Yahoo!ニュース

リゴンドウvsカシメロはどっちが勝つ?井上尚弥との一騎討ちを見据えた王者対決を占う

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ゾラニ・テテを豪快に倒したカシメロ(写真:ロイター/アフロ)

勝った者が井上との対決へ前進

 WBAバンタム級レギュラー王者ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ)vsWBO同級王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)まであと2週間あまりとなった。注目の対決は8月14日、ロサンゼルス近郊カーソンのディグニティ・ヘルス・スポーツパークでゴングが鳴る。テクニシャン(リゴンドウ)対スラッガー(カシメロ)というスタイルのコントラストも興味深い。正式決定ではないが、勝者がWBAスーパー・IBF統一王者井上尚弥(大橋)vsWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)の勝者と“比類なきチャンピオン”を決するレールが敷かれており、いやが上にもファンの胸を熱くさせている。

 このカードは米国内に中継する「ショータイム」がスケジュールに入れていた。ところが5月、ドネアがノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に鮮烈なKO勝ちでWBC王者に就くと米興行大手のプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)は「こちらの方が断然おもしろい」という理由で、ドネアvsカシメロにスイッチする。不幸にもカヤの外に置かれたリゴンドウがなぜ不満を表さなかったのは謎だが、フィリピン人強打者対決を見られると思ったファンは喜んだ。

 しかし6月下旬、薬物検査に関するカシメロ陣営の対応に疑惑の目を向けたドネア側がソーシャルメディアによるトークバトルを経てキャンセルを決断。リゴンドウvsカシメロがリセットされた。タイトル承認団体のWBOはWBA“レギュラー王者”のリゴンドウを「勝っても統一王者のステイタスに値しない」という理由からこの試合を統一戦として認めない方針だが、大勢に影響はない。

オッズはリゴンドウ有利

 賭け率はbettinginsiderjournal.comというウェブサイトがリゴンドウ+100、カシメロ+200という数字を出している。これはリゴンドウに100ドル投じて賭け金と100ドルが戻る計算。カシメロに100ドル賭けて賭け金と200ドルが入る。平たく言えば2-1でキューバ人が支持されていることになる。

 通常、米国でオッズは有利な選手が「-(マイナス)いくつ」と表記される。同サイトのような表記は珍しいが、逆にこの方がわかりやすい。そして私は同じ2-1にしてもカシメロ有利を予想していた。

 対照的なスタイルを持つ2人だけに当然ながらペース争いが注目される。同時にノックアウト決着ならカシメロ、スコアカードの勝負ならリゴンドウという見方が一般的だろう。うがった見方をすれば、試合がおもしろければカシメロ、退屈ならばリゴンドウが勝つと予測される。

 勢いの点では40歳で18ヵ月ぶりのリングとなるリゴンドウよりも昨年9月の防衛戦でデューク・ミカー(ガーナ)を3回TKO勝ちで一蹴し、中止になったとはいえドネア戦に向け士気が高揚していたカシメロが有利だと見ていた。確かに一瞬でもリゴンドウにミステイクがあれば、前半でカシメロがキューバ人を粉砕してしまうシナリオが頭に浮かぶ。

“ジャッカル”の真髄をお見せする

 それでも身長170センチ、リーチ171センチのリゴンドウは、それぞれ163センチのカシメロに対して体格でアドバンテージを有する。リゴンドウは端正なサウスポーという利点も見逃せない。「私はカシメロの周囲をサークルしながら“エル・チャカル”(=ジャッカル。リゴンドウのニックネーム)の真髄をお見せする」とリゴンドウはアウトボクシングに徹する構えをアピールする。

 冷静に見て、カシメロが強打を爆発させる確率とリゴンドウが打ち合いを回避してWBO王者のパンチを空転させ逃げ切る可能性は五分五分ではないだろうか。以前からマイペースでリングに上がるリゴンドウにブランクはハンディにならないとみる。年齢もプロで20勝13KO1敗1無効試合と試合数が少ないリゴンドウにはさほど影響しないだろう。

 スーパーバンタム級王者だったリゴンドウは2017年9月、2階級上のスーパーフェザー級王者だったワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に挑むも棄権TKO負けで敗退した。連続五輪金メダリスト対決は誰もが無謀だと思ったものだ。その後テキサス州ヒューストンを拠点にする名将ロニー・シールズ氏(元スーパーライト級上位ランカー。日本で浜田剛史に挑戦)に師事して3連勝。2020年2月、山中慎介に挑んだリボリオ・ソリス(ベネズエラ)との接戦を制してベルトを獲得。バンタム級に戻って戴冠したことが大きなサプライズだった。

8年前、ドネアとのスーパーバンタム級統一戦に勝ったリゴンドウ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
8年前、ドネアとのスーパーバンタム級統一戦に勝ったリゴンドウ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

リゴンドウのカウンターとカシメロの精神力

 ヒューストンで調整に励むリゴンドウは「私とシールズで新しい作戦を考案している。もし私がノックアウトで勝っても驚かないでくれ」と言い放つ。彼らの周辺情報ではカウンターに磨きをかけている様子だ。ロマチェンコ戦からの復帰2戦目で元WBCスーパーバンタム級王者フリオ・セハ(メキシコ)を左一撃でKOしたリゴンドウは、けっして非力な選手ではない。

 一方ターゲットがドネアから再びリゴンドウに変わったカシメロ(30勝21KO4敗)はライトフライ級王者(WBO&IBF)、フライ級王者(IBF)を経てバンタム級で3階級制覇を達成した。32歳とリゴンドウより8歳若い。ここまで敗北を肥やしにトップに上り詰めた印象もあり、アウェーのハンディをものともしない精神力も大きな武器となっている。またロサンゼルス・トレーニングでは自国のレジェンド、マニー・パッキアオに同行する機会があり、薫陶を授かっているという。

2-1でリゴンドウ有利の説得力

 ハングリーさでもカシメロに分がありそうだが、果たしてどうか。ミカー戦の前、強打者ゾラニ・テテ(南アフリカ)を撃沈してWBO暫定王者から正規王者に就いた試合もインパクト十分だった。ただボクシングのノックアウトは狙ってできるものではないと言われる。それを実践している井上が高い評価を得る理由である。それでもその定説をこの一戦に当てはめると、判定、KO勝ち2つのオプションを持つリゴンドウに有利に働きそうに思える。それが賭け率に反映されているのではないだろうか。

 カシメロ陣営も秘策を練っているかもしれないし興味は尽きない。もちろんエキサイティングなファイトが繰り広げられることに越したことはないが、ある記者は最悪のシナリオはドロー決着だという。せっかく実現の見込みがある井上vsドネアの勝者との4団体統一戦への道が閉ざされるからだ。ちなみに今日現在ドローの確率は22倍と出ている。

試合はロサンゼルス近郊カーソンでゴングが鳴る(写真:PBC)
試合はロサンゼルス近郊カーソンでゴングが鳴る(写真:PBC)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

三浦勝夫の最近の記事