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メイウェザーの天敵マイダナが帰ってくる。ウェルター級戦線がますます面白くなる!

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
第1戦でメイウェザーを攻め立てるマイダナ(Photo:USA TODAY)

メイウェザーに勝っていた?

 2014年に2度フロイド・メイウェザーと対戦後、引退状態にあったスラッガー、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)が5年ぶりの復帰を決意した。元WBA世界ウェルター級王者の肩書を持つマイダナ(35歳)は今月、強力代理人アル・ヘイモン率いるプロモーション会社PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)とサイン。PBC傘下のチャンピオンたちの対戦相手として再び米国リングに活躍の場を求める。

 マイダナ(35勝31KO5敗)が中量級の貴重なタレントであることはメイウェザーとの2戦と前年エイドリアン・ブローナー(1月マニー・パッキアオに大差の判定負け)を下してベルトを奪取した一戦で証明された。とりわけ14年5月のメイウェザーとの第1戦は2-0のマジョリティデシジョンが示すように無敵メイウェザーを大いに苦しめた。現場で取材した筆者もそうだったが、常にアグレッシブに戦ったマイダナの手が上がっても不思議ではない攻防だった。同年9月の第2戦も公式スコアカードは3から5ポイント差がついたが、内容は非常に拮抗したものに感じられた。

太鼓の乱れ打ち

 難攻不落のディフェンスマスター、メイウェザー攻略法を具体的に表したのがマイダナだった。

 ひと言でいえば圧力が並大抵ではない。左右に一撃で倒せるパンチがあるうえ、畳みかける迫力が凄まじい。日本のある関係者はマイダナの連打を「祭りの太鼓の乱れ打ちのようだ」と表現した。上から上からとノンストップで畳みかけて行く。

 メイウェザーをキャリア最大の危機に立たせ、彼の後継者の本命と呼ばれたブローナーを2度倒して明白な勝利を飾ったマイダナは他にも出世試合となったビクトル・オルティス、アミール・カーン、エリク・モラレスの元チャンピオンたちとの激闘が思い出される。「ファンに支持されるスタイル」が彼の身上であり、最大のセールスポイントである。

カムバックはマネーのため

 ではなぜメイウェザーとの再戦の後あっさりリングから去ったのか?

 マイダナはその後、故郷アルゼンチンの広大な大地にある自宅兼牧場で悠々自適の生活を送っていた。今年に入っても現役復帰には否定的な発言に終始。ところが正確には2月9日、PBCとの契約がアナウンスされた。周囲から「やっぱり」との声が漏れた。

アルゼンチンの大平原で引退生活を送っていたマイダナ(Photo:Clarin)
アルゼンチンの大平原で引退生活を送っていたマイダナ(Photo:Clarin)

 マイダナがメイウェザーとの連戦で得たファイトマネーは1200万ドル(約13億2000万円=1ドル110円として計算)余りと推定される。調べてみるとブローナー戦を合わせた3試合でマイダナは1500万ドル(約16億5000万円)稼いだという報道がある。よって「1200万ドル余り」はいい線だと思う。メイウェザーと比べると何分の一だが、それでも一般人からすると破格の金額だ。物価が安いアルゼンチンでは夢のような生活が可能だろう。

 カムバックにあたりSNSに掲載された写真がアルゼンチンで批判を浴びた。たくさんの札束を見せびらかすマイダナ。リングを離れる前、そこまでやったマイダナが今、媚びるようにリング復帰を求める。「引退するのが早すぎた」、「余生を不自由なく暮らせる金を得たのに浪費してしまった」……メディアもそうやって復帰の背景を書き立てる。ちなみに今回PBCとサインした内容は3試合で1500万ドルと伝えられる。

パッキアオ&ポーターが垂涎カード

 そんな裏事情はともかく、 “チノ”マイダナの勇姿が見られるのはファンにとり喜ばしいニュース。早くも誰と対戦が組まれるか、あるいは見たいかが話題となっている。それはメイウェザーとの接戦をいずれも落としたものの彼が主役の一人であったことを印象づける。

 多くのファンが待望し、私も一番見たいのがマニー・パッキアオとの一騎打ちだ。

 ブローナー戦で健在ぶりを披露した英雄パッキアオだが、熱望するメイウェザーとのリマッチは今のところ進展なし。“本業”ボクサーとの対決を拒否し引退状態を強調するメイウェザーを引きずり出すのは難しい。また立場上、同じウェルター級の対抗王者エロール・スペンス(IBF)、キース・サーマン(WBA“スーパー”)、ショーン・ポーター(WBC)そしてPBCとはライバル関係のトップランク傘下のテレンス・クロフォード(WBO)との統一戦は即実現の気配が感じられない。

 そこでマイダナだ。彼はブランクが長く現チャンピオンと当たれば相当不利な予想が立つ。しかしあの攻撃スタイルは魅力。同じく好戦的なパッキアオとはきっと火の出るようなスリリングなシーンを提供するだろう。実績と総合力でパッキアオ有利の展開が思い浮かぶが、マイダナが一撃で試合を終わらせる結末もありと予想するメディアもある。

 同じように試合の激しさの点で予測するとマイダナvsポーターも垂涎のカードとなる。「機関車同士の激突」(映像メディアのボクシング・チャンネル)と両者のスタイルから激闘は必至。3月9日、ヨルデニス・ウガス(キューバ)との防衛戦を控えるポーターの出来と結果が注目される。

まずはシェイプアップ

 ほかにもブローナーとの6年ぶりの再戦。1月、2年10ヵ月ぶりに復帰したサーマンとの対決。3月16日ゴングとなるスペンスvsマイキー・ガルシアの勝者と雌雄を決するシナリオも出て来る。スペンスとのタイプの異なった強打者対決は見応え十分。他方でマイダナは復帰にあたりガルシアの兄ロバート・ガルシアをトレーナーに迎える予定だ。だから弟マイキーがスペンスに勝ってもマイダナと対戦することまずはないだろう。

 いずれにせよマイダナはオフの間に体重が増え、今では100キロ近いヘビー級。まずはダイエットに専念しシェイプアップした体に戻すのが先決。もしコンディションが万全でないと世界を狙うホープと騒がれた弟ファビアン・マイダナが1月、思わぬ初黒星を喫した二の舞を演じることになりかねない。

弟ファビアン・マイダナとの近影。体重はヘビー級に達した(Photo:FaroDeportivo)
弟ファビアン・マイダナとの近影。体重はヘビー級に達した(Photo:FaroDeportivo)
ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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