39人の王者が乱立…。なぜボクシング主要団体WBAの世界王者はこんなに多いのか?

WBAスーパー王者パッキアオ(写真:USA TODAY S./ロイター/アフロ)

39人の世界王者が乱立

 ボクシング主要団体のWBA(世界ボクシング協会)は、ミニマム級からヘビー級までの17階級で現在39人のチャンピオンを認定している。「チャンピオン一人」の階級はマニー・パッキアオ(ウェルター級)とノックアウト・CPフレッシュマート(ミニマム級)の2つだけ。あまりにも王者が多い原因は1階級にスーパー、レギュラー(正規)、暫定と称するタイトルホルダーが乱立しているせいである。

 問題はファンやメディアの批判の矢面に立たされてもWBAが一向にタイトル乱立を食い止める方策を打ち出さないことである。逆に混乱状態に拍車をかけるように昨年からゴールド王座なるベルトも誕生。当初は暫定王座が名前を変えた様子もあったが、そうではなく、いくつかの階級で王座決定戦が行われている。このゴールド王者までカウントすると、現在スーパーフェザー級、スーパーライト級、クルーザー級は4人のチャンピオンが割拠しており、ファンを戸惑わせているばかりだ。

相変わらずの拝金主義

 ボクシングが発展する段階で階級が細分化されたのは歴史的事実だが、1階級の中で何人もチャンピオンを認定するのは言語道断。WBAのようなタイトル承認団体は、地域タイトル戦を含めた各タイトルマッチで「認定料」を徴収している。つまり、タイトルの数が増えるだけ収入増につながるのだ。

 また“スーパーチャンピオン”に昇格するには他の団体のチャンピオンとの統一戦に勝ち統一王者に君臨することが条件(特例措置の場合も)。あるいは防衛回数を伸ばし誰もが認める強い王者に昇華することが求められる。スーパーチャンピオンに就けば、WBAが通達する指名挑戦者との防衛戦が優遇される。そして彼らは知名度が高くファンに人気があることから試合で獲得するファイトマネーも高額。そのパーセンテージを徴収するWBAとしてはホクホクなのである。

 従来の“レギュラー(正規)チャンピオン”だけで何も問題はないはずだが、WBAが格上と見なすスーパーチャンピオンを設けた背景にはそういう事情がある。これはWBAの財務事情が原因と見て間違いないだろう。ただし団体の運営に支障をきたすほど窮しているとは言い難く、この所得倍増政策は機能していると見てよさそうだ。

業界人からもブーイング

 それでも以前から暫定王者を乱発して批判されたWBAの振る舞いには納得できない。ある日本の業界関係者も「WBAはこれだからねぇ……」と困惑する。主要4団体を構成するWBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)はいずれもWBAから離脱して誕生した歴史を持つ。だからこそ罪深い。4団体の源流としての名声とブランド力はとっくに失墜したかのように思える。

 だが実際そんなことはない。加盟国の数が国連に匹敵しそうなほど勢力が拡大したWBCの全チャンピオンが4団体で最強だとは言えない。以前、直接問い合わせて聞いたIBFの加盟国は33。組織や地域タイトルが充実し今やWBCに次ぐ勢力となったWBOにしても65ヵ国。むしろIBFやWBOのチャンピオンが最強と目されるクラスも存在する。同じくWBAのチャンピオンがクラス最強と推測される階級も少なくない。団体そのものの品格や価値は低下しているが、各王者の実力を脅かすものではない。やはり一番の問題はベルトの乱立にある。

ベルトはたくさんあった方が好ましい

 今回、再度この問題を取り上げたのは今月中旬、WBAのリーダー、ベネズエラ人のヒルベルト・メンドサ会長がスペイン語メディア、ESPNデポルテスに開き直り発言を行ったからである。同会長いわく「タイトルの数を減らすのは容易ではない。逆に複数のタイトルが存在する方がボクシング界にとって好ましい」

