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憎悪…恋人の兄と世界王座決定戦。ボクシング版ソープドラマに全米騒然

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
会見で火花を散らしたスティーブンソン(左)とゴンサレス(写真:Top Rank)

 待望の井上尚弥vsノニト・ドネアまであと2週間余り。今週土曜日26日にも海外で注目試合が行われる。ロンドンでは井上vsドネアと同じWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)のスーパーライト級決勝兼2冠王座統一戦、レジス・プログレイス(米)vsジョシュ・テイラー(英)が挙行される。実力者同士で予想は拮抗。両者とも「自分の方がベターな選手」と主張して譲らない。

無敗同士のトップアマ対決

 同日、米ネバダ州リノのコンベンションセンターでゴングが鳴るWBO世界フェザー級王座決定戦は新鋭対決。リオデジャネイロ五輪銀メダリストからプロ転向後、大手プロモーション、トップランクの下で期待通りのパフォーマンスと結果を残し世界王者に接近中のシャクール・スティーブンソン(米=22歳)。WBO1位のスティーブンソンと対戦するのは2位ジョエト・ゴンサレス(米=25歳)。ライバルのゴールデンボーイ・プロモーションズ傘下でリングに上がり最新試合で中堅ランカー、マヌエル・アビラ(米)をストップした一戦はスリリングで秀逸な出来だった。

 この決定戦は6度防衛していた前チャンピオンのオスカル・バルデスがベルトを返上したため行われる。予想は過去20年の米国アマチュア界で五指に入る逸材と呼ばれるスティーブンソン有利に傾く。すでに北米王座2冠を獲得しているサウスポーのスティーブンソンは12勝7KO無敗。通常プロスペクトにキャリアを積ませて育てるトップランクにしては異例の早さで世界戦の舞台に立たせることになる。それだけ期待が大きい証拠だろう。

 対するゴンサレスも23勝14KO無敗。スティーブンソンほどの輝かしいアマチュアキャリアはないものの、全米選手権優勝、プロスタイルに近い国別リーグ戦WSB(ワールド・シリーズ・オブ・ボクシング)で活躍するなどエリートアマの一人だった。

 それでもボクシング通を唸らせるカードだとしても一般のファンを引きつけるほどではない。だがソーシャルメディアを介してこの試合の話題が沸き返っている。テーマは家族を巻き込んだ不仲である。

世界王者に接近するスティーブンソンとゴンサレスの妹ジャジャイラ(写真:thecoli.com)
世界王者に接近するスティーブンソンとゴンサレスの妹ジャジャイラ(写真:thecoli.com)

妹をめぐる因縁

 ゴンサレスの妹ジャジャイラ・ゴンサレス(22歳)がスティーブンソンと交際中。それを兄は嫌悪している。ゴンサレス家はボクシングファミリーで、ジャジャイラも17歳で世界ユース・オリンピックで優勝し(階級はライト級)米国強化チームのメンバー。列記とした女子の強豪ボクサーの一人。現在、東京五輪を目指して奮闘中。スティーブンソンとは3年前のリオ五輪当時に知り合ったもようだ。

 スティーブンソンは外見がヤンチャな印象だが、プロ入りの際、フロイド・メイウェザーの誘いをかわしてより堅実なトップランクとサインしたようにキャラはナイスガイ。大口を叩いたり、相手を罵ったり感情にはしるタイプではない。だが相手のゴンサレスは記者会見で激高した。

 「この子は品格がないしモラルにも欠く。無礼なヤツで無知だ。物事をわからせてやる。こっちは戦う準備ができているし、ギャフンといわせてやるぞ」

 普段スマイルを浮かべることが多いスティーブンソンは「あなたが何を言いたいかさっぱりわからない。あなたと同じくらい私も混乱している」とつくろったが、ゴンサレスの追撃は鋭かった。

 「2人は知らずのうちにデートしているんだ。3年前から。彼女の兄としてベストな男と付き合ってほしい。妹の周りにはもっとベターな人間がいると思う。まあ、彼女の好みには口出しできないけど。でもこいつのことはアマチュア時代から大嫌いだった。こいつの他人に対する接し方が嫌いだった。妹は家族の一人。私はサポートしてやらなければならない」

 それに応えてスティーブンソンも「Bitch!」とストレート一発。「私もずっと彼が嫌いだった。試合でやっつけてやる。それによって(我々の関係が)違う方向へ向かうかはわからない。でも皆さんに言う、私は彼が嫌いだ。彼にパンチを浴びせて負かせてみせる」と語気を荒くした。

親友WBOウェルター級王者テレンス・クロフォードとスティーブンソン(写真:Top Rank)
親友WBOウェルター級王者テレンス・クロフォードとスティーブンソン(写真:Top Rank)

リングのソープドラマ

 ジャジャイラをめぐる争い(といっても勝敗に関係なく彼女は交際を続けるかもしれないが)。テンションが高まるにつれてメディアは「これはソープ・オペラ(連続メロドラマ)だ」と煽り立てる。果たして実際のリングでどんなドラマが展開され、どんな結末が待っているか4日後の開始ゴングが待ち遠しい。

 東部ニュージャージー州が地元のスティーブンソンに対して2歳年少の弟もプロで活躍するゴンサレスはロサンゼルス近郊出身。メキシコ系のホープは、はやる気持ちを抑えながら言う。

 「妹とは試合まで少し距離を置いている。やるべきことをやるしかない。感情的になってはいけない。仕事を行うしかない。10歳からグローブを握り、これがキャリア最大のファイトになる。相手が誰であれ、全力を尽くす」

 ちなみに予想賭け率はBetfairというサイトが出しているものはスティーブンソンが1.2倍、ゴンサレスが4.33倍。Bet365などアメリカ式の表記ではスティーブンソンが-455、ゴンサレスは+300という数字が出ている。4-1前後でスティーブンソン有利というところか。

注目の対決は26日ネバダ州リノで行われる
注目の対決は26日ネバダ州リノで行われる
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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