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日本人ライト級中谷正義、吉野修一郎、三代大訓、伊藤雅雪が新4団体統一王者カンボソスに勝つ可能性

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
比類なき王者カンボソス(写真:Ed Mulholland/Matchroom)

8度の延期でやっと実現

 ヘビー級3団体統一王者アンソニー・ジョシュア(英)がオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)に王座を明け渡し、レジェンドのマニー・パッキアオ(フィリピン)が代役ヨルデニス・ウガス(キューバ)に敗れ引退を決意。元4階級制覇王者マイキー・ガルシア(米)が欧州王者とはいえ無名のサンドル・マルティン(スペイン)に判定負けと今年は番狂わせが相次いだ。その中でも27日(日本時間28日)ニューヨーク・マジソンスクエアガーデンのフールー・シアターで行われたテオフィモ・ロペス(米)vsジョージ・カンボソス(豪州)のライト級4団体統一タイトルマッチは最大のものとなった。

 WBAスーパー・IBF・WBO・WBCフランチャイズ王者ロペスがIBFの指名挑戦者としてリングに上がったカンボソスとダウン応酬の末、2-1判定負け。4冠+リング誌ベルトを一度に失った。直前のオッズが13-1で大きくロペス有利だったことからも仰天の結果と言えよう。

 この一戦ほど実現の道が険しかった試合は近年ない。入札で日本円で6億円という巨額を提示して開催権を獲得した米ネット企業「トリラー」が最終的に権利を放棄。8度もスケジュールが延期されたロペスの指名試合はエディ・ハーン・プロモーターのマッチルーム社とストリーミング配信DAZNが助け舟を出して開催にこぎ着けた。勝敗を分けたのは両者のコンディションの差に思えた。

新王者は元パッキアオの練習相手

 IBFライト級王者だったロペスは超絶のテクニックを誇る3団体統一王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を攻略して“比類なき”チャンピオンの座に就いた。しかし延期が重なったことでリング登場は13ヵ月ぶり。この空白は彼にマイナスに作用した。同時に「次の試合で140ポンド(スーパーライト級)に上がる」と公言したように135ポンドのライト級では減量苦が明らかだった。

 対するカンボソスもロマチェンコvsロペスの2週間後が最新試合だったからブランクはほぼ同じ。そのリー・セルビー(英)とのIBFライト級挑戦者決定戦は2-1判定勝ちの辛勝。正直、どちらの手が上がっても不思議ではない内容に思えた。それ以前の試合も決め手に欠ける印象がした。それでもカンボソスには試合が締結してから徹底的にロペスを研究し対策を練った跡がうかがわれた。また以前、パッキアオのキャンプに加わり、メイン・スパーリングパートナーを務め力を蓄えたことが今回、花を咲かせた一因だと思える。

マニー・パッキアオをヘルプした当時のカンボソス(写真:Team Kambosos)
マニー・パッキアオをヘルプした当時のカンボソス(写真:Team Kambosos)

 一夜にして「シンデレラボーイ」となったカンボソス(28歳)は今週土曜日4日ラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナで行われるWBCライト級レギュラー王者デビン・ヘイニー(米)vsジョセフ・ディアス(米)の勝者との対戦を優先したいと明かす。ちなみにWBCはSNSでロペス戦で獲得したフランチャイズ王座を「ユニファイド(統一)チャンピオン」に変更すると伝えている。意味や存在が不明確なフランチャイズよりもわかりやすくなった印象がする。

 いずれにしても、番狂わせを起こしたカンボソスがその名称に相応しい尊敬を得るには次戦の相手がヘイニーになるにせよ誰になるにせよ、もう少し時間がかかるだろう。確かに強打を誇るロペスにスコアは2-1にしても明白な勝利を飾ったのは事実だが、絶対的な強さを誇示したわけではなかった。左ジャブを基調にしたアウトボクシングとダウンを奪った右オーバーハンドは評価できても強豪ぞろいのライト級戦線で今後サバイバルできる保証はない。

世界を肌で感じた中谷。3冠王の吉野

 そこで注目したいのが日本人世界ランカーたちである。主要4団体のランキングを見渡すと中谷正義(帝拳)、吉野修一郎(三迫)、三代大訓(ワタナベ)が15位以内にランクされている。また三代に判定負けしたものの、7月再起した元WBOスーパーフェザー級王者伊藤雅雪(横浜光)もゴロフキンvs村田諒太のカードで吉野との一戦が控えている。

