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ジョシュアとの再戦内定。ヘビー級王者ルイスの必勝策はタコスを食べ過ぎないこと

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
リマッチのキャッチフレーズは砂丘の激突(試合のPRポスターから)

しぶしぶサウジ行きを承諾

 ニューヨークのマジソンスクエアガーデンでのセンセーショナルなアップセットから2ヵ月半。ヘビー級3冠統一王者アンディ・ルイスJr(米=メキシコ)と前王者アンソニー・ジョシュア(英)のダイレクトリマッチが実現する運びとなった。12月7日、サウジアラビアの首都リヤド郊外ディルイーヤ。屋外スタジアムは建設中だが、地元の投資家グループが日本円で100億円を超えるオファーを提示している。

 アナウンスしたのはジョシュアのプロモーター、マッチルーム・ボクシングのエディ・ハーン氏。3日後の8月12日、ロンドンでプレゼンテーションが開催される予定だったが、ルイスと彼の陣営が出席しなかったため流れてしまった。そして同じ週、ルイスはサウジアラビア開催に難色を示し「それ(試合地)に関してはこちらにも言い分がある。我々はアメリカ開催を希望している」と反発。交渉の余地があることをアピールした。

 しかしハーン・プロモーターは第1戦の前にリマッチの契約が完了していたと主張。日時と試合地に関してはジョシュアとハーン氏に決定権があると強調。ルイス側の要求を問答無用とばかりに撥ねつけた。

 ルイスがサウジ行きをためらったのは中立国といっても限りなくアウェーに近いハンディを感じているからだろう。地理的にも歴史的にも中東はアメリカよりもヨーロッパ(英国)に近い。またファイトマネーの900万ドル(約9億9000万円)は初戦の倍近い金額だが、100億円強と推測される全体のパイからすると少ないと判断したようだ。4000万ドル(約44億円)と推定されるジョシュアの報酬に比べると、統一王者に就いたとはいえ少ない。つまるところ、報酬の配分がルイスが駄々をこねた理由とみる。

 とはいえ最近メキシコのテレビメディア(TVアステカとESPNデポルテス)が行ったインタビューでルイスは「12月のリマッチに応じる決心をした。来週から(8月19日以降)トレーニングをスタートする」と明かした。これで万事オーケーとは断言できないものの、サウジ対決(キャッチコピーは「砂丘の激突」)は実現すると思って間違いないだろう。

パーティは終わった

 ルイスのトレーニング地はいろいろ候補が挙がっている。これまで同様ロサンゼルス、同地郊外のボクサーのキャンプ地として有名なビッグベア、彼のトレーナー、マニー・ロブレスの故郷メキシコ・グアダラハラ、メキシコシティ郊外のこれもボクサーが高地キャンプを行うオトミ。よりどりみどり、バラエティーに富んでいる。キャンプの前後で2、3個所で実行する案もある。

 ところが当惑したのはロブレス・トレーナー。練習開始予定の19日、ルイスはカリフォルニア州インペリアルの自宅で待機。練習には違いないが、ランニングマシンを漕いでいただけだった。ロブレス・トレーナーは「まだ試合まで4ヵ月弱ある。一度本気になれば、グッドシェイプに仕上げる時間はたっぷりある」と援護射撃。だが「先が思いやられる」と心配する向きもある。

 無敵だったジョシュアをストップし一躍“シンデレラボーイ”、“メキシカン・ロッキー”ともてはやされたルイス。各地で祝福ラッシュに遭い、知名度と人気は急上昇。さすが世界ヘビー級チャンピオンは別物だと認識させられた。

 噂されたスナック菓子「スニーカーズ」のCMは始まっていないが、メキシコではスポーツドリンク「SueroX」のコマーシャルに起用され、米国、メキシコ両国のテレビ番組にも多数出演。しばらく、我が世の春を謳歌した。ジョシュア戦のファイトマネーで家を購入、ロールスロイスを乗り回しているとも報じられる。

出身地インペリアルの町を夫人とパレードしたルイス(Photo:San Diego Union-Tribune)
出身地インペリアルの町を夫人とパレードしたルイス(Photo:San Diego Union-Tribune)

“ダグラス”になる心配も

 ただでさえ肥満体を指摘されるルイス。いくら体重無制限のヘビー級とはいえ、調整不足でリングに登場するのは禁物。来年2月、WBCヘビー級王者デオンタイ・ワイルダー(米)との再戦が濃厚な元ヘビー級統一王者タイソン・ヒューリー(米)は苦言を呈す。

 「アンディがいいコンディションでリングに上がれば初戦と同じ結果になると思う。だけど彼は2ヵ月半ジムから遠ざかった。どうやらトレーニングを始めるようだけど、もし練習に没頭しなかったらバスター・ダグラスの二の舞を踏む心配があるね」

 ダグラスは90年2月、東京ドームで“鉄人”マイク・タイソンを大番狂わせでノックアウトし世界にショックを与えた。だが慢心や練習不足が影響し、初防衛戦でイバンダー・ホリフィールドにあっさり倒され一発屋に終わった元ヘビー級王者。ルイスはダグラスほどメンタル面が軟弱ではないと思うが、再戦の行方はルイス次第だとヒューリーは力説する。

体重は気にしない?

 今回がコンビを組んで3戦目になるロブレス・トレーナーの責任も大きい。どうやってルイスをこれから“その気”にさせるか見ものだ。メキシコ人のみならず、広く中南米の選手から教え、指導を乞われる同トレーナーはそれでも、陽気な姿勢を崩さない。

 「ウエート?前回(268ポンド=121.56キロ)より絞れればいいけど、あまりナーバスになっていない。それより向こう(サウジアラビア)には試合を管理するコミッションがないというし、こちらが要求する薬物検査の有無とかが心配。あとタコスの食べ過ぎには注意させたいね」(笑い)

 初戦は代役挑戦という背景もあり、イチかバチか、自由に戦いジョシュアを仕留めたルイス。今回は防衛というプレッシャーと対峙しなければならない。前回がラッキーな勝利でなかったことを証明するには勝つしかない。

ロブレス・トレーナー(右)とのタッグで返り討ちを誓う(Photo:Boxing Scene.com)
ロブレス・トレーナー(右)とのタッグで返り討ちを誓う(Photo:Boxing Scene.com)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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