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「マイク・タイソンの再来」と年末激突。日本人ヘビー級の希望・藤本京太郎の狙いは?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
強敵デュボアとロンドンで戦う藤本(写真:クイーンズベリー・プロモーションズ)

年末ロンドンで対戦

 日本のヘビー級の第一人者、藤本京太郎(角海老宝石)が、いよいよ世界戦線に躍り出る。現在WBA12位を占める藤本(33歳)は、6年間保持した日本ヘビー級王座とその後君臨したOPBF(東洋太平洋)同級王座を返上。12月21日、ロンドンのカッパー・ボックス・アリーナで地元のWBOヘビー級9位ダニエル・デュボア(英=22歳)との対戦が決まった。

 スタット・カラレック(タイ)に6回TKO勝ちを飾った10月21日の試合は、13ヵ月ぶりのリングだったが、前回と同じ相手ということでも対戦者選びに苦心した様子がうかがえる。そのあたりが2つのベルトの返上を決意した理由だと察せられる。(もう一つのWBOアジアパシフィック王座は保持)

本場で強豪と手合わせ

 1年の間、藤本はヘビー級の本場アメリカへ武者修行に出かけた時期があった。西のロサンゼルスと東のニューヨークでスパーリング中心の日々を送った。ロサンゼルスでは今年アンソニー・ジョシュアを倒す大番狂わせで統一ヘビー級王者に就いたアンディ・ルイスJr(米)とジムで遭遇。後の世界王者のジムワークを目撃したことは有益だったに違いない。ニューヨークでもワイルドカード・イーストジムなどで主にロシアの強豪と手合わせした。

 世界を肌で感じた藤本にはボクシング・ビート誌によると今年に入り欧州からオファーが舞い込んだ。その一人はWBAヘビー級“レギュラー”王者マヌエル・チャー(ドイツ)だったから、もしかしたらダイレクトに世界挑戦が実現したかもしれない。もっともチャーの上には統一王者のルイスJrが君臨しているのだが……。もう一人はリオデジャネイロ五輪スーパーヘビー級銀メダリストでプロで今まで10勝9KO無敗のジョー・ジョイス(英)。しかしチャー同様、交渉はまとまらなかった。

タイソンの再来デュボア

 元K-1のチャンピオン藤本と対戦が締結したデュボア(スペルはDubois)はこれまで13勝12KO無敗。戦績どおりのハードパンチャーで、超優良プロスペクトと位置づけられる。争われるベルトは空位のWBCヘビー級シルバー王座とデュボアが持つWBOインターナショナル王座。前者はWBC1位ディリアン・ホワイト(英)が保持していたもの。いずれも地域タイトルだが、世界挑戦と同等の危険が伴う。どうして?

 ひと言でいえば、戦闘スタイルがマイク・タイソンが頭角を現した当時と瓜二つなのだ。英国には元統一王者のタイソン・ヒューリー、ルイスJrとの再戦でリベンジを誓うジョシュア、先に触れたジョイスやホワイトといったヘビー級のタレントが目白押し。しかし鉄人タイソンを彷彿させるデュボアは彼らと同格あるいはポテンシャルではナンバーワンの逸材と評価していい。

ベルトのコレクター

 デュボアはロンドン近郊、天文台で有名なグリニッジの出身。11人兄弟の一人で弟のプリンス、妹のキャロラインもアマチュアボクサー。プロ4戦目でWBCユース王座獲得。その後、英国王者に就き、今年3月、元ランカーのラズバン・コジャヌ(ルーマニア)に2回KO勝ちでWBO欧州王座獲得。翌4月アフリカの刺客リチャード・ラーティ(ガーナ)を4回で倒し、WBOグローバル王座をゲット。7月には英国の白人ホープ、ネイザン・ゴーマンを5回、豪快に沈めてライバル対決に決着をつけると最新の9月27日の試合ではそれまで無敗のガーナ人エベネゼール・テッテーに初回TKO勝ち。WBOインターナショナル王座を獲得した。

 右にも左にも一撃で倒すパンチ力があり、チャンスに畳みかける姿はまさに往年のタイソンそのもの。さらにデュボアはデータで身長196センチ、リーチ198センチを誇り、それぞれ5インチ(約13センチ)藤本を上回る。体重は240ポンド(約109キロ)前後。藤本は230ポンド(約104キロ)ほど。体格もそうだが、デュボアは藤本戦が今年5試合目とアクティブさでも勝る。その勢いをぶつけられると藤本は対応に苦しむに違いない。

地元で藤本を迎え撃つデュボア。ニックネームは”トリプルD”(写真:BoxingScene.com)
地元で藤本を迎え撃つデュボア。ニックネームは”トリプルD”(写真:BoxingScene.com)

ジョシュアを倒した過去

 デュボアの強さを印象づける出来事としてアマチュア時代、すでにIBFヘビー級王者に君臨していたジョシュアとのスパーリングでダウンを奪ったことがある。デュボア本人は「左フックだった」と振り返っている。過去のエピソードだとしても当時より間違いなく力を蓄えているデュボアは難敵すぎると見ていいだろう。

 2年間リングから離れているチャーとの試合が決まっていれば実益(タイトル)も伴い、藤本は勝利の可能性は膨らんだ。ちなみに、そんなに長いブランクに陥りながら王座をはく奪しないWBAの管理には大いに問題がある。それにしても、よりによって、なぜデュボアを選択したのか?とツッコミを入れたくなる。やはり世界ヘビー級王座挑戦のチャンスをつかむには、なりふり構っていられないというのが藤本陣営の偽らざる気持ちだろう。

過小評価はしていない

 英国の著名プロモーターでヒューリーを手放したフランク・ウォーレンはデュボアに未来を託している。デュボアはまだ荒削りで経験不足なところが隠せないが、それも台頭時のタイソンに共通する。

 「私はダニエルがフジモトを過小評価していないと信じている。フジモトはWBAでランクされている。主要団体のランキングでダニエルが上位15位入っていないのはWBAだけ。12月21日は印象的なパフォーマンスを披露して全メジャー団体に名前を連ねることになるだろう」とウォーレン氏。まずは藤本のポジションを奪って世界挑戦の地固めをする計画だ。

 また同氏は「フジモトはデュボアにとり初のアジア人対戦者になる。これまでアフリカ、東ヨーロッパ、北米、南米の相手と戦い経験を積んできた。この試合はその一環、延長だと思っている。現時点ではもっとも相応しいライバルだ」と持ち上げる。

日本のヘビー級を牽引した藤本がいよいよ勝負に出る(写真:ボクシング・ビート)
日本のヘビー級を牽引した藤本がいよいよ勝負に出る(写真:ボクシング・ビート)

ハイリスク・ハイリターン

 藤本(21勝13KO1敗)がどんな作戦で臨むかは不明だが、「ハイリスク・ハイリターン」の試合だと割り切って敵地へ向かうことを期待したい。米国のボクシングサイト、バッドレフトフック・ドットコムはデュボアの対戦相手の中でゴーマンが一番、藤本に近いスタイルだったと分析。デュボア唯一の判定決着はベテランのケビン・ジョンソン(米)戦だったが。ゴーマンがもっとも抵抗した相手だと評価している。日本同様に軽中量級が主体のメキシコでルイスJrが初めて世界ヘビー級王者に就いたことも藤本の追い風となるだろう。

 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。この故事ほど今の藤本に相応しい言葉はあるまい。クリスマス前、ロンドンから朗報を聞きたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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