますか?

サラゴサ氏「過去に日本人ボクサーと戦ってみて、日本人特有のスタイルがあると感じた。自分はそれに巧く対応できたから結果が出せたと思っている。距離を置いてのカウンター戦法はその一つだ」

――ネリがその戦法を採って井上に通用するでしょうか?

サラゴサ氏「イノウエは強打者で火花を散らす選手であると同時にボクシングのクオリティが高い。アウトボクシングがどこまで通用するかわからない。レベル的に劣る相手でないと正直それは難しいだろう」

――ネリはKOされたブランドン・フィゲロア(米=現WBCフェザー級暫定王者)戦は接近戦に巻き込まれて倒された印象もありましたが……。

サラゴサ氏「ああ、あの試合ね。思い出すよ。確かに距離の測定を誤ったのかもしれない。でも私はネリはあの時、COVID-19 (新型コロナ感染症)だったと聞いている。コンディションが万全ではなかったようだ」

――コンディションといえば、過去に山中慎介戦でネリが犯したスキャンダルについてはご存知ですね。

サラゴサ氏「もちろん。知っている。ただ詳細は私にわからない。でもあんなトラブルはもってのほかだと言いたい。あんなことをしでかしたらリングに上がる資格がないよ。でも今回はイベントの規模が巨大だから問題は起きないと信じている」

アザト・ホバニシャン(右)との激闘に勝って1位にランクされたネリ(写真:Cris Esqueda/GBP)
アザト・ホバニシャン(右)との激闘に勝って1位にランクされたネリ(写真:Cris Esqueda/GBP)

ネリ勝利のカギは全瞬間にわたる集中力

――井上との大一番に備えてネリは地元ティファナを離れ、テキサス州で調整中です。キャンプ地の変更は効果をもたらすでしょうか?

サラゴサ氏「それはわからない。効果があるのだから実行したのだろう。私は現役時代、いつもナチョ(トレーナー兼マネジャーだったナチョ・ベリスタイン氏)がいっしょで、ナチョが有効な作戦を立ててくれて、それに従った。そして常に節制を怠らなかったことがタイトル獲得と防衛につながった。ネリは圧力をかけて対処する戦法を選ぶにしても、どんな作戦で臨むかが重要になる」

――もし、その作戦をあなたが授けるとしたら……。

サラゴサ氏「イノウエは現役最強選手の一人で欠点が見当たらない。だから序盤は一気呵成に行かずにある程度、距離を置いてイノウエの出方を見極めることも大事じゃないかな。ネリはパワーで負けないと思うから、効かせたら、一気に襲撃する。たださっきも言ったようにイノウエのアゴは頑丈だと想像している。浅いパンチではうまく運ばないだろう」

――ネリは連打型のパンチャーとも言えますが……。

サラゴサ氏「そこだね、彼がつけ込むことができるのは。ただ12ラウンドにわたってネリは集中力をキープして、スピードとパワーをフル回転させて押し込まないと勝機は訪れないと思う。それが貫徹できればメキシコに王座が戻ってくるはずだ」

――そうなるとスタミナの問題が肝心ですね。

サラゴサ氏「その通り。私は心底、メキシコ人が勝つことを願ってやまない。今、メキシコには10人の男子世界チャンピオンがいる(注:暫定王者も含む)。それに最新のヒルベルト・ラミレス(WBA世界クルーザー級王者)の戴冠でミニマム級からヘビー級まで全17階級を通じて歴代のメキシコ人チャンピオンが埋まった。どうかネリに勝ってもらって11人目のチャンピオン誕生の朗報を聞きたいね」

――今日はありがとうございました。

サラゴサ氏「ノープロブレム」

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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