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「問題児」ルイス・ネリ、計量オーバー騒動の衝撃の舞台裏。私欲むき出しの墜落した姿とは

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ネリとローチ氏(左)のコンビはどうなる?(写真:Stephanie Trapp)

25歳になったネリ

 12月12日はメキシコ人にとって特別な日である。メキシコのナショナル・シンボル、グアダルーペの聖母(奇跡を起こした褐色の聖母)を祭る大祭が毎年この日に行われる。今年もその模様が米国のスペイン語テレビでも特別番組で放送された。

 そんな神聖な日と同じ誕生日を持つのが元WBC世界バンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)。今年で25歳。所属するサンフェル・プロモーションがフェイスブックでバースデーカードを送り祝福している。それを見て同プロモーション、試合をメキシコに中継するTVアステカとの関係は継続していることがわかった。同時にWBCも大きな罰則をネリに科していない。

 これは何とラッキーなことか。

 度重なる悪行で日本のファンのみならず世界中からバッシングに遭っているネリ。最新の醜聞は先月23日ラスベガスで予定されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とのWBCバンタム級挑戦者決定戦。前日の計量で1回目リミット1ポンド(453グラム)超過の119ポンドを計測。再計量を拒否しロドリゲス側に報酬アップをオファーして試合実現を迫った。しかし最後までロドリゲス側は承諾せず、対戦はキャンセルされた。

ホテルの10部屋も占領していた!

 この話題をまた取り上げることになったのは前回登場した業界通ハビエル“グエロ”ヒメネス氏との会話でネリの話が出たからだ。以下、その部分を再現してみる。

ヒメネス氏「ところでキャッチ(筆者のニックネーム)ネリの問題は知っているよな?」

筆者「もちろん。ひどいもんだね」

ヒメネス氏「なんでネリは体重を落とさなかったと思う?」

筆者「ロドリゲスが対戦に応じると信じていたからだろ?」

ヒメネス氏「いや、本当はもっと欲しかったんだ」

筆者「えっ、ファイトマネーを。では嫌がらせだった?」

ヒメネス氏「そうそう」

筆者「でも私がチェックしたところではネリの報酬は30万ドル。随分といい金額に思えるけど……」

ヒメネス氏「そうだけど彼はもっと要求したらしい。いいか、たった1ポンドだぜ。普通なら1時間動けば落とせる。意識的に減量しなかったんだ。ロドリゲスに払う上澄み額は最初の5万ドルから最後は10万ドルまでアップした。それでもロドリゲス側は拒否し続けた」

筆者「例えば10万ドルをロドリゲスに払うとして、それはネリのファイトマネーから引かれるの?」

ヒメネス氏「もしそうだったとしてもネリはとにかくもっと欲しかったんだ。知ってるかい?ネリはホテル(MGMグランド)に10部屋も借りていたんだ。今、チャンピオンでもないのに。計量スキャンダルの後、主催者から即刻、追い出されたけど」

 さすがに驚いた。そこまでネリが暴走していたとは。規律を守らない男ネリは欲深い男にも成り下がっていたのだ。

 説明が後になったが、ヒメネス氏はこの話をロドリゲスの後ろについていた南米の大物マネジャーから聞いたという。2人の接点は今月7日、メキシコのプエブラで挙行されたIBFスーパーフライ級タイトルマッチ。マニー・パッキアオ・プロモーションズ傘下の王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)が挑戦者ミゲル・ゴンサレス(チリ)に6回TKO勝ちで8度目の防衛に成功。ヒメネス氏はアンカハスのお目付け役として試合に立ち会い、そのマネジャーはゴンサレス・チームに陣取っていたとのことだ。

IBFスーパーフライ級王者アンカハス。写真左から3人目の黒ジャージがヒメネス氏(写真:Zanfer Promotions)
IBFスーパーフライ級王者アンカハス。写真左から3人目の黒ジャージがヒメネス氏(写真:Zanfer Promotions)

レイノソ・トレーナーにも見捨てられた

 次にヒメネス氏の口から出たのはネリが初めに師事したエディ・レイノソ・トレーナーとの関係。現在、ボクシングを代表する存在となったサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)と長年コンビを組む当代の売れっ子トレーナーの一人だ。噂ではネリが同トレーナーの下を離れたのは、カネロを筆頭に配下選手が多すぎて満足に指導できないためと言われたが、そうではなかった。

「ネリはレイノソからも追放されたんだ。トレーニングを始めて何日かすると、メキシコに戻ってしばらく姿を見せなくなる。それが3回目に達した時点でネリは引導を渡されてしまった。カネロやオスカル・バルデス(前WBOフェザー級王者。スーパーフェザー級に進出)らジムメートに悪い影響を与えるから。それでフレディ・ローチのところへ移ったんだ。エディ本人が言っていたから本当だよ」

米国プロモーションとの契約はあと3試合

 今年初め米国興行大手の一つPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)とサインを交わしたネリは2試合を消化。契約はあと3試合残っている。契約社会の米国では余ほどの事態が発生しない限り完了するまで全うするのが常識。しかしMGMグランドホテルから追い出されたネリは果たして今後PBCとの関係を良好に保って行くことができるだろうか。

 これまでのスキャンダルをすべて清算して(それは困難だろうが)ローチ・トレーナーとのタッグでキャリアを再スタートするのが彼にとってベストな選択か。だが、ここまで堕落したネリが再びトップステージに立つ姿を想像するのは難しい。

果たしてスキャンダル王ネリの前途は?(写真:Stephanie Trapp/TGB Promotions)
果たしてスキャンダル王ネリの前途は?(写真:Stephanie Trapp/TGB Promotions)

 メキシコでは同じサンフェル・プロモーション所属のWBOスーパーバンタム級王者エマヌエル・ナバレッテが「俺に挑戦しないか?」とネリを挑発している。今年4度のタイトル防衛を果たしたナバレッテは勢いがあり、試合のたびに力をつけている印象がする。そこにたどり着くまでネリに、この先どんな紆余曲折が待ち受けているか誰にもわからない。来年26歳の誕生日を迎える時、グローブを握っている保証はない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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