強敵を10回TKO

 ラスベガスのマンダレイベイ・リゾート&カジノで20日(日本時間21日)行われたWBO世界ウェルター級タイトルマッチは王者テレンス・クロフォード(米)が挑戦者で元IBF&WBC同級王者ショーン・ポーター(米)に10回1分21秒TKO勝ち。5度目の防衛に成功した。試合前の予想は6-1ないし7-1でクロフォード有利と出ていただけに順当な結果と言える。それでも実力が高く評価されながらそれを証明する機会がなかったクロフォードにとり、強敵ポーターに鮮烈な決着をつけた意味は大きい。

 プロボクシングの17階級(WBCはヘビー級とクルーザー級の間にブリッジャー級を新設したため18階級)の中でも147ポンド(66.68キロ)リミットのウェルター級は別格と見られる。一言でいうとスター選手がこぞってこのクラスに集結するからだ。マニー・パッキアオやフロイド・メイウェザーがそうであり、その前にはオスカー・デラホーヤ、フェリックス・トリニダードらが覇権を争った。往年の名チャンピオンになると枚挙にいとまがない。名実(栄誉とファイトマネー)ともにヘビー級と人気を二分するか、むしろ上回る印象さえある。

 そんな珠玉のクラスで、WBC・IBF統一王者エロール・スペンス・ジュニア(米)とともに2トップを形成しているのがクロフォード。締結間近と言われた両者の対決は残念ながらひとまず流れてしまった。しかしポーターが2019年9月、スペンスと統一戦を行い2-1のスプリットデシジョンで敗れたものの、激闘を演じたことは今回のクロフォードの勝利をいっそう際立たせるものだった。

敗者が脱帽した強さ

 9ラウンドまでの筆者の採点は86-85でポーター優勢(公式スコアカードは87-84,86-85が2者の3-0でクロフォードがリード)。大方の予想通り、ポーターの善戦が目立った。しかしこれも予想通り、クロフォードが地力を発揮した。10回、ポーターが放ったスウィング気味の右に対し、2歩ステップバックしたクロフォードが左アッパーカットをカウンター。ポーターに尻もちをつかせる。カウント後、同じくサウスポー構えから左強打で利かせて2度目のダウンをゲット。レフェリーのカウント中に起き上がったポーターだが、チーフセコンドの父ケニー・ポーターがタオルを要求した。

 「テレンスは明らかに違う。彼が行うことのすべてを感知することはできない。彼はすべてのことを並外れた能力でこなす。テレンス・クロフォードとの試合の難しさと比べたら(私が)エロール・スペンスと12ラウンド渡り合ったことは何でもなかった。私がリングで対戦したすべての選手の中で彼がベストだ」

 敗者は勝者を絶賛した。試合の1ヵ月ほど前、中継したESPNの解説者ティモシー・ブラッドリー氏(元WBOウェルター級王者。パッキアオと1勝2敗)はクロフォードvsポーターを「50-50の試合」と予想。ポーターにも勝機がある一戦と見ていた。だが結果が出ると「ショーンのタフネスには誰も疑いを持たない。でもテレンスが勝つと信じていたよ。クロフォードが地球最強の男だ。彼が私のパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワン。ボクシングのベストな階級、一番タレントが集結するクラス、ウェルター級でそれを証明した」(ブラッドリー氏)。

10ラウンド、最初のダウンを奪ったクロフォード(写真:Mikey Williams/Top Rank)
10ラウンド、最初のダウンを奪ったクロフォード(写真:Mikey Williams/Top Rank)

統一王者スペンスも倒される?

 同氏の試合後の変貌ぶりがおもしろいが、それだけクロフォード(38勝29KO無敗)のパフォーマンスに感銘を受けた証拠だろう。そしていまだにファンが待望して止まないスペンスとの頂上対決に言及。「今まで誰もポーター(31勝17KO4敗1分)をストップすることができなかった。クロフォードと対戦すればスペンスもノックアウトされるだろう。クロフォードがやれることは多すぎる。彼は小柄ではないし、むしろ身長で少し勝る。スペンスはポーターほどクイックではない」

