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井岡一翔・井上尚弥も選択肢? 35歳ロマゴンが退陣前に熱望する4人の相手

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
母国ニカラグアで練習を開始したゴンサレス(写真:ロイター/アフロ)

12月ロドリゲスに挑戦か

 ミニマム級からスーパーフライ級まで4階級を制覇したローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がパウンド・フォー・パウンド・ランキング・ナンバーワンに君臨したのは2016年頃だった。海外では“チョコラティート”、日本では“ロマゴン”と愛称で呼ばれることが彼の親しみやすさを物語る。現在彼のポジションはWBA、WBCともスーパーフライ級1位。地元ニカラグアのメディア「ラ・プレンサ」が近況をレポートした。

 それによると彼の共同プロモーター、マッチルーム・ボクシングのトップ、エディ・ハーン氏がWBCスーパーフライ級王者“バム”ことジェシー・ロドリゲス(米)挑戦を第一オプションとしてオファーしている。ハーン氏は「12月にできれば開催したい」と明かし、一躍、注目度が増しスター候補と呼ばれ始めたロドリゲスと現役レジェンド、ロマゴンとの対決を画策する。

 このカードは理にかなっている。まず王者と1位の対戦。そしてロドリゲスは9月17日ラスベガスで行われるサウル“カネロ”アルバレスvsゲンナジー・ゴロフキン第3戦のセミファイナルでイスラエル・ゴンサレス(メキシコ)と防衛戦が組まれている。世界挑戦4度目となるゴンサレスは、2020年10月ロマゴンに挑戦して判定負け。その2年前にはロマゴンがWBA世界スーパーフライ級王座を奪ったカリド・ヤファイ(英)に挑戦して判定負け(もう1試合はIBF王者ジェルウィン・アンカハスに10回TKO負け)と敗退したが、手数が旺盛で頑張りが利くタフガイだ。そして最近2試合でロドリゲスがカルロス・クアドラス(メキシコ)、シーサケット・ソールンビサイ(タイ)とロマゴンの好敵手だった2人に印象的な勝利を飾っていることは見逃せない。

 ロドリゲスvsイスラエル・ゴンサレスはロドリゲスvsロマゴン成立のための伏線と考えて間違いないだろう。

優先順位トップは井岡

 3月にWBC世界フライ級王者フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)に快勝したロマゴンは今のところ試合予定がない。それでも地元マナグアのジムで始動し、いつでも米国カリフォルニア州へ移動して臨戦態勢に入れる状態だという。練習熱心で知られるロマゴンだが、彼のモチベーションをかき立てるものはベルトであり、名誉復活であり、マネーだと同メディアの記事は伝える。そこに“引退”を視野に入れている様子がうかがえる。

 マルティネス戦のパフォーマンスからロマゴンに衰えは感じられなかった。無冠の現在でも一部メディアは彼をスーパーフライ級のトップに据えている。平たく言えば、ライバルのWBA世界スーパーフライ級王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)や同級WBO王者の井岡一翔(志成)よりも強いという認識だ。それを実証するために、この2人との対決は彼が退陣する前にぜひとも実現してもらいたいと思う。

 「ラ・プレンサ」の見解も優先順位のトップに井岡を挙げる。井岡が先週、軽量級4階級制覇王者ドニー・ニエテス(フィリピン)に大差の判定勝利を収めたことが影響しているだろう。もちろんロマゴン自身も大いに乗り気。記事では「108ポンド(ライトフライ級)王者時代の井岡にオファーが提示されたが、彼の陣営は応じることがなかった」と解説。そして「チョコラティートには待機料が支払われた……」として金額まで記されているが、ニカラグア側の主張だけにここで明かすことは控えたい。それでも「井岡はその後、2階級でタイトルを獲得しアジアの軽量級で押しも押されもせぬ地位に就いた」と持ち上げる。ニカラグアでも井岡は知名度があり、「井岡戦をファンは見逃すわけには行かない」と記す。ただし米国開催は難しく、決まれば日本になるだろうと補足する。

