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井上尚弥が避けて通れない相手、2団体で1位を占めるグッドマンはこんな男だ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
グッドマンvs.フローレス(写真:NO LIMIT BOXING)

挑戦者決定戦を勝ち抜く

 マーロン・タパレス(フィリピン)に10回KO勝ちで世界スーパーバンタム級4団体統一チャンピオンに君臨した井上尚弥(大橋)。旬の話題は年間MVP獲得とパウンド・フォー・パウンド・ランキング1位奪回なるかである。今回の勝利によって一挙両得の可能性もかなりあるのではないか。そして来年5月と噂される次戦の相手は誰か?というお楽しみもある。

 次なる刺客にはルイス・ネリ(メキシコ)、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)あるいはダークホースとしてジョンリール・カシメロ(フィリピン)らが列挙される。いずれもキャラクターが際立っている印象で、彼らの誰と対戦してもファンの観戦意欲を刺激するのは間違いないだろう。この3人に関しては今まで何度か触れてきたが、今回もう一人、新顔を紹介してみたい。

 井上が4本まとめたベルトのうち、IBFとWBOでランキング1位を占めるサム・グッドマン(豪州)だ。

 グッドマンは1998年10月10日、オーストラリア、ニューサウスウェールズ州アルボインパーク出身の25歳。身長、リーチとも169センチ。プロ戦績は17勝7KO無敗。WBO世界S・ウェルター級王者ティム・チュー(豪州)と同じ現地の「ノー・リミット・ボクシング・プロモーションズ」傘下でキャリアを進める。

 彼が2団体でトップランカーに君臨する理由は、IBFに関しては今年6月、井上の対戦相手として一時注目されたライース・アリーム(米)にIBFスーパーバンタム級1位決定戦で判定勝ちを収めたことが影響する。またWBOに関しては盟友で二世ボクサーのチューが現在豪州ナンバーワンの人気選手でノー・リミット・ボクシングがWBOと強いパイプを構築してことが大きいと思われる。

古豪ドヘニーを下した出世試合

 少年時代、オーストラリアン・フットボールをプレーしていたグッドマンはボクシングの魅力にはまり、アマチュアで100戦以上のキャリアを積んだ。4度国内チャンピオンになり、2017年にはドイツ・ハンブルクで開催された世界選手権に出場する。しかし東京五輪出場が叶わなかったことからプロ転向を決意。18年4月、タイ人選手に2回TKO勝ちでプロデビューする。

 21年12月にWBOオリエンタル・スーパーバンタム級王者に就くと翌年5月、富施郁哉(ワタナベ)との決定戦で10回判定勝ちしIBFインターコンチネンタル同級王者にも君臨。2ヵ月後、フィリピンの伝説のボクサー、フラッシュ・エロルデの孫フアン・マヌエル・エロルデ(フィリピン)に8回TKO勝ちで2冠を守ると、今年3月シドニーで、岩佐亮佑(セレス)から王座を奪った元IBF世界スーパーバンタム級王者TJ・ドヘニー(豪州)と防衛戦を行う。

 ちなみにアイルランド出身のドヘニー(37歳)は無冠となった後も健在ぶりを披露し、10月31日には後楽園ホールで井上のスパーリングパートナーだったジャフェスリー・ラミド(米)に初回TKO勝ち。いまだに世界戦線に生き残っている。

 そのドヘニー(現WBOスーパーバンタム級4位)にグッドマンは3月の試合で大差の3-0判定勝ち。第一関門とも言うべき一戦をクリアし、アリーム戦へ駒を進めることになった。

サム・グッドマンvs.ライース・アリーム(写真:NO LIMIT BOXING)
サム・グッドマンvs.ライース・アリーム(写真:NO LIMIT BOXING)

強敵アリームに2-1判定勝ち

 アリーム戦は仕掛けるグッドマンにアリームはカウンター戦法で対抗。パンチのラリーが続いた試合は8回あたりからプレスを強めたグッドマンが地元ファンの声援をバックに米国人を押し切った。しかしスコアカードは117-111、116-112(グッドマン)、116-112(アリーム)と2-1で割れることになった。これが第二関門と言えるだろう。

