Yahoo!ニュース

井岡一翔と大みそか対戦が濃厚。WBA王者ジョシュア・フランコはこんな男だ!

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
マロニー(左)を攻めるフランコ(写真:San Antonio Express)

米国メディアは内定と報道

 今年も残すところ2ヵ月余り、海外でも日本の年末に定着したボクシングイベントが話題になりつつある。年末興行、大みそかの主役と言えば井岡一翔(志成=WBO世界スーパーフライ級王者)である。2011年に初登場すると2017年を除き昨年まで毎年出場し、メインを張っている(18年のドニー・ニエテスとの第1戦はマカオで開催)。ボクシング界広しと言えども「大みそかの帝王」と呼べるのは井岡しかいないだろう。

 米国メディアの中には井岡一翔→ニューイヤーイブ(大みそか)の主役→アリーナは大田区総合体育館と連想ゲームのように伝えるところもある。今年もこのパターンが有力。そして今年、井岡の対立コーナーに立つのはWBA世界スーパーフライ級王者ジョシュア・フランコ(米=26歳)が最右翼な状況。すでにボクシングシーン・ドットコム、ESPNドットコム、バッド・レフトフック・ドットコムが内定のニュースを流している。いずれも記事は主筆クラスが書いており、信頼性が高い。

 この2団体統一戦に関して私は、下記の記事でフランコは井岡にとってもっとも相応しい対戦相手ではないかと持論を述べた。それが実現しそうなことに高揚感を感じている。万が一のケースで米国の記事と私の期待が“フライング”になってしまうかもしれないが、その時はどうかお許しいただきたい。私は99パーセントの確率で井岡vsフランコはゴングが鳴ると信じている。24日(日本時間25日)からお膝元のプエルトリコで開催されるWBO年次総会の重要なテーマとなるだろう。それを前提にフランコの横顔や戦力を紹介してみたい。

WBC王者ロドリゲスの兄

 フランコは1995年10月27日、米国テキサス州サンアントニオ出身。男ばかりの4人兄弟の2番目で、弟の一人がWBC世界スーパーフライ級王者ジェシー“バム”ロドリゲス(22歳)。弟と同名の父ジェシー・ロドリゲスの手ほどきで13歳の時にグローブを握った。それまで見よう見まねのシャドーボクシングなどでボクシングに親しんでいたという。

 ちなみに兄弟なのに苗字が違うが、メキシコ系、ラテン系のボクサーではたまにあること。ロドリゲスは父方の苗字で、フランコは母方から採ったもの。WBC王者のフルネームはジェシー・ジェームス・ロドリゲス・フランコと言う。

 今年7月まで所属したゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)の資料によるとアマチュア歴は96戦。一方、記録サイトのボックスレクでは10勝1KO8敗。これは出場した主な大会のみのレコードだろう。2014年ポーランドで行われたジュニアの大会で優勝した実績がある。

 2015年10月、ロサンゼルスでプロデビュー。GBP傘下でキャリアを進め、13連勝する。しかし18年3月、プエルトリコへ遠征しルーカス・フェルナンデス(アルゼンチン)に9回TKO負けで初黒星を喫する。これに関してフランコは「少しばかり落胆したけど、その時からベターな選手になろうと集中して懸命に努力した。それが以前より強くなった原因」と明かす。

 弟のロドリゲス(17勝11KO無敗)がセンセーショナルな活躍を見せ、スーパースターへの道を歩むのに比べ、兄のフランコは再起戦を飾った後、またも試練が待ち構えていた。米国在住のコロンビア人オスカル・ネグレテとの3連戦だ。18年10月の初戦は三者三様の引き分け。2戦目はフランコが2-1判定勝ち。第3戦はまたも三者三様のドロー。それでも第2戦で獲得したNABFとWBAインターナショナル・バンタム級王座が彼のもとに残った。

フランコ(右)とロドリゲス。メガネをかけているせいで”先生”と呼ばれる(写真:KCAT)
フランコ(右)とロドリゲス。メガネをかけているせいで”先生”と呼ばれる(写真:KCAT)

