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最重量は井上尚弥のスーパーバンタム級。日本人ボクサーに立ちはだかる難関フェザー級

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロペスvs.阿部麗也(写真:Mikey Williams/Top Rank)

ロペスの馬力に屈した阿部

 米ニューヨーク州ベローナのターニングストーン・リゾート・カジノで2日(日本時間3日)ゴングが鳴ったIBF世界フェザー級タイトルマッチは王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)が1位で指名挑戦者としてリングに上がった阿部麗也(KG大和)に8回39秒TKO勝ち。ロペスは3度目の防衛に成功した。

 試合後「完敗です」と阿部が認めたように攻防はワンサイドゲームだった。2ラウンドにロペスの左ロングフックをもらって腫れ出した阿部の右目が勝負の行方を決定づけた。“ベナド”(スペイン語で鹿の意味)のニックネームで呼ばれるロペス(30歳)は非常にアグレッシブで、阿部が劣勢を挽回しようとしてもはねのける馬力があった。阿部には酷だが、目の負傷がなくても遅かれ早かれ決着はついていただろう。

 もし阿部(30歳)がベルトを持ち帰っていたならば、現役日本人男子の世界チャンピオンは10人に達していた。米国は別としてボクシング王国と言われるメキシコでも今、7人である。ロペスvs.阿部を米国に中継したスポーツ専門メディアESPNは放送中に日本ボクシングの盛況ぶりに触れていた。

ロペスvs.阿部のIBFフェザー級タイトルマッチ

世界王者9人は軽量級に集中

 9人の男子世界チャンピオンは以下の通り。

ミニマム級(105ポンド=47.62キロ以下)…WBC王者 重岡優大(ワタナベ)/IBF王者 重岡銀次朗(ワタナベ)

ライトフライ級(108ポンド=48.97キロ以下)…WBC・WBAユニファイド統一王者 寺地拳四朗(BMB)

フライ級(112ポンド=50.80キロ以下)…WBA王者 ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)

スーパーフライ級(115ポンド=52.16キロ以下)…WBA王者 井岡一翔(志成)/WBO王者 田中恒成(畑中)

バンタム級(118ポンド=53.52キロ以下)…WBA王者 井上拓真(大橋)/WBC王者 中谷潤人(M.T)

スーパーバンタム級(122ポンド=55.34キロ以下)…WBAスーパー・WBC・IBF・WBO統一王者 井上尚弥(大橋)

 無双の強さを誇る井上尚弥は言うに及ばず、ミニマム、スーパーフライ、バンタム級でそれぞれ2人の王者が君臨しているところが日本の繁栄を象徴している。優大、銀次朗の重岡兄弟の統一戦は無理だろうが、他の階級では日本人同士が雌雄を決するストーリーも見えてくる。ただ、最軽量級のミニマム級から軽いクラスすべてで王座を占めるものの、上限は井上尚弥のスーパーバンタム級でぷっつりと切れてしまう。

 プロボクシングは階級が細分化されて久しく17階級ある。WBCとWBAはヘビー級とクルーザー級の中間に「ブリッジャー級」(224ポンド=101.60キロ以下)を新設しており18階級ある。そのうち日本人世界チャンピオンが君臨するのは6階級。数は多いが偏在している。私は彼らの実力やディシプリンを過小評価しているわけではない。円安ドル高の時勢といえどもマッチメイクやプロモートなど業界の努力も見逃せない。だが、この事実は日本人ボクサーにとって中量級、重量級はいまだに別世界であることの証左なのかもしれない。昨日の阿部の敗戦はフェザー級以上の壁の厚さ、レベルの高さを痛感させるものだった。

サンチェスに倒された怪物ゴメス

 日本には「伝統のフライ級」という言葉がある。いや、あったと言った方が適切だろうか。ライトフライ級もミニマム級も存在しなかった時代に「フライ級」は軽量級を象徴していた。レジェンドと呼ばれるチャンピオンも多く誕生している。そう考えると日本のボクシング界は綿々と伝統を継承していると言え、ついに大輪を咲かせたと言うべきか。ならば、もっともっと期待させてくれるものがある。

 今回テーマに挙げるフェザー級でも過去に柴田国明、西城正三、長谷川穂積といった人気と実力を兼ね備えた世界チャンピオンを日本は輩出している。柴田はその上のスーパーフェザー級(当時はジュニアライト級)で2階級制覇を果たし、同級では内山高志もその強打で防衛テープを伸ばした。ちなみに阿部は2010年11月にWBC王者に就いた長谷川に続き、日本人フェザー級王座の獲得を目指したが成らなかった。

バンタム級王者からフェザー級王者に君臨した長谷川穂積
バンタム級王者からフェザー級王者に君臨した長谷川穂積写真:アフロスポーツ

 海外ではWBC世界スーパーバンタム級(当時はジュニアフェザー級)王者として17連続KO防衛、32連続KO勝ちで無敵を誇ったウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)がWBC世界フェザー級王者サルバドール・サンチェス(メキシコ)に挑戦して8回KO負けした一戦がある。一概にゴメスと井上尚弥を比較することはできないが、今後井上が目指すであろうフェザー級進出は相当に難易度が高いものだと思えてならない。

KOキング、ゴメスを倒したメキシコの英雄サンチェス(写真:WBC)
KOキング、ゴメスを倒したメキシコの英雄サンチェス(写真:WBC)

 以前、私はフェザー級でも井上は十分に力を発揮し、3階級連続の4団体統一王者も夢ではないのでは……と記したが、ロペスvs.阿部を観て考えを修正せざるを得ない。井上がしばらくスーパーバンタム級に留まり防衛に専念することは賢明な選択だと思えてきた。同時に米国など海外ファンが井上のフェザー級転向を熱望する真意がわかってきた。みんなモンスターと強者との戦いがノドから手が出るほど観たいのだ。そしてできればスーパーフェザー級あたりまで行ってほしいと。

 5月6日、東京ドームでのルイス・ネリ(メキシコ)戦が正式発表間近と伝えられる井上は、その後サウジアラビア、豪州でリングに登場するプランが話題となっている。フェザー級へ針路をとった時、果たしてどんな勝敗予想が聞かれるか?必ずしも彼に好意的な下馬評が出るとは限らないような予感がしてくる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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