Yahoo!ニュース

赤穂亮との対決もあり? 家庭人になった悪童ネリが語る人生のアップダウン

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
悪童ネリの復活はあるか。これはパヤノ戦(写真:REX/アフロ)

今週末、地元でノンタイトル戦

 元WBC世界バンタム級&同スーパーバンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)が今週土曜日1日(日本時間2日)地元メキシコ・ティファナのリングに立つ。8ヵ月ぶりの登場となるネリ(32勝24KO1敗=27歳)はヘスス・ルイス(メキシコ=32歳)との10回戦が予定される。現在WBCとWBOでスーパーバンタム級1位、IBF同級3位と上位にランクされるネリはベルト奪回に向けて調整に余念がない。

 5年前の2017年8月、日本人世界タイトル連続防衛記録に接近していた山中慎介をストップしてWBCバンタム級王者に就いたネリだったが、1週間後、違反薬物ジルパテロールが発見されてスキャンダルに発展。すったもんだの末、王座に居座ったネリだが、翌年の山中との再戦を前に大幅な体重オーバーを犯しタイトルはく奪。ハンディを負った山中を序盤でストップしたものの、ボクシングの威厳を著しく傷つけたとして日本では実質的な永久追放処分を通告された。

 それでも生き残ったネリはマックジョー・アローヨ(プエルトリコ)、フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)といった実力者を倒して再浮上。ところが19年11月ラスベガスで予定されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とのWBCバンタム級挑戦者決定戦の計量でリミット1ポンドオーバーの119ポンドをマーク。再計量を拒否してペナルティーを払って試合を行おうとしたがロドリゲス陣営に断られ中止に。回復しかけたイメージをまた失墜させてしまった。

統一戦でKO負け

 ここでネリはアマチュア時代から連れ添ったイスマエル・ラミレス・トレーナーと別れ米国の名将フレディ・ローチ氏に弟子入りする。ところが同氏が運営するハリウッドのワイルドカードジムから時々、無許可でティファナに帰郷していたことが発覚。規律に問題があると判断され、いつの間にか2人の関係は消滅してしまう。続いてスーパーミドル級4冠統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)の師匠、エディ・レイノソ・トレーナーに師事したネリは20年9月、王座決定戦でアーロン・アラメダ(メキシコ)に勝利してWBCスーパーバンタム級王者に就く。しかしレイノソ氏との関係も長く続かず、2人のコンビはアラメダ戦だけに終わる。

 再びラミレス氏の下へ戻ったネリは21年5月、WBA王者ブランドン・フィゲロア(米)との2団体統一戦でフィゲロアのボディー打ちに沈み、初黒星を喫するとともに無冠に転落。まるでそれまでの醜聞のバチが当たったように惨めな姿をさらけ出した。

フィゲロアにKO負けしたネリ(写真:Esther Lin / Showtime)
フィゲロアにKO負けしたネリ(写真:Esther Lin / Showtime)

 そこから這い上がるのは至難の業に思えたが、ネリは今年2月、評判の高かった上位ランカー、カルロス・カストロ(米)にダウンを奪って判定勝ち。スコアカードが2-1と割れたのが不思議なほどのネリの快勝に見えた。ただ以前のいい意味での野性味が薄れたと感じたのは筆者だけだろうか。カストロ戦で地域タイトルを2つ獲得したことでWBCとWBOで1位にランクされたが、今後の試合を見てみないとネリの“現在地”は定まらない気がする。

アカホ、Who?

 その“今後の試合”の相手に赤穂亮(横浜光)が名乗りをあげている。ネリが日本のリングに上がれないだけに実現すれば米国でのイベントになるだろう。ラミレス氏を通じてネリにコンタクトしてみた。

――土曜日ティファナで試合ですね。その次の相手として日本では赤穂亮の名前があがっています。

ルイス・ネリ(以下ネリ)「それは聞いていない。プロモーターもまだコンタクトしていないはずだよ」

――赤穂は自身のユーチューブ・チャンネルで「3ヵ月後ぐらいには」と話していますが……。

ネリ「う~ん、どうかな。私が打診されているのはフィリピン人で、確かパガレスという名前の選手(筆者注:元スーパーバンタム級ランカーのアルバート・パガラと推測される)。ショータイムが中継することになっている」

――その試合に勝てば、世界挑戦のチャンスが広がりますね。チャンピオンに復帰する自信はありますか?

