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井岡一翔は次、誰と戦うのか?WBA王者フランコと統一戦が待望されるこれだけの理由

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井岡一翔vsドニー・ニエテス第2戦(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

ゴージャスなラインアップ

 宿敵ドニー・ニエテス(フィリピン)との4階級制覇王者対決に快勝したWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)がいよいよ統一戦へ舵を取ろうとしている。スーパーフライ級は今、群雄割拠、百花繚乱の様相を呈しており、井岡はきっと腕をさすっていることだろう。何しろ彼のほか“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)、フアン・フランシスコ“ガリョ”エストラーダ(メキシコ)、ジェシー“バム”ロドリゲス(米)が頂上に君臨。IBF王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)と前王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)、“バム”の実兄WBA王者ジョシュア・フランコ(米)、フランコと3試合連続戦ったアンドリュー・マロニー(豪州)らも控えており、層の厚さは軽量級随一。全クラスを通じても屈指のラインナップを誇る。

 世界的な関心度ではロマゴンvsエストラーダ第3戦の行方がトップに挙げられる。今のところ12月開催が有力。他方で将来のスーパースター候補ロドリゲスは一旦、フライ級へ下げてWBO王者の中谷潤人(M.T)あるいはIBF王者のサニー・エドワーズ(英)へ挑む計画を明かしており、9月17日の防衛戦(相手はイスラエル・ゴンサレス=メキシコ)以後の動向に注目が集まる。

WBA王座を返上したエストラーダ

 さて、ロマゴンとエストラーダに関して触れておきたいのは、両者は実質的に無冠だということである。超激闘が繰り広げられた2人の第2戦(2021年3月)で2-1判定勝ちしたエストラーダは保持していたWBC王座に加え、ロマゴンからWBAスーパー王座を奪取。押しも押されもせぬ2団体統一王者に就いた。ところがWBCはエストラーダをフランチャイズ王者へシフトする。これはWBAのスーパー王者に比肩するステイタスとも受け取られるが、まだスーパー王者が定義できるのに対して、フランチャイズ王者はより“名誉職”に近い。「今、WBCスーパーフライ級チャンピオンは誰か?」と問われれば、マウリシオ・スライマンWBC会長ですら「ジェシー・ロドリゲス」と答えるほどだ。

 エストラーダは7月、WBAスーパー王座を返上する意思を表明し、WBCフランチャイズ王者一本に絞った。理由は2つ。まずWBAから通達されていたレギュラー王者フランコとの指名試合が成立しなかったこと。と言うよりもエストラーダが報酬の少なさを理由に拒否したため。そして待望されるロマゴン戦を締結させたい目的が見逃せない。日本人的な感覚ではフランコ戦を実現して筋を通すことが肝心かもしれないが、「エストラーダはスマートな(賢明な)決断をした」と称賛する米国メディアもある。具体化してきた第3戦はエストラーダのフランチャイズ王座の防衛戦という設定で行われる見込みとなっている。

 主催者(プロモーター)にとって何らかのベルトが懸けられるか否かは興行収益に大きく影響する。とりあえず名誉職と言えども王座を保持しているエストラーダは希少価値ならぬ貴重価値を有する。そしてエストラーダvsロマゴンの勝者は改めてスーパーフライ級最強の称号を手にする。しかしこれでは仮に勝者と井岡との一騎打ちという、井岡本人と日本のファンにとっての僥倖が舞い込んでも争われるベルトは井岡のWBO王座のみという事態になりかねない。

エストラーダvsロマゴン3は12月開催が有力(写真:Matchroom Boxing)
エストラーダvsロマゴン3は12月開催が有力(写真:Matchroom Boxing)

打ってつけの相手

 現時点では、井岡のターゲットはマルティネスvsアンカハスのダイレクトリマッチの勝者が一番手に挙げられる。この一戦は10月8日、米カリフォルニア州カーソンのディグニティ・ヘルス・スポーツパークで開催される予定。まだ2ヵ月近く先だ。井岡の次戦が恒例の大みそかに挙行されると仮定すると、どちらが勝っても準備期間が少ないのではないだろうか。エストラーダvsロマゴンの勝者に至っては大みそか開催は不可能だ。

 これらの状況を考慮し、なおかつ井岡の念願を叶える相手はWBAレギュラー王者フランコが最適だと思える。エストラーダのスーパー王座返上で唯一無二のWBAスーパーフライ級王者となったフランコは、他団体のチャンピオンと問題なく統一戦が締結できる。もちろん交渉が成立すればの話だが、丸1年リングから離れているフランコ(18勝8KO1敗2分1無効試合=26歳)にとって渡りに船ではないか。フランコがオファーを承諾する可能性は少なくないとみる。

 現状では弟ロドリゲスの陰に隠れている印象を受けるフランコにとり、井岡戦は画期的な試合になるであろう。マロニーとの第3戦に勝ったリングでフランコは「統一戦を実現させたい。チョコラティート(ロマゴン)、ガリョ、イオカ……」とアピールした。

 最終的にエストラーダ、ロマゴンとの対決を目指す井岡にとって2団体統一王者に就くことは箔づけにつながる。ニエテスを下した翌日の会見で井岡自身も「エストラーダを引きずり出すためにも僕が2本ぐらい獲らないと」、「タイトルをまとめると、その先につながると思う」と今後の目標を掲げた。次戦でフランコを迎えることになっても反論は出ないはずだ。

米国リング再登場の期待

 ちなみに2020年6月から21年8月にかけてフランコと3度グローブを交えたマロニーは、バンタム級3団体統一王者井上尚弥(大橋)に挑戦したジェイソン・マロニー(豪州)の双子の弟。彼らのマネジャー、トニー・トリュ氏は「イオカが次戦で統一戦を望んでいるなら、ぜひアンドリューの挑戦を受けてほしい。今年の暮、そう、大みそか日本で」としきりに売り込んでいる。

 フランコとの第3戦で3-0判定負けしたマロニーはその後3連勝(2KO)と上り調子。4団体すべてで上位にランクされており虎視眈々とチャンスをうかがっている。だが、無冠であることに変わりなく、いずれも接戦だったとはいえ(第2戦は2ラウンド終了時で無効試合)フランコに競り負けた事実は否定できない。統一戦という重みを加味するとフランコがより適任だと思われる。

 井岡vsフランコの勝者と、エストラーダvsロマゴン3の勝者というシナリオが理想的か。そこに天才ロドリゲスが絡む。もしかして兄弟対決という展開も想定されるが、それはそれで意外性があって楽しい。ドリームマッチが目白押しというところがスーパーフライ級の充実度を物語る。その中心人物の一人に井岡がいる。お馴染みの大みそかの後は米国リングでビッグファイト――。いやが上にも期待が膨らむ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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