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「イノウエは怒りをぶつけて来るだろう」。悪役ネリが今だから話せる裏事情を激白

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2度対戦した山中慎介とルイス・ネリ(写真:Fightful)

ファンは1ラウンドKO負けを警告

 世界スーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)へ挑戦が有力視される元2階級制覇王者で、同級WBC1位ルイス・ネリ(メキシコ)がメキシコのユーチューブチャンネル「Un Round Más」(ウン・ラウンド・マス)に出演。ホスト役を務めた元3階級制覇チャンピオンのマルコ・アントニオ・バレラ氏と現在、過去の心境を語り合った。

 そこでネリは井上戦が具体化するにつれてファンから「ヤバいぞ」と警鐘を鳴らされていると話す。「ウェブサイトのコメントでは『1ラウンドも持たないのではないか』、『同じく1ラウンドで木っ端みじんにされてしまうよ』といったコメントを目にする」とネリは明かす。

 「でもかえって勇気が湧いてくる。『お前たち(ファン)よく見てろ。何クソ!』という気持ちになる。モチベーションはシンプル。自分の能力を最大限に披露してみせる」

 決意を新たにした“パンテラ”(豹)ネリ。バレラ氏から「この試合はみんなが待望している」と振られると、「そうだよ。PPV(ペイ・パー・ビュー=視聴者が別料金を払って観戦するシステム)中継されても不思議ではない。ラスベガスで実現してもおかしくないよ」としきりに売り込む。

すでにファイトマネーを計算

 それでも軽量級の注目マッチが頻繁に開催される日本は報酬面で魅力。とりわけ井上戦となれば、挑戦者でも高額を手にすることができる。「最近、イノウエと戦った相手のファイトマネーの情報をつかんでいる。間違いなく次はキャリア最高額になるだろう」と皮算用。5年ぶりの日本登場に胸が躍る。

 ちなみにネリのライバルとして台頭中の、メキシコの最高学府UNAM(メキシコ国立自治大学)で学ぶアラン・ダビ・ピカソ(メキシコ=WBCスーパーバンタム級2位)は「彼は引退前の集金のために日本へ行く」とネリを酷評。ピカソは井上がスティーブン・フルトン(米)に挑戦する前、フルトン有利を主張していたが、フルトン、マーロン・タパレス(フィリピン)を撃破した井上の強さを痛感したのではないだろうか。

 実際ネリは一部でピークを過ぎたのではと見られる。しかし彼は「俺の頂点はこれからだ」とアピール。そして「イノウエとは怒りを前面にして戦う。彼にクギを刺したい」と語る。“クギを刺す”は直訳で、井上をストップする――という意味に受け取れる。

ネリと対談したマルコ・アントニオ・バレラ氏(写真:Famous People Today)
ネリと対談したマルコ・アントニオ・バレラ氏(写真:Famous People Today)

山中戦はイージーだったと豪語

 これぐらいでとどめておけばよかったが、バレラ氏のリードにつられてか、途中からネリは“舌好調”となっていく。彼がテーマに挙げたのは2017年8月と18年3月、日本で行った山中慎介との2戦だった。

 初戦で4回TKO勝ちを収め、山中氏からWBC世界バンタム級王座を奪取したネリは、VADA(ボランティア・アンチドーピング協会)が実施したドーピング検査で違反薬物ジルパテロールが検出されるスキャンダル。再戦でも2回TKO勝ちしたが、計量で大幅な体重オーバーを犯しタイトルはく奪の憂き目に遭った。

 結局WBCは第2戦の後、ネリに対し6ヵ月間の出場停止処分を科した。だがこれが“大甘”な裁定だったことは周知の事実である。一方、JBC(日本ボクシング・コミッション)は日本国内での無期限活動停止をネリに通告した。19年11月、ラスベガスで予定されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ=現IBF世界バンタム級王者)戦が体重オーバーでキャンセルされ、またしてもネリはひんしゅくを買った。だが年月が経過しJBCの処分は、解かれる見通しが立っている。

 そのためにも少しおとなしくしているべきなのだが、ネリの辞書に“謙虚”という言葉はないらしい。「ヤマナカ戦の時も今回と同じことを言われた。『お前はとてもチャンピオンに太刀打ちできるレベルではない』と。でも日本へ行ってコテンパンにやっつけたじゃないか」と振り返る。

二日酔いで練習していた

 ここからネリの毒舌は加速する。

 「知っているかい?ヤマナカ戦はキャリアでもっともイージーな試合の一つだった。誓ってもいい。2度ほどいいパンチを食らってグラついたけど、全然効いていなかった。グサノ(山中氏が2度目の防衛戦でKO勝ちしたトマス・ロハス=メキシコ)のように眠らされることはなかった。本当に彼のパンチ力を感じなかった。ダメージが全然なく、きれいな顔でフレッシュな状態で試合を終えることができた」

 グラついたのに効いていなかったとはかなりの強がりに聞こえるが、ネリは本当にそう言っている。彼は続ける。

 「ヤマナカとの2戦目、日本へ旅立つ15日ほど前まで友達とダベってばかりで気がついたら午前3時、4時という毎日。もちろんトレーニングは続けていたけど、始めると二日酔いに悩まされたよ。もう、そんな無茶はしていないけど、あの試合は楽だった」

 さらに強打を誇る山中氏と渡り合えた理由として「アドレナリンが噴き出したから」とネリは主張。何度もその言葉を繰り返すことから、本当は薬物効果ではなかったかと勘ぐってしまうのは私だけだろうか。

試合前、アップするネリ(写真:Zanfer Boxing)
試合前、アップするネリ(写真:Zanfer Boxing)

ボクシングを汚した罪を自覚

 ネリは「今だから話せるエピソード」を公開したように思える。彼に対する“厳罰”に対してメキシコのボクシングメディア「イスキエルダッソ」は「すでに忘れ去られたペナルティー」と記している。それでも今回ネリの話を聞いていると、彼はヒール(悪役)を認識しているように思える。

 「俺があの国(日本)のボクシングを汚し、リスペクトを欠いたように思われている。試合(井上戦)はもっと早く実現してもよかったけど、日本サイドが私をずっと拒絶した。でもイノウエ自身は本当に俺とやりたいらしい。イノウエは俺にクギを刺したい。彼は怒りをぶつけて来るはずだ。日本を背負って俺に仕返しをするつもりなのだろう」

 よくわかっているではないか。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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