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タパレスがネリだったら危なかった⁉ 井上尚弥へ海外メディアは辛口コメント多し

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上尚弥vs.マーロン・タパレス(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

スーパーバンタム級残留が既定路線

 予想通りのKO勝利でスーパーバンタム級4団体統一王者に就いた井上尚弥(大橋)。それまでWBAスーパー・IBF統一王者だったマーロン・タパレス(フィリピン)の頑張りは相当なものだったが、最後はパワーと総合力でねじ伏せた印象だ。リング上のインタビューでスーパーバンタム級に留まり防衛に専念すると語った井上に対し、海外のメディアやファンは近いうちに126ポンド(フェザー級)進出を期待していたフシがある。

 それにも関連して、かなり結果が見えていたタパレス戦を見越してモンスター井上の今後の動向に耳目が集まっていた。しばらくスーパーバンタム級でリングに上がるなら、ルイス・ネリ(メキシコ)、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、ジョンリール・カシメロ(フィリピン)は避けて通れないライバルだと。ネリはWBC、アフマダリエフはWBAの指名挑戦者でもある。

 このうちネリは周知のように山中慎介からWBC世界バンタム級王座を獲得した試合と初防衛戦で、ドーピング違反と体重オーバーの失態を演じ、JBC(日本ボクシングコミッション)から日本での活動停止処分を受けており、リングに立てない。今のところ井上に挑戦するにしても海外リングに限られる。だがネリ自身、彼のトレーナー、プロモーターは日本開催の期待を抱いている。一部の米国メディアもそれに同調する記事が見られる。ネリが来日、井上と雌雄を決することになるかは予断を許さない。それでもネリが話題の中心へ移行しているのは確かなことだ。

ネリの攻撃力は要注意

 私は昨夜の試合をESPNのスペイン語中継「ESPNノックアウト」で観戦した。試合中、井上がタパレスの攻撃を受けるシーンがあったが、進行役のレナト・ベルムデス氏が「もしタパレスではなくて“パンテラ”(豹の意味)ネリなら、イノウエはダメージを受けていただろう」と発言。井上を危惧すると同時に、ネリが次戦の対戦候補者であることをほのめかした。

 私は井上がネリと戦うことになっても敵地のメキシコは別にして、日本でも中立国アメリカで試合が開催されても井上有利の予想が立つと信じている。スキャンダルに見舞われたネリはスーパーバンタム級2団体統一戦でブランドン・フィゲロア(米=現WBCフェザー級暫定王者)に7回KO負けで初黒星。勢いにブレーキがかかった。しかし再起すると、今年2月には井上がロサンゼルスでミニ合宿を実行した際に拮抗したスパーリングを行ったと言われるアザト・ホバニシアン(アルメニア)に11回KO勝ち。この勝利でWBCの指名挑戦者になった。そして7月にはメキシコで元ランカーのフロイラン・サルダール(フィリピン)を2ラウンドで沈め、勢いを持続している。

 タパレスと同じサウスポーのネリ(35勝27KO1敗=29歳)は単純に攻撃力だけなら井上と張り合えるものを持っている。上記ベルムデス氏の発言もあながちオーバーな表現とは言い切れない。

メキシコのメディアに対応するネリ(写真:Zanfer Boxing)
メキシコのメディアに対応するネリ(写真:Zanfer Boxing)

ナオヤに失望……

 ネット検索でモンスターを一刀両断する記事も目に入ってきた。ボクシング専門サイト「ボクシングニュース24ドットコム」でクリス・ウィリアムス記者が「ザ・モンスター・リターン:ナオヤ・イノウエは5月、ルイス・ネリとの防衛戦を視野に入れる」というタイトルの記事を掲載。同記者はアメリカ中西部を拠点にアメリカンフットボールやバスケットボールなどの記事も寄稿している。

 その記事でウィリアムス氏は「今夜のナオヤは全くいいところがなかった。これまでの相手に通用したパワーが影を潜めていた。ネリならイノウエにもっと重大なダメージを与えていただろう。パウンド・フォー・パウンド(PFP)トップなんてとんでもない」と手厳しい。

 そして「タパレスがスローで、手数が少なかったのが幸いした。フェザー級にはネリを倒したフィゲロアがいる。さらにロベイシー・ラミレス(キューバ)を破りWBO王者に就いた身長185センチを誇り、1ラウンドに100発以上パンチを放ちパワーも兼備するラファエル・エスピノサ(メキシコ)がいる。またパワフルでハングリーなルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ=IBF王者)、WBA王座決定戦で対戦するオタベク・コルマトフ(ウズベキスタン)とレイモンド・フォード(米)、レイ・バルガス(メキシコ=WBC王者)らが立ちはだかる」と警鐘を鳴らす。

井上限界説まで

 これだけなら「スーパーバンタム級残留はひとまず賢明な選択。フェザー級での活躍に期待が持てる」という主旨にも思えるが同記者は毒舌をやめず「イノウエは今夜たくさんのパンチを浴びた。フェザー級選手との対戦ではアゴが心配になる。彼は122ポンド(スーパーバンタム級)で止まってしまうのか。彼は天井に到達したようだ。126ポンド、130ポンド(スーパーフェザー級)に上がれば苦しい試練が待っている」とこき下ろす。

 アメリカでは井上を絶賛する記者も多くいるが、こういう記者もいる。

 同記者は井上とウェルター級4団体統一王者テレンス・クロフォード(米)とのPFPキング争いにも言及。元世界ライトヘビー級王者アントニオ・ターバー氏の意見を交えながら自論を展開。「パンチングバッグと化したタパレスに勝ってもPFPナンバーワンとは呼べない。そう思うのは彼のファンだけ」と記述。「同じ2階級で比類なきチャンピオンに就いたクロフォードとイノウエだが、最新試合でエロール・スペンス・ジュニア(米)に勝ったクロフォードの方が40歳のノニト・ドネアを倒したイノウエより対戦相手のクオリティではるかに上だ」と主張する。

 極めつけは「(井上が制した)軽量級には本物の強豪がいない。ウェルター級などの豪華なクラスのトップ選手からPFPキングは選ばれるべきだ」。

 こうなると「差別」だが、これも海外識者の見解の一つ。中傷されるのは、それだけ強いと認知されている証拠に思える。ネリにしろ、アフマダリエフにしろ、カシメロにしろ次戦で井上が再び爆発的なパフォーマンスを披露してギャフンと言わせてくれるに違いない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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