 その後10月15日、チューの防衛戦のセミファイナルでメキシコ系のミゲル・フローレス(米)と12回戦を行ったグッドマンはボディーアタックに右強打を織り交ぜて攻勢。8回、左ボディーで倒しカウントアウト寸前に追い込みながらフルラウンドの戦いを強いられた。終盤は毎ラウンドのようにストップ勝ちのチャンスをつかんだが、フローレスの驚異的な頑張りに遭い、8つ目のKO勝利はお預けになった。

 2ヵ月後の12月15日、同じくシドニーで今年4戦目を行ったグッドマンは12回戦でゾン・リュウ(中国=32歳)に3-0判定勝ち。スコアカードは118-111、119-109,120-108でグッドマンの快勝。サウスポーのリュウ(WBOスーパーバンタム級14位)とテクニカルな試合を演じたグッドマンは、この一戦でも中盤からスパートをかけ、ゴールテープを切った。

 「彼はとてもトリッキーで、すごくやりにくかった。でも私はプレスをかけ続け、前進し、勝利を得るためにクリーンパンチをコネクトした。勝ちは勝ち。4試合も行ったビッグイヤーを締めくくることができた。世界タイトル挑戦のウェーティングサークルに入った」

 勝利のコメントにグッドマンの満足度がうかがえた。

サム・グッドマンvs.ミゲル・フローレスのハイライト

世界王者が絶賛する抜群の距離感

 だが試合をレポートした現地のアンソニー・コックス記者が「井上-タパレスの勝者にターゲットを絞るサム・グッドマンが無難な、平凡な勝利で2023年をクローズ」と記したように正直、井上と対峙するにはインパクト不足が否定できなかった。

 記事に関するコメントでも一ファンが「グッドマンが妥当な勝利。でも最近の2試合は目立つものではなく、イノウエにトラブルをもたらすとは思えない」を記している。

 それでもグッドマンとスパーリングの経験が豊富なジェイソン・マロニー(豪州=WBOバンタム級王者)は「サムはものすごい才能に恵まれている。彼との手合わせは、いつも素晴らしいものになる。彼はすごくクレバーでスキルとスピードがあり、距離のコントロールに瞠目する」と称賛を惜しまない。

 井上とラスベガスで対戦し、7回KOで散ったマロニーは「サムはワールドレベルの相手との貴重な経験だけが必要。世界チャンピオンに就くポテンシャルを十分に持っている」とエールを送る。

米国でスパーリングで鍛える

 グッドマンはドヘニー戦の前、ロサンゼルス修行を実行。2階級制覇王者ジェシー“バム”ロドリゲス(米=WBO・IBF世界フライ級統一王者)、ネリとWBCスーパーバンタム級挑戦者決定戦を行ったアザト・ホバニシアン(アルメニア)らとのスパーリングで向上を図った。帰国後もアメリカンファイターたちから「こちらへまた来い」とリクエストがあったというから本場でもインパクトを残したのだろう。

 また以前、英国へ出向き、井上と1年前バンタム級4団体統一戦を行ったポール・バトラー(英)とのスパーリングも体験したという。ポジションを固めるだけでなく、モンスター井上挑戦の準備を着々と整えている様子が感じられる。

 グローブを握った当時はマイク・タイソンとロイ・ジョーンズ・ジュニア(ともに米)がアイドルだったが、「2012年のロンドン・オリンピックを観てからすっかり虜になった」と3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコとヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシクの2人のウクライナ人に傾倒。「それとドミトリー・ビボル(ロシア=WBA世界ライトヘビー級スーパー王者)もグレートだ」(グッドマン)とスキルに秀でた選手に憧れを抱く。

 余暇は友達ととめどなくダベることが好きとグッドマン。趣味はイタリア製のオートバイ「ドゥカティ」を乗り回すことだという。半月前のリュウ戦の後「1年後には世界チャンピオンになっていたい」と宣言した世界1位。モンスターの後ろ姿を追いかける。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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