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メイウェザー240億円、パッキアオ160億円!?世紀の一戦は米国テレビ業界の勢力変化が浮き彫りに

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
PPV売上げが480億円に達した世紀の一戦

PPV購買数440万件

「世紀の一戦」フロイド・メイウェザー(米)vsマニー・パッキアオ(フィリピン)が終了して10日あまり。こちらの日付の5月12日、注目のPPV(ペイ・パー・ビュー=テレビ視聴者がイベントごとに番組を購入して自宅で観戦するシステム)の全米購買数が主催者から発表された。すでに対決前から新記録達成は確実といわれた黄金カード。主催のショータイム、その親会社CBS、共同制作したHBO,プロモーターのメイウェザー・プロモーションズ、トップランクがメディアに伝えた数は440万件超だった。

この数字は今まで前人未到といわれた07年のメイウェザーvsオスカー・デラホーヤの248万件を大幅に上回るもので、今後もボクシング試合のPPVでは永遠に破られないものだと思われる。試合前、経済誌「フォーブス」が予測した400〜500万件は的中したことになる。PPV売上げも通常より販売単価が30ドルから40ドル高額だったことから、4億ドル(約480億円)強に達し、これも13年のメイウェザーvsカネロ・アルバレスの1億5千万ドルを抜いて文句なく歴代トップを占める。

日本では、ほとんど採用されていないPPVシステム。ヨーