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井上尚弥の挑戦者アントニオ・ニエベスが語る打倒モンスターの熱き思い

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上の米国デビューの相手に選ばれた”カリータ”ニエベス(写真:ショータイム)

スーパーフライ級(体重上限は115ポンド=52.16キロ)トップ選手による3試合が一挙に9月9日行われることが発表された。場所は米ロサンゼルス周辺が有力。メインはベルト奪回に燃える“ロマゴン”ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がWBC王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)との直接リマッチ。同じリングでWBO王者“モンスター”井上尚弥(大橋)がアントニオ・ニエベス(米)と6度目の防衛戦兼米国デビュー戦に臨む。もうひとつは昨年ゴンサレスに王座を追われた元王者カルロス・クアドラス(メキシコ)が前フライ級統一王者フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とサバイバルマッチを行う。

やはり日本のファンには怪物・井上のパフォーマンスが気になるだろう。よほどのことが起こらない限り井上が王座から転落することはないと思われる。首尾よくゴンサレスがリベンジを果たせば、井上との統一戦がクローズアップされるに違いない。相手のニエベス(17勝9KO1敗2分。30歳)は3月の最新試合で「論議を呼ぶ判定」とはいえ、初黒星を喫している。果たして挑戦者はどんな心境、覚悟でモンスターに挑むのか? プロモーターのディミトリ・サリタ(元スーパーライト級ランカー=リッキー・ハットンに挑戦歴あり)とマネジャーを通して質問をぶつけてみた。

井上に欠点がないと言いつつも・・・

――ビッグイベントで井上と戦う気持ちは?

ニエベス(以下Nと略)「すごくうれしく、最高の舞台で戦える栄誉を感じている。トム・ローファー(筆者注:ミドル級統一王者ゲンナジー・ゴロフキンのプロモーター)とHBOのサポートに感謝したい。世界タイトルマッチで、最強の王者に挑戦する私の目標が実現します」

――これまで118ポンド(バンタム級)でキャリアを進めてきてスーパーフライ級に落とす心配はないですか?

N「115ポンドの体重をつくるのは問題ありません。122ポンド(スーパーバンタム級)から118に落とした経験もあるし、無理に減量しなくても何度か116まで到達しているから大丈夫」

――3月の試合でロシア人のニコライ・ポタポフに2-1判定負け。次の井上戦を前に不安材料になりませんか?

N「3月の試合は全く気にしていない。ショータイムで放送されて世界中の人が観たと思うけど、すべての解説者やメディアは私の勝利と見ている。試合はミシガン州デトロイトで行われ、(同地の有名な)クロンクジムの選手(ポタポフ)有利とスコアした2人は地元のジャッジ。敗北はメンタル面でも影響なし。相手もきっと“勝った”とは信じていないでしょう」

――井上の印象を聞かせてください。

N「素晴らしい選手だと思う。彼はリングですべてのことを実践できる優秀な選手」

――井上の長所と短所は何だと思いますか?

N「彼の最大の強さはスピードとパンチ力。まだ彼の映像を見る機会は少ないけど、私には目立ったウィークポイントが見つからない。今も言ったように非常に優れた選手で、世界2階級制覇達成もうなずける」

――勝利をつかむカギは何でしょう?

N「まだ試合まで3ヵ月ぐらいあるし、具体的な作戦は考えていない。でも彼の強さを消し取るように努め、気迫で圧倒しなければならないことは絶対に求められる」

ポタポフ(写真右)に惜敗したニエベス。中央はサリタ氏(写真:ボクシングシーン)
ポタポフ(写真右)に惜敗したニエベス。中央はサリタ氏(写真:ボクシングシーン)

私を甘く見ると痛い目に遭うよ

――予想は井上が断然有利。彼と陣営はローマン・ゴンサレス、あるいはクアドラスvsエストラーダの勝者とのビッグマッチを希望しています。この状況について・・・。

N「井上は2階級世界チャンピオンだし、下馬評優位は当然。こちらは初めて世界戦の舞台に立つ身だし、机上では彼が2人のうちベスト。でも私を見くびると非常に危険な目に遭う。井上がゴンサレスとのビッグマッチを熱望していることを私は歓迎したい。私を甘く見てくれることを歓迎したい。彼が私を軽い相手だと思っていると確信している。私はアンダードッグの立場に慣れている。アンダードッグの底力を見せつけたい」

――井上のトレーナーで父でもある真吾氏は「息子とかみ合うタイプ」とあなたを表現しています。あなた自身のスタイルをどう説明しますか?

N「彼の父は正しい。私はファイトするタイプだから。もちろん、今回チャンスをもらったことに関して関係者たちに感謝している。でも同時に世界タイトルを獲得したい。私はテレビや会場やファイトマネーがどうであれ気にしていない。とにかく勝ちたい。今までのプロキャリアの過程で学んだことを出し切り、勝利をつかまなければならない」

戦う銀行員の心意気

ところでニエベスは地元オハイオ州クリーブランドで、PNCバンクという銀行にフルタイムで勤務している。インタビュー前に調べたところ「プライベート・バンカー」と出ていた。これは窓口の職員ではなく、口座やローンの開設、融資を扱う行員を意味する。試合後、目にアザ、顔面に傷が残ったまま接客するケースもあるという。

――銀行ではどんな仕事を担当されているのですか?

N「銀行ではいろいろな職務をこなしている。いわゆるプライベート・バンカーとはお客さんの財産を可能な限り有効な投資に向けさせるアドバイスとヘルプをする仕事です」

――ボクシングとの両立は難しくない?

N「私の生活は普段、仕事を持たないボクサーとそれほど変わりない。私は自分の時間の計画を立てる。それが両立に貢献している。早朝、銀行へ行く前に練習とフィジカル強化を行い、仕事を終えてすぐジムへ向かうのが日課。他の選手でも1日2度トレーニングする者は珍しくないでしょう。人と違うのは昼寝をしたり、ビデオゲームに興じたり、テレビを見ることがない。事実、私はそんなことが好きじゃないけど。そして私が無類のボクシング好きという背景が行動をしやすくしていることは否定できませんね」

――ルーツはプエルトリコ?ドミニカ?家族にボクサーはいますか?

N「プエルトリコ系です。それゆえにアメリカ合衆国市民の誇りもある。家族、兄弟の何人かもボクサーですよ」

――アマチュア戦績を教えてください。

N「地域、全米レベルのトーナメントで私はたくさん優勝している。全米ゴールデングローブ大会で銀メダリストになり、オリンピック代表選考会にも出場した。でもいつもプロフェッショナルに憧れ、世界タイトルを獲得したい夢があったのでプロ転向は自然の成り行きだった」(筆者注:戦績自体は教えてくれず)

――もう一度、今回の一戦に向けて抱負は?

N「このチャンスが訪れて私がどれだけエキサイトしているか言葉で表現するのは難しい。ベストな選手と戦えるという二重の目標が叶うので人生すべてをかけてトレーニングに没頭したい」

アントニオ・ニエベス略歴:1987年5月25日、米国オハイオ州クリーブランド出身。11年11月プロデビュー。16年6月、WBO傘下のNABOバンタム級王座獲得。右のボクサーファイター。ニックネームの“カリータ”はイケメンを意味する。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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