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クロフォードのパフォーマンスに脱帽。井上尚弥とのPFPトップ争いリードの声多し…

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
スペンスを圧倒するクロフォード(写真:Esther Lin/SHOWTIME)

3度倒す圧勝

 29日(日本時間30日)ラスベガスのT-モバイル・アリーナで行われたウェルター級世界4団体統一戦はWBO王者テレンス・クロフォード(米)がIBF・WBC・WBAスーパー統一王者エロール・スペンス・ジュニア(米)に9回2分32秒TKO勝ち。ライト級世界王者からスタートしたクロフォードはスーパーライト級で4団体統一を果たし今回、男子として初めて2階級で比類なきチャンピオンに就く偉業を達成した。

 今年最高のカード、もしかしたら過去10年でも屈指のグレードを持った対決と言われたビッグファイト。勝敗予想は非常に拮抗し、オッズメーカーによってクロフォード有利のところもあれば、スペンスを支持するところも見受けられたほど。ところが実現まで年月を費やした一戦はクロフォードの圧勝に終わった。2回、ワンツーでスペンスからキャリア初のノックダウンを奪うと、そのままペースを掌握。鼻血に染まり、顔面の腫れが目立つスペンスをコントロールする。そして7回に2度ダウンを追加し9回、一気にチャージしてレフェリーストップを呼び込んだ。

 昨夜のクロフォードのパフォーマンスを語り尽くすには、どれだけスペースがあっても足りないだろう。それだけ秀逸な、一世一代の出来を彼は披露した。試合前「今がテレンス・クロフォードの時代だ」と豪語した男は明白なかたちでそれを実証。そして「この試合の勝者がパウンド・フォー・パウンド(PFP)ナンバーワンに就く。エロール・スペンスは4位にランクされていた。多くのリスト(ランキング)で1位だった私は、この勝利で1位をキープしても何ら不思議ではない」と胸を張った。

著名メディアのランキングはどうなる?

 以前も触れたように米国のスポーツ専門メディアESPNは、PFPランキング1位をクロフォードが占め、2位は井上尚弥(大橋=WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者)、3位オレクサンドル・ウシク(ウクライナ=ヘビー級3団体統一王者)、4位スペンス、5位サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ=スーパーミドル級4団体統一王者)という顔ぶれ。クロフォードが触れたのはESPNのランキングだ。

 一方、世界的にもっとも歴史と権威があると言われる米国の「リング誌」のPFPは1位ウシク、2位が井上、3位クロフォード、4位スペンス、5位カネロの順番。リング誌のPFPは注目試合があった週の週末にパネリストたちが協議してランキングの更新を行うので、まさに今、その作業の最中かもしれない。

 クロフォードか井上か? 先週25日に東京・有明アリーナでスーパーバンタム級2団体統一王者スティーブン・フルトン(米)に井上が挑戦。8回TKO勝ちで2本のベルトを奪取し、4階級制覇王者に君臨した。その時点で井上がPFPキングに就くことは、ほぼ確実という風潮が流れた。4日後に行われるスペンスvsクロフォードの勝者に勝ち目はないように思われた。しかしクロフォードの圧勝はモンスターの珠玉のパフォーマンスをも凌駕するものだったと言えるだろう。

イノウエを引き離した

 本人の自画自賛は別として、英米メディアはクロフォードにPFPナンバーワンの称号を与える。

 英国紙「ザ・ガーディアン」はブライアン・アーメン・グラハム記者がラスベガスからレポート。「疑いなくクロフォードは日本のナオヤ・イノウエを十分に引き離して、このスポーツのベストファイターであることを周囲に証明した」と伝え、「クロフォードは対戦相手の力量に対して疑いの目を向けられることもあったが、キャリア最高の出来を披露してメディアの見方を変えさせた」と記述。スペンス戦の契約事項にあるリマッチの可能性を匂わす。

 また経済誌「フォーブス」はボクシング担当のブライアン・マジーキ記者が同メディアのPFPリストを解説。1位クロフォードに関して「彼は147ポンド(ウェルター級)最強を証明しただけではなく、ボクシングの歴史でレジェンドの一人になる地固めをした。スペンスに対して上質でスペシャルなパフォーマンスを披露。誰も彼が正当なPFPナンバーワンであることに異論をはさむ余地がない」と絶賛する。

 2位の井上については「もしスペンスがクロフォードに勝てば、イノウエをトップへ上げるつもりでいた。モンスターのスペクタクルなフルトン破壊劇は(クロフォードと)ほとんど差がないと見ていい。さらなる進歩が確証されている」とこちらも称賛を惜しまない。

フルトンを豪快に仕留めた井上(写真:ボクシング・ビート)
フルトンを豪快に仕留めた井上(写真:ボクシング・ビート)

スペンスとフルトンに明らかな差

 一方、米国のCBSスポーツは主筆のブレント・ブルックハウス記者が分析。「フルトンはグッド、いやベリーグッド。その強敵にイノウエは実に印象的な勝利を飾った。クロフォード、スペンスとも、もっと印象的な姿を見せつけることは難しいと思えたが、クロフォードは同じくパウンド・フォー・パウンド級の才能の持ち主スペンスを完ぺきに解体した。クロフォードvsスペンスは誰もが50―50の試合を予測したが、イノウエは明らかにフルトンに対し有利を予想された。そこに両者の違いが見出せる。クロフォードのパフォーマンスは間違いなく現時代のベスト。もしかしたらオールタイム最高かもしれない。リマッチの必要はないように思える。もしあなたがクロフォードがベストボクサーでないと主張するなら、それはあなたが土曜日のスペンス戦を観ていないという証拠だ」

 ここまで言われると返す言葉がない。「オールタイム」と言い切るにはまだ時間がかかりそうだが、私も今回の一戦は判定決着、それも僅差の結末を予想していただけにクロフォードの圧勝劇はサプライズ以外の何ものでもなかった。参りました……と言いたくなる。

ウェルター級4団体統一を果たしたクロフォードの勇姿(写真:Esther Lin / SHOWTIME)
ウェルター級4団体統一を果たしたクロフォードの勇姿(写真:Esther Lin / SHOWTIME)

モンスターの新たな目標

 井上には何も責任はないが、フルトンが多くの媒体のPFPランキングに名前がないことが判断のマイナス材料となる。そしてスペンスをストップするまでスコアカードで3ジャッジとも79-70でリードし、コンピュータスタッツでもパンチのヒット数で185-96で圧倒していたクロフォードに比べ、井上は文句なくポイントをリードしていたものの、ノックダウンを奪うまでより労力を費やした様子もうかがえた。

 その駆け引きのプロセスが実力に反映されるという指摘もできる。井上が2位に甘んじるなら不満を示すファンもいるだろう。だがボクシングの全階級で強豪が集結し、歴史的にももっとも華が感じられるクラスの4ベルトを統一。しかも下した相手がPFP上位のスペンスだった事実は見逃せない。

 PFPランキングの前提である「もし体重が同一と仮定するならば」から井上の方がクロフォードより強い――と主張することもできる。それでも昨夜ラスベガスで起こったことは、あまりにも鮮烈だった。モンスターに新たな目標ができたと認識していいのではないだろうか。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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