ロマゴンvsエストラーダ、井岡一翔vs田中恒成は実現する?スーパーフライ級戦線の行方
23日(日本時間24日)メキシコシティのTVアステカのスタジオで行われたトリプル世界戦は以前米国で開催された「スーパーフライ・シリーズ」のメキシコ版の様相を呈した。メインイベントではWBC世界スーパーフライ級王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)が元王者カルロス・クアドラス(メキシコ)とのダウン応酬を制して11回TKO勝ち。2度目の防衛を果たした。一方WBA同級スーパー王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が3度目の世界挑戦となるイスラエル・ゴンサレス(メキシコ)を3-0判定勝ちで退け初防衛に成功。またWBC世界フライ級王者フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)が同国のモイセス・カジェロスを2回でストップし難なくベルトを守った。
激闘となったエストラーダvsクアドラス
エストラーダvsクアドラスは2017年9月の第1戦に続く再戦。予想不利のクアドラスが3回にダウンを奪い、リベンジに執念を見せる。しかし中盤、地力を発揮したエストラーダが猛然とチャージ。これにクアドラスも応じ激闘が繰り広げられた。最後はパワーと馬力で勝るエストラーダが2度倒し、追撃連打で決着をつけた。
一方ファンにお馴染みの4階級制覇王者“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレスは10歳若いイスラエル・ゴンサレス(23歳)を断続的にロープへ詰め、連打で畳みかけてリード。フルラウンドの戦いとなったのは挑戦者の頑張りによるもので、文句のない勝利だった。今年2月カリド・ヤファイ(英)を倒して復活したロマゴンは健在をアピール。エストラーダとの統一戦がクローズアップされている。
ちなみに17年9月のイベントではWBO世界スーパーフライ級王者だった井上尚弥(大橋)がアントニオ・ニエベス(米)を6回TKOで一蹴し米国デビューを飾った。同じリングでロマゴンがシーサケット・ソールンビサイ(タイ)との再戦でショッキングな4回KO負け。ひとまず主役から降りる結末となった。
エストラーダvsロマゴンはミリオンダラーが条件
そのイベントを第1弾として3度開催されたスーパーフライ・シリーズのすべてに出場したエストラーダは、この階級の牽引者的な存在だ。その前はフライ級統一王者という実績もある。5月に夫人とともにコロナ感染が発覚して心配させた。また拳を痛めることが多く、ブランクをつくる原因となっている。だが今回クアドラス戦で披露したように打撃戦でもアウトボクシングでも対応できる万能型のスタイルを装備しているのが強み。一時パウンド・フォー・パウンド最強と呼ばれ、知名度が高いロマゴンとの統一戦は全階級を通じても屈指の好カードと言える。
同じイベントで共演したエストラーダとロマゴンは条件(報酬)で合意に達すれば来年の比較的早い時点で対決が具体化するとも推測される。スペイン語メディアのESPNデポルテスによると2人とも150万ドルから180万ドル(約1億6000万円から1億9000万円)のファイトマネーを希望しているという。コロナパンデミックが収束に向かい、通常通り観客の入場が許可されれば、かなりの確率で実現するカードではないだろうか。
今度こそ井岡vsエストラーダ
ただしエストラーダのターゲットはロマゴンだけではない。同じESPNデポルテスのネット・インタビューで彼はロマゴンを第一候補と認めながらも「ジェルウィン・アンカハスあるいはイオカと次に対戦する可能性もある。他の団体のチャンピオンと戦いたいんだ。フライ級チャンピオンの時もベルトを2本(WBAとWBO)持っていたけどもっと統一戦を実現したかった。おかげさまでスーパーフライ級でもチャンピオンになったから、このクラスでもベルトの統一が目標。ローマン・ゴンサレスにリベンジすることもその一環なんだ」と答えている。
アンカハスはIBF王者のフィリピン人。すでに8度の防衛を果たしており、すべてフィリピン国外のリングで戦っているように逞しい、底力がある28歳。「リトル・パッキアオ」のニックネームを持ち、マニー・パッキアオ・プロモーションズ所属。WBOバンタム級王者ジョンリール・カシメロとは同僚の関係にある。一つ気になるのは昨年12月以来リングから離れていること。9度目の防衛戦がメキシコ人選手と組まれたが相手の都合で延期され、以後コロナ禍も影響してブランクが長引いている。
そしてWBO王者井岡一翔(Ambition)の名前がエストラーダから聞かれた。彼と井岡はそれぞれフライ級チャンピオン時代に統一戦が話題に上がったことがある。その時は日の目を見ることがなかったが、今回は両者ともより歓迎の姿勢だと推測される。エストラーダは井岡のキャリアを大いにリスペクトする発言をしており、対決に前向きな構えを見せる。
エストラーダvsロマゴン同様、井岡とエストラーダの統一戦が実現するとなれば場所は米国が有力。井岡も今後の主戦場は米国リングだと語っていたことがあり、望むところではないだろうか。近い将来このカードのプレビュー(予想記事)が書けることを私は心待ちにしている。
井岡vs田中は大晦日に実現する?
一方で井岡の次戦は前WBO世界フライ級王者で同団体の3階級制覇王者である田中恒成(畑中)と行われる――と一部で報道されている。確かにフライ級王座を返上してスーパーフライ級に転向した田中は同級1位にランクされている。指名挑戦者の田中が即、井岡に挑んでも何も問題はない。ビッグマッチがいきなり実現することを日本のファンは待ち望んでいることだろう。具体的には大晦日に2人は雌雄を決するとも伝えられる。
「中部の怪物」と呼ばれる田中は、これまでのキャリアの長さや日本国内のみで戦っている背景から海外での知名度では井岡に劣る。それでも英国には「田中オタク」とも呼べるベテランライター兼歴史家がおり、コアなファンの間でもその強さが注目の的となっている。もしビッグネームの井岡に勝てば大ブレイクすること間違いない。
エストラーダも田中をしっかりチェックしている。「コウセイ・タナカは115ポンド(スーパーフライ級)でも脅威となるだろう。映像を見る限りパンチのレパートリーに優れ力強さとエレガントさが共存している。今後、私を含めたこの階級のチャンピオンや強豪のライバルになりそう」
田中の参戦でスーパーフライ級戦線が一段と激化した印象がある。今、軽量級でこれほどタレントが集結し充実しているクラスは見当たらない。これまで好評を博しているワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の主催者に「次シーズンこのクラスのトーナメントを開催してほしい!」と声を大にして言いたくなる。
タレントが集結。充実のランキング
世界的に権威があるといわれる米国リング誌のランキングを見てみよう。
チャンピオン:フアン・フランシスコ・エストラーダ(41勝28KO3敗)
1位:シーサケット・ソールンビサイ(49勝42KO5敗1分)
2位:ローマン・ゴンサレス(50勝41KO2敗)
3位:井岡一翔(25勝14KO2敗)
4位:ジェルウィン・アンカハス(32勝22KO1敗2分)
5位:カリド・ヤファイ(前WBA王者。26勝15KO1敗)
6位:ジョシュア・フランコ(米=WBAレギュラー王者。17勝8KO1敗2分)
7位:フランシスコ・ロドリゲスJr(メキシコ=WBO2位。33勝24KO4敗1分)
8位:アンドリュー・マロニー(豪州=前WBAレギュラー王者。井上尚弥に挑戦するジェイソン・マロニーの双子の弟。21勝14KO1敗)
9位:ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ=昨年大晦日、井岡に挑戦。11勝5KO1敗1無効試合)
10位:カルロス・クアドラス(39勝27KO4敗1分)
現在無冠のシーサケットだが、エストラーダと1勝1敗、ロマゴンに2勝という実績が評価されていると思われる。6位のフランコはコロナ危機による中断後初の世界戦でアンドリュー・マロニーを攻略して戴冠したメキシコ系米国人。ダイレクトリマッチが11月14日にセットされている。7位のロドリゲスは新人当時ロマゴンの相手に抜擢されTKO負けしたが、ミニマム級で統一王者に就き、階級を上げながら再び躍進。世界挑戦のチャンスに恵まれないものの、上位を脅かす力を持った強豪である。
「田中と戦いたい」マルティネス
このラインナップに田中(15勝9KO無敗)が参戦するのだから、ワクワクしないわけにはいかない。WBSSで実現すれば最高で誰がセレクトされるかも興味津々。現実的にもエストラーダvsロマゴンの勝者と井岡vs田中の勝者との統一戦が実現する可能性があるわけで観戦意欲をいっそう刺激させられる。
最後に、メキシコのトリプル世界戦で勝利を収めた一人、フライ級王者フリオ・セサール・マルティネスも「フライ級でモルティ・ムザラネ(南アフリカ=IBF王者)との統一戦が締結しないなら、より魅力的なマッチメイクが期待できるスーパーフライ級に活路を求めたい」と宣言している。同時に「一番戦いたいのはコウセイ・タナカ」とも。メキシカンたちが熱視線を向ける田中。井岡との一騎打ちはどうしても見たくなる。