2度目の3試合シリーズを勝ち抜く

 そして「115ポンド(スーパーフライ級)の方が自分の体格を生かせる」という理由で同級転向を決意。20年6月、コロナ禍の中で行われた無観客試合でWBA王者アンドリュー・マロニー(豪州)を攻略してベルトを奪取。この一戦は終盤の11回に奪ったダウンが勝敗の決め手となった。契約にあった再戦条項をマロニーが行使して両者は同年11月再び対戦。2ラウンド途中からフランコの右目が腫れ上がり、試合は3回開始直後にドクターストップ。長いビデオ検証の結果、無効試合の裁定が下った。

 不満のマロニーと陣営はWBAに抗議して昨年8月、第3戦が実現。明白な判定勝ちを収めたフランコが王座を防衛した。これまでのフランコのキャリア(18勝8KO1敗2分1無効試合)を振り返る時、ネグレテそしてマロニーとの3連戦は大きなアクセントを残している。

 ベルトを守ったフランコは当時のWBAスーパーフライ級スーパー王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との団体内の統一戦が待望された。しかし交渉ははかどらず、入札に持ち込まれたものの、GBPが落札した金額が低額すぎて両陣営とも対戦に興味を示さないまま消滅。エストラーダは注目度も報酬も桁違いの“ロマゴン”ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との第3戦を優先する決断を下した。

 今、スーパーフライ級はエストラーダ、ロマゴン、井岡、ロドリゲスにIBF王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)とタレントがしのぎを削り、軽量級の中で豪華なラインナップを誇る。ベルトは保持しているが、マロニーとの第3戦以来リングを遠ざかっているフランコは“6番手”と見られる。2度体験した“3番勝負”は実力アップに貢献したが、一方で各試合が強烈なインパクトに欠けたのも事実だった。他の5人が持っている輝きに比べると、まだスタイルが地味な印象がぬぐえない。

勝負強い万能型

 とはいえ、名将ロバート・ガルシア・トレーナーに師事し、“ザ・プロフェッサー”のニックネームを持つフランコはマロニーとの連戦で発揮した勝負強さが井岡を向こうに回しても武器になるはずだ。とりわけ試合の後半になるとエネルギッシュに立ち向かう。そしてアウトボクシングができると同時に接近戦でもとことん相手と渡り合える強いメンタリティーが取り柄。耐久性にも優れ、相手が強いほど潜在能力を発揮する。

名将ロバート・ガルシア氏(左)のコーチを受ける(写真:nyfights.com)
名将ロバート・ガルシア氏(左)のコーチを受ける(写真:nyfights.com)

 彼の実力を試すには井岡は持って来いの相手だろう。すでにボクシングシーン・ドットコムのファンの討論ページでは「イオカのユナニマス判定勝ち(3-0)だろう。フランコはいい選手だけど、卓越したテクニックに勇敢さを兼ね備えたイオカが世界タイトルマッチの経験の差で勝つだろう」という意見があれば「イオカは最近の2試合で精彩を欠いているようにも見える、特にフランシスコ・ロドリゲスとは苦戦だった。だからフランコにも十分勝つチャンスはあるだろう」という見方をするファンもいる。

 井岡は連続9度の防衛に成功していた前IBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦を望んでいた。しかしアンカハスはマルティネスに敗れ、今月8日に行われたダイレクトリマッチでも連敗した。念のためマルティネス陣営にWBO・IBF統一戦の話を振ってみたが、今のところ話は具体的になっていないとの返事。やはり次はフランコで決まりという雰囲気が感じられる。

 勝者が12月3日、米国アリゾナ州グレンデールで行われるエストラーダvsロマゴンの勝者と3つのベルトを争って対戦する設定。フランコ戦は井岡有利の予想が妥当に思えるが、フランコの実力が侮れないところが、いっそう試合への興味をつのらせる。正式発表はもうすぐだろう。11回目の大みそか登場となる井岡。最後の最後に年間最高試合が堪能できるかもしれない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事