 数年前、直接メンドサ会長に質問を送り回答を得た時点では「1階級に1チャンピオンが理想。今後は王者の数を減らして行くことに努めたい」と語っていたのにこの有り様。ファンの願いを裏切るコメント、背信行為と受け取らざるを得ない。同じく同氏に質問した英国メディアも「ボクシングの信頼性はどこへ行った?」と嘆く。

 ついに本音を吐いたかたちとなったメンドサ会長。同時に彼の立場の難しさも浮き彫りになった。これまでは批判を受けるだけだった印象のメンドサ会長が「こちらも大変なんだよ」と実状を明かしたのだ。

 「世界中のプロモーターからリクエストがドッと押し寄せる。そこでは彼らの選手と中継するテレビ局のためにタイトルというベネフィットが求められる」

 該当するプロモーターは、おそらく米国の大手プロモーションだろう。なになにタイトルマッチとなればノンタイトル戦より箔がつく。テレビ局は間違いなく歓迎する。認定料も上がる――となれば、スーパーでもレギュラーでもゴールドでも乱発したくなる。基本のレギュラーに格上のスーパーを設け、なおそれでも足りなくてゴールドや暫定王座を増設する良からぬ連鎖がそこにある。

24日、WBAウェルター級ゴールド王座を守ったナンバーワンホープ、バージル・オルティス(米)(写真:Golden Boy Promotions)
24日、WBAウェルター級ゴールド王座を守ったナンバーワンホープ、バージル・オルティス(米)(写真:Golden Boy Promotions)

プロモーターとテレビの圧力

 「ボクサーは試合にタイトルがかかればうれしいに違いない。テレビもタイトルマッチになればベター。プロモーターも同様。批判するファンだって一部はベルトが争われれば試合に対する関心が増す」

 メンドサ会長はこう主張する。それが暫定王者誕生から始まるWBAの混乱の根本にあるとみる。米国の有力プロモーターとテレビの強い要求にメンドサ氏は対抗できなくなった様子がうかがえる。同氏は続けて言う。

 「彼ら(プロモーターとテレビ)はオンリー・ワン・チャンピオンにすべきだと説く。なのに具体的なアクションを取らない。私たちがチャンピオン一人を決めるトーナメントを開催しようとすると、彼らは消極的になってしまう。最後はタイトルなんて本当は価値がないとまで言い張るんだ」

 同氏はワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のようなトーナメントが理想的だと提唱する。これは本心に違いない。それを実行するには有力プロモーターに頼るしか資金的に方法はない。それが実現できないジレンマが今回の開き直りの発言を誘発したとみる。

プロモーターとテレビとのジレンマに陥るメンドサ会長(写真:WBA)
プロモーターとテレビとのジレンマに陥るメンドサ会長(写真:WBA)

まずは身辺の整理から

 井上尚弥の下にレギュラー王者ギエルモ・リゴンドウ(キューバ)、京口紘人の下に同じくカルロス・カニサレス(ベネズエラ)がいたり、村田諒太の上にスーパー王者カネロ・アルバレス(メキシコ)がいる現状は正常な姿とは言えない。だが村田が超難関のミドル級王者に君臨する事実は日本のリングに活気をもたらせ、ファンの感動を呼ぶ。リゴンドウも古豪復活を印象づけ、今後、井上との対決に少なからぬ興味を抱かせる。カニサレスにしても現在ベネズエラ唯一の世界王者として地元で存在感がある。

 もちろんWBAのベルト乱発を手放しで肯定することはできない。しかしメンドサ氏がアピールするように複数のタイトルが認定されることは業界やファンにとり見逃せないメリットのような気がする。

 ただし、まずは身の周りの整理から着手してほしい。地盤の中南米重視が顕著となり、一部で「ローカル団体に成り下がった」と揶揄されることもあるWBA。メンドサ氏が「こちらがいくら呼びかけてもプロモーターが乗ってこない」と残念がるのは他団体の王者との統一戦。その前に自身の団体の王者をセレクトしておかないと今度こそ自分の手で首を絞めることになりかねない。