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村田諒太の不可解判定にエンダムのトレーナーが反論

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
米マイアミでジムを主宰するディアス氏(左から4人目。写真:ボクシング・ビート)

誰もが勝利を疑わず、大方は大差の判定勝ちと見た村田諒太(帝拳)のWBA世界ミドル級タイトルマッチ。2-1判定勝利に浴したアッサン・エンダム(フランス)のキューバ人トレーナー、ペドロ・ディアスを電話で直撃。エンダム陣営から見た疑惑の一戦を語ってもらった。

採点を批判する者はボクシングを知らない

――エンダムはあなたが期待したような試合を見せたでしょうか?

ディアス(以下Dと略)「シー(イエス)。アッサンは作戦どおり戦ったと思う。作戦とは距離をとり、ジャブを突いて戦うことだった。ただ想像以上に村田が強いボクサーで前進してパンチを放ってきた。だから12ラウンズを通じて脚を止めてはいけない、ジャブを放ってガードを上げろと指示したんだ。村田は効かせるパンチを持っていたし多くの分野でいい仕事をしたけど、唯一欠点を挙げると手数が不足していた」

――ジャッジのスコアカードに関して。

D「試合は接戦だった。アッサンも村田もジムの練習の成果を発揮したと思う。でもボクシングは一撃で勝つことは難しい。そこが村田に味方しなかった・・・」

――それでもエンダムを支持した2人のジャッジは批判されています。

D「今回のスコアを批判する者はボクシングを知らない。同じく決定的なものを見逃している。プロは全ラウンドを通じてパンチを出し続けなければならない。単発でコンタクトするだけではダメだ」

――4ラウンドにエンダムがダウンを喫し試合が終わってしまう心配はなかった?

D「ノー。アッサンは(ノックダウンに対して)心理的な準備ができている。だから起き上がって回復できたんだ。ギエルモ・リゴンドウとノニト・ドネアの試合を思い出してほしい(筆者注:13年に行われたスーパーバンタム級統一戦。リゴンドウがダウンを奪われたものの大差の判定勝ちを収めた)。今回の試合はあの一戦に似ている。予想有利だったドネアが負けたことも村田と重なる」

ビジネスだけを考えるのは嘆かわしい

――米国のボブ・アラム・プロモーターはエンダムが獲ったラウンドは2つだけと言ってますが。

D「村田に勝ってもらい、次戦をプロモートしたい思惑があったからだろう。アラムはビジネスの視野でしかボクシングを考えていない。とても痛ましいね。彼がプロモートしたパッキアオvsブラッドリー(第1戦=ティモシー・ブラッドリーが論議を呼ぶ2-1判定勝ち)の採点だって相当ヒドかったのに」

――今回、エンダム・サイドにもジャッジを選択できる権利があったのですか?

D「ノー。すべてWBAのヒルベルト・メンドサJr(会長)チームが任命した。なのにあの声明だ。(注:「正当な判定を提供できず、怒りと不満を感じる。私のスコアは117-110で村田の勝利」とツイート)彼もとても恥ずかしい。アラム同様ビジネスのことしか頭にないんだ」

――話を試合に戻して、5ラウンドが始まる前のインターバルでエンダムにどんなアドバイスを与えたのですか?

D「右に気をつけろ。距離を取れ、と。そうすれば村田はパンチを当てられない、と」

――でも村田はその後も断続的に強打をヒットし、エンダムが2,3度バランスを失う場面がありました。その時、敗戦が頭をよぎりまんせんでしたか?

D「ノー。我我はそんな困難な瞬間を想定して必要なトレーニングをしていたから。だからアッサンは動けた。それでも村田は非常に手ごわかった」

ここでJBC(日本ボクシング・コミッション)が採点の内容に関してメンドサJr会長に文書で抗議したことを聞こうとした。しかしディアス氏はそれを遮るようにメンドサ氏へ悪態をつき始めた。「WBAは我我をサポートする立場にありながら逆にこちらをおとしめようとしている。その会長は尊敬すべき存在だが、今回の件は会長の行動ではない。職務の責任を感じてしまう」(ディアス氏)。そして「タイトル認定団体で過去に今回のような言動を取った者は一人もいない。パッキアオvsブラッドリーの判定問題の時、当時のWBCホセ・スライマン会長は一切、関与しなかった」とまくし立てた。

試合終了後、勝利を確信したエンダムとディアス氏(写真:ボクシングシーン)
試合終了後、勝利を確信したエンダムとディアス氏(写真:ボクシングシーン)

明日、再戦してもいい

――最終回が終了した時点でエンダムの勝利を確信しましたか?

D「試合はクロスファイトで、向こう(村田)は日本のファンの絶大な応援があった。22年ぶりのミドル級王者誕生の期待感、オリンピック金メダリストの背景、プロモーターはミスター本田(帝拳ジム本田明彦会長)、地元コミッション・・・とこちらは状況が不利だった。でもアッサンは試合を通じてテクニックを披露したからジャッジに支持されても不思議ではないと信じていた。アッサンは(勝利へ)手順を踏んだ。その点、村田はダウンを奪った後、それが実行できなかった。ジャッジたちはいいスコアを記したと評価している」

――村田のボクシングにはどんな印象を持ちましたか?

D「卓越したボクサーでコンプリートな選手に近いと感じた。繰り返すけど唯一、不足していたのが手数だった。彼を祝福したいし、日本のコミッションが取った行動もこちらは受け入れる」

――今回の判定問題でエンダムが精神的に落ち込むことはないですか?

D「それは全くない。彼は試合に勝ったんだから。精神的にダメージを受けたのは村田の勝利を主張する人々だろう」

――もし村田が勝利者だったら、エンダム陣営は逆に抗議していたでしょうか?

D「それはわからない。慎重に対処する動きになっただろう。でも一度下った判定が覆ることは絶対ない。もしそんな不幸な事態になったら、弁護士を立ててWBAを提訴する覚悟だ」

――エンダムの次の相手は?村田とのダイレクト・リマッチの可能性は?

D「状況を見極めながらベストな相手を選びたい。村田とのリマッチは契約に入っていない。でも明日にもこちらは応じられる。ジャッジもメンドサが任命して構わない。でも場所はフランスだ」

ペドロ・ディアス略歴:長年キューバのオリンピックチームの監督を務め、ホエル・カサマヨール、フェリックス・サボンの金メダリストを指導。08年の北京五輪でドミニカ共和国をコーチ。元キューバ・スポーツ大学教授。プロでは4階級制覇王者ミゲール・コット、スーパーバンタム級統一王者ギエルモ・リゴンドウ、元ヘビー級王者ルスラン・チャガエフらを指導。キューバ出身、59歳。マイアミで「ムンド・ボクシングジム」を主宰。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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