Yahoo!ニュース

井上尚弥に比肩する才能。スーパーフライ級王者ロドリゲス。2人の対決はいつ実現するか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ロドリゲス-シーサケット(写真:Ed Mulholland/Matchroom)

年間最高選手を井上と争う

 世界バンタム級3団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)が米英の著名ボクシングメディアから今年の「ファイター・オブ・ジ・イヤー」(年間最高選手)に選出される可能性はかなりあると思う。ちょっと早いが、その栄光を井上と近い階級で狙っているのがWBC世界スーパーフライ級王者ジェシー“バム”ロドリゲス(米)だ。2月に王座決定戦でカルロス・クアドラス(メキシコ)、6月の初防衛戦ではシーサケット・ソールンビサイ(タイ)と元王者を撃破し、評価がうなぎ登りの22歳。歴史と権威がある専門誌「ザ・リング」などでパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングのトップに君臨する井上を追って、同ランキング入りする勢いを感じさせる。

 ロドリゲスはサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)vsゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)第3戦(9月17日・ラスベガス)のセミファイナルで現在WBC10位のイスラエル・ゴンサレス(メキシコ)と2度目の防衛戦がセットされた。今回が4度目の世界挑戦となるゴンサレスはメキシコ随一のプロモーションに台頭した「サンフェル・ボクシング」傘下の選手。サンフェルにはフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ=WBCスーパーフライ級フランチャイズ王者)が所属しており、エストラーダの宿敵”ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)も同社のイベントで世界タイトル戦のリングに上がったことがある。将来、ロマゴンやエストラーダとの対決が待望されるロドリゲスに対し、“尖兵”として送られるのがゴンサレスだという見方ができる。

フライ級挑戦は本当か?

 いずれにしても“バム”(ドスンと叩くの意味のBangから派生)の愛称で呼ばれるロドリゲスには対戦相手のオプションが豊富。井上同様、今後の軽量級の牽引者になると予想される。9月の試合後の展望として彼は112ポンド(フライ級)に下げて2階級制覇を目指すと語っている。シーサケット戦後に明かしたターゲットはWBO世界フライ級王者中谷潤人(M.T)だった。最近の発言では同級IBF王者サニー・エドワーズ(英)に敵地へ行って挑戦してもかまわない――とも話している。そしてクアドラス戦の前までナチュラルウエートだった108ポンド(ライトフライ級)まで落として3階級制覇を目指す選択肢もあるというから驚く。

 ただ若く、体が成長過程にあるロドリゲスが果たしてクラスを下げてリングに上がるのかは予断を許さないところがある。体重を上下させることに関して彼は「ノープロブレム」を強調するが、普通に考えて115ポンドでビッグマッチを成立させながら勝ち抜き、118ポンド(バンタム級)へ進出するのが常道ではないだろうか。

 ロドリゲス自身も「まだまだパワーを増強できる」と語り、「たぶん126ポンド(フェザー級)から130ポンド(スーパーフェザー級)ぐらいまで行けると信じている」と見通しを述べる。井上に関して米国メディアの見立ても「フェザー級ぐらいまでは固いだろう。もしかしたらスーパーフェザー級まで行けるかもしれない」というもの。今、スーパーバンタム級進出を念頭に置く井上と軽いクラスへリターンする気持ちがあるロドリゲス。両者は“上下志向”が異なるが、いずれ接点が生まれると予測される。それはいつのことになるのか?

年齢差は7つ

 話は逸れるが、カネロvsゴロフキン第3戦の下馬評はカネロ有利と出ている。オッズは4-1ほどでカネロ。理由は40歳というゴロフキンの年齢と今回はカネロの土俵、スーパーミドル級での試合であること。加えて、また拮抗した攻防となればジャッジの採点はカネロに味方するであろうと推測されるからだ。確かに第1戦のドローは限りなくゴロフキンの勝利に近く、第2戦のカネロの判定勝ちは、どちらに転んでもいいような内容に思えた。それでもゴロフキンは勝利を収めるために前回2試合以上の出来を求められる。第2戦から4年経過して締結した今回の一戦。カネロ陣営は「ゴロフキンの消耗(戦力低下)を待って実現させた」とも揶揄される。

 さてカネロとゴロフキンの年齢差は8つ。井上とロドリゲスは7歳違う。ロドリゲスはいつか訪れるであろう井上の衰えを待って挑んで来るとも推測される。ノニト・ドネア戦後「35歳あたりが(引退の)目安」と明かした井上。果たして彼が現役時代にロドリゲスと雌雄を決するストーリーが待っているだろうか。現在の井上はロドリゲス以上に対戦相手を引きつけて止まない磁石のような存在。年内に実現が計画されるWBO王者ポール・バトラー(英)との4団体統一戦をクリアすれば来年、米国でスーパーバンタム級王座へ挑むのが既定路線に思える。

 相手はWBC・WBO統一王者スティーブン・フルトン(米)かIBF・WBAスーパー統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)か。どちらが勝ち上がってもvsモンスターはシビれるカードになる。私は井上にとって今後、もっともカンファタブルで(居心地の良い)、実力を発揮できるクラスはスーパーバンタム級ではないかと思っている。

接点はスーパーバンタム級

 フェザー級、スーパーフェザー級制覇の野望を打ち明けたロドリゲスが途中のスーパーバンタム級を素通りすることはないだろう。そこにモンスターがいればなおさらだ。仮にこれから3年というスパンで考えてもかなり実現しそうなカードだと思える。あるいは2人がフェザー級まで進出して対決するシナリオもあるかもしれないが、それはいまのところ空想の域を出ない。

 スーパーバンタム級までの井上に“消耗”は見られないだろう。一方その時ロドリゲスはスキルに磨きをかけ、一段とパワーアップしているに違いない。察するに最高の舞台で最高のコンディションで両者は軽量級の覇権を争う設定となる。これも舞台は米国か?いや、エドワーズ戦のため英国へ行きたいと言っているロドリゲスなら日本で戦うことも問題ないだろう。

 井上の当面の敵はバトラー、続いてフルトンあるいはアフマダリエフとの一騎打ち。スーパーバンタム級で一世を風靡した井上がロドリゲスを迎え撃つ。究極のカードの実現は2年後あたりか?一日千秋の思いで実現を待ちたい。

最新の防衛戦でロニー・リオス(左)を最終回ストップしたアフマダリエフ(写真:Ed Mulholland/Matchroom)
最新の防衛戦でロニー・リオス(左)を最終回ストップしたアフマダリエフ(写真:Ed Mulholland/Matchroom)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事