ネリ「シー(イエス)。でも今は土曜日の試合に集中している。そのためにハードなトレーニングを行っている」

――スーパーバンタム級にはスティーブン・フルトン(米=WBC&WBO王者)とムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン=WBAスーパー&IBF王者)と2人の統一王者が君臨しています。どちらに挑戦したいですか?

ネリ「フルトンはスムーズなボクサーでボクシングが巧妙。もう一人はスペクタクルな試合をする。ランキング的にはフルトンの方が可能性が高い。実力もフルトンに軍配が上がるんじゃないかな」

――現在、あなたをリングに駆り立てるものは何ですか?

ネリ「経済的により良い生活をすること、実績を残せるキャリアを送り、チャンピオンのまま引退すること。リング上だけでなく、リングを降りてもチャンピオンでありたい。それがモチベーションにつながる」

 こちらの「一番対戦させたい相手は?」という質問にラミレス氏は「状況が許せば、ヤマナカとの第3戦」と答えたが、それは無理な注文だろう。

新星ジェシー・ロドリゲス(左)とも手合わせした(写真:Zanfer Boxing)
新星ジェシー・ロドリゲス(左)とも手合わせした(写真:Zanfer Boxing)

私は普通の人間だ

 彼のプロモーター、「サンフェル・ボクシング」は土曜日の試合用にフェイスブックでPRビデオを流している。そこでネリは山中との第1戦から現在までのキャリアを回想しながら率直な感情を吐露している。

 「22歳で目標を達成したけど、あまりにも若すぎた。たくさんのことが変化した。自分の変化よりも周囲の人々の接し方のほうが変わったと思う。それ以前と明らかに違っていた。最終的にそれが自分に降りかかって来て自分が変わった。悪い方向へ行ったこともある

 ネリの発言から、もっとも問題視される規律の問題が浮かび上がる。しかしドーピング疑惑は試合前に実施された検査に端を発する。前後関係が異なる。チャンピオンになってチヤホヤされたのは事実だろうが、それは他の選手も同じ。若さだけのせいにするには無理があるのではないか。

 「パンテラ(ネリのニックネーム=豹の意味)ネリは今、家庭の人になった。ワイフと娘たちと落ち着いた生活を送っている。映画を観に行くし、レストランで食事をし、彼女たちや両親と過ごすことにしている。私は普通の人間と変わらない

 メキシコでも悪童のイメージは相当、堪えたはず。それを懸命に払しょくしたいと願う様子がうかがえる。映像ではクールに理路整然と自分をアピール。これがあのネリかと思わせる。

 「これまでマジでひどい時期があり、きつい失敗を体験した。でもそれによって私は人生をどう評価するかを学習した。家族を重んじること、近寄ってくる人間をどう査定するかを学んだ。それが、この5年間の一番の収穫だった

 彼が言う苦悩とはバンタム級タイトルはく奪、黒星を指す。いずれも自己責任、身から出たサビだが、ベルトを失ったのは周りのせいだと言いたげ。うまく責任転嫁している。目標に掲げる人生のチャンピオンへの道はかなり険しいとみる。

 今、フィリピンからの情報で今後ネリと対戦しそうなのはIBFスーパーバンタム級1位マーロン・タパレス(フィリピン)だと判明した。日本のリングにも上がったタパレスとネリはIBFスーパーバンタム級暫定王座を争う運びだという。そうなると赤穂は次戦でジョンリール・カシメロ(フィリピン)を選択する可能性が強くなった。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事