 スペンスはポーター戦の約1ヵ月後に起こした自動車事故から15ヵ月後に元王者ダニー・ガルシア(米)を明白な判定で下して復帰した。ところが締結したパッキアオとのビッグマッチを網膜裂孔(網膜剝離の可能性もあり)のためキャンセル。今回、会場で観戦したが、リング上でクロフォードから対戦を呼びかけられると即座に立ち去ってしまった。周辺情報ではもはやスペンスはクロフォードとの統一戦に関心を失っているという。

 ちなみにブラッドリー氏はクロフォード有利の根拠として“ジャブ”を挙げる。「彼は本当にテクニカルな選手。特長の一つは相手のジャブを見切ることができる。スペンスの攻撃はジャブが生命線で秀逸。ジャブが当たらないとスペンスは何ができる?」

 クロフォードvsスペンスが実現した場合、筆者はスペンスが若干優位ではないかと思っていたが、今回の一戦とブラッドリー氏の意見を聞いて考えが変わってきた。それはそうと同氏が主張するようにパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでクロフォードはトップに立てるのか?

カネロ、井上、クロフォード

 最近の各メディアのPFPはサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ=スーパーミドル級4団体統一王者)、井上尚弥(大橋=WBAスーパー・IBF統一バンタム級王者)そしてクロフォードの3強がしのぎを削っている。

 その中で米国で多数の視聴者を持つESPNは1位カネロ、2位クロフォード、3位井上の順位。以下4位オレクサンドル・ウシク(ウクライナ=ヘビー級3団体統一王者)、5位タイソン・フューリー(英=WBCヘビー級王者)、6位スペンス……と続く。一方、伝統があり権威が高いとされるリング誌は1位カネロ、2位ウシク、3位井上、4位クロフォードの順。以下5位ジョシュ・テイラー(英=スーパーライト級4団体統一王者)、6位スペンス……となっている。クロフォードや井上をトップに据えているメディアもあるが、選考者のラインナップからこの2つのPFPランキングが双璧だと思われる。

 現在、カネロのトップは不動だと見なされる。彼は“つくられた”スターという印象が多分にあり、一度ドーピング違反でサスペンド処分された過去がある。しかし近年の実績は飛びぬけており、1位に異論を唱える向きは少ない。ESPNの2位クロフォードは同ネットワークに登場することが彼をバックアップする。ちなみにブラッドリー氏も選者の一人である。リング誌はアンソニー・ジョシュアを破る殊勲を上げたウシクを井上に代わり2位に抜擢した。

クロフォードも安泰ではない

 井上とクロフォード。選考者の嗜好によって順位が左右される。それでも今回のポーター戦でクロフォードがポイントを上げたのは間違いない。例えばリング誌で順位が逆転するかは定かでないが、少なくとも選者の心理をくすぐることは確かだろう。反対に井上は次回12月のアラン・ディパエン(タイ)との防衛戦で予想通り圧勝したとしてもどれだけPFPランキングにアピールできるかわからない。やはり井上はジョンリール・カシメロとの対決、ノニト・ドネアとの再戦と統一戦が実現して勝つことが望まれる。

 個々のファクターをチェックするとスタイル的に左右スイッチを多用するクロフォードとオーソドックスで戦う井上では比較が難しい面がある。ただ、カシメロ、ドネア以外でもスーパーバンタム級を含めて今後井上と対戦が予想される相手で、井上不利の予想が立つ選手は見当たらない。その点、完ぺきに思えるクロフォードだが、マッチメイクを慎重に行わないと意外と早く王座転落が待っているかもしれない。

28勝26KO無敗1無効試合のエニス。フィラデルフィア出身(写真:BoxingScene.com)
28勝26KO無敗1無効試合のエニス。フィラデルフィア出身(写真:BoxingScene.com)

 米国メディアの中にはウェルター級のピカイチ・プロスペクト、ジャロン・エニスとバージル・オルティス(ともに米)が今クロフォードに挑戦してもセンセーショナルな勝利を飾るのではないかと予想するところがある。筆者も賛同したい。それだけウェルター級は才能がひしめき合い、層が厚いという証拠だ。彼らが指名挑戦者にノミネートされるまで、どれだけクロフォードが時間を稼げるかという憶測まで出ている。今後の“寿命”を考慮すると今、井上がクロフォードより順位が下でも問題はないと思えてくるのだが……。