 その点、エストラーダとの決着戦はメキシコ、ニカラグア両国のファンが集結する米国で実現が待たれる。これまでも2度ほど具体的になったが、いずれもコロナ禍で流れてしまった。昨年3月テキサス州で行われた第2戦は稀に見る激闘となり、2-1判定でエストラーダが勝利。両者ともおよそ100万ドルのファイトマネーを得たと言われ、再度締結すれば前回を上回る金額を得るだろうと予想される。今、このカードが暗礁に乗り上げているのはエストラーダとWBAレギュラー王者ジョシュア・フランコ(米=ロドリゲスの実兄)との一戦がなかなか成立しないため。対戦機運は徐々に薄れ、ロマゴンの心はロドリゲスと井岡に移りつつあるようだ。

 と思っていたら、たった今メキシコのメディアが「エストラーダはWBAタイトルを返上する。フランコとの指名試合は消滅」と報じた。どうやらファンの関心が高いロマゴン戦にエストラーダは突き進むもよう。ノンタイトル戦をはさんで実現させたいと語る。すでに高地トレーニングを始めたニュースも流れている。

2018年9月の「スーパーフライ」シリーズ3より。右から井岡、パリクテ、ロマゴン、ローファー・プロモーター、ニエテス、エストラーダ(写真:360プロモーションズ)
2018年9月の「スーパーフライ」シリーズ3より。右から井岡、パリクテ、ロマゴン、ローファー・プロモーター、ニエテス、エストラーダ(写真:360プロモーションズ)

いよいよモンスターが視野に

 一方ロドリゲスは「115ポンド(スーパーフライ級)はジョシュアに託した。彼はエストラーダにもチョコラティートにも勝ってビッグサプライズを巻き起こすだろう。私は112ポンド(フライ級)に下げて(逆)2階級制覇を目指す」と広言。フライ級には“ニューモンスター”とも呼ばれ出した中谷潤人(M.T)がWBO王者に君臨するだけに興味津々。とはいえ今、スーパーフライ級に新旧タレントが集合しているのは事実。ロドリゲスがロマゴン戦に前向きな姿勢なのは否定できない。ハーン氏が画策する12月開催は、かなり見込みありだと思える。繰り返すがロマゴンと戦ったクアドラス、シーサケットを撃破したロドリゲスがロマゴンに勝てば、これまで以上にセンセーションを巻き起こすだろう。だが、勝敗予想が拮抗することがニカラグア人の実績と実力の高さを引き立たせる。

 ロドリゲスは「兄は一時バンタム級で戦っていた。バンタム級で2階級制覇だって可能だろう」と発言。フランコがバンタム級3団体統一王者井上尚弥(大橋)に挑む可能性にも触れている。これはこれで非常に興味深いカードで、井上、フランコとも米国のプロモーターはトップランクという共通点がある。一方で知り合いの記者の中には「井上は今後予想されるスーパーバンタム級進出を前にスーパーフライ級の強豪ロマゴンやエストラーダと防衛戦を行う選択肢もある」と指摘する者もいる。そう、ロマゴンのレーダーの中にモンスターの影が現れてきたのだ。

 ラ・プレンサの記事は「112ポンドでも115ポンドでもチョコラティートは井上と対戦を望んでいた。だからチャンスは今しかない」と煽る。そして「待たされたレジェンド対決、メイウェザーvsパッキアオのような展開が待っているかもしれない」と結ぶ。

 果たしてそれは事実だったのか?ともあれ、ロマゴンvs井岡、エストラーダ、ロドリゲスそして井上はどれもが黄金カード。最後のひと花を咲かせるには豪華すぎるラインナップだ。大団円で売り手市場を謳歌するロマゴン。それが35歳、51勝41KO3敗、17年のプロキャリアの奥深さを印象づける。これから、いったいどんなドラマが控えているか興味は尽きない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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