 海外リングの経験と知名度ではロペス、ロマチェンコと戦い、世界ランカーだったフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)とダウン応酬の激戦の末、TKO勝ちした中谷(19勝13KO2敗)がリードしている。中谷は左ジャブに続く右強打が武器。ロペス戦でも終盤ロペスを一瞬グラつかせた場面があり、今回の試合でロペスの右を断続的に被弾していたカンボソスにも通用すると推測される。

 プラス、中谷には「技術があるしフィジカル面も強い。気持ちも強い」(スパーリングを行ったボクサー)という評価も聞かれる。そしてロマチェンコにはストップされたが、最高峰のテクニックを肌で感じたことが財産となった。敗戦をバネに再び世界のリングで羽ばたいてもらいたい。

ビッグネームのロマチェンコと戦った中谷(写真:Top Rank)
ビッグネームのロマチェンコと戦った中谷(写真:Top Rank)

 現在の勢いという点で日本人ライト級トップ戦線をリードするのが吉野だ。日本・ОPBF(東洋太平洋)・WBOアジアパシフィックの地域タイトル3冠を保持する。アマチュアで活躍した吉野はプロで14勝11KO無敗。今や日本一の「チャンピオン・メーカー」となった名門の三迫ジムのエースで、4団体すべてにランクされる(最高位はWBO5位)。

 軽量級ならば世界挑戦が実現してもおかしくない評価とポジションを得ているが、層が厚く人気選手が集結するライト級だけにさらなる躍進が期待される。本人がもっとも得意とするのが左ボディー打ちで「左右フックどちらでも倒すことができる」、「パンチの的確さが持ち味で、接近戦でもカウンターが取れるテクニック」、「急所を狙ってくるのが巧くパワーが半端ではない」というスキルやパワーを称賛する意見がある一方で「とにかく冷静で人間的な勝負強さが感じられる」というメンタル面の長所を兼備している。

日本王座をはじめ3冠を保持する吉野(写真:ボクシング・ビート)
日本王座をはじめ3冠を保持する吉野(写真:ボクシング・ビート)

ジャブが光る三代。元世界王者の伊藤

 一方、昨年末、伊藤に競り勝った三代はОPBFスーパーフェザー級王者からライト級に進出。戦績こそ10勝3KO1分無敗とパワー不足を感じさせるものの、「距離感が抜群で相手の長所を封じるのが巧い」とボクシング通を唸らせながらトップシーンに台頭してきた。彼の生命線は左ジャブに尽きる。

 「あのジャブはタイミングがよく、よけづらい。相手を徹底して研究し、それを試合で生かすのがすごい」(ジムの同僚)。図らずも三代からロペスを攻略したカンボソスを想起してしまう。伊藤戦で魅せたヘッドスリップやステップ、クリンチといったディフェンスも秀逸でツボにハマればカンボソスを翻弄する姿が想像できる。豪州人王者との相性は悪くないのではないか。12月2日に迫った西谷和宏(VADY)との一戦でどんなパフォーマンスを披露するか注目される。

 そして伊藤(27勝15KO3敗1分)。吉野との対決は予想不利が否めないが、三代よりもかみ合うと察せられる。海外試合は王座を獲得したクリストファー・ディアス(プエルトリコ)と失ったジャメル・へリング(米)戦のみだが、新人時代からロサンゼルスを拠点に長期トレーニングを敢行しており、吉野や三代よりもアウェーの環境に慣れているのが強み。失地回復を目指すモチベーションも高いとみる。吉野戦で一世一代の出来を披露してサプライズを起こすかもしれない。

尾川の戴冠に続くのは誰か

 カンボソス(20勝10KO無敗)の快挙でライト級戦線が一段と過熱する様相を見せる。地元豪州で初防衛戦を希望する新王者が彼ら日本人挑戦者を迎える可能性は今のところ、そう大きくない。だが一気に4団体、比類なき王者に君臨するチャンスは頻繁にあるものではない。彼らが所属するジムは日本を代表する名門揃い。ビジネスが進展する状況はある。

 階級が近いスーパーフェザー級で尾川堅一(帝拳)がロペスvsカンボソスと同じリングでIBF王者に就いた。その勢いに乗りジャパニーズ・ファイターに僥倖がもたらされ、金的を射止めることを願いたい。殊勲に酔いしれるカンボソスだが、今、挑戦すれば無敵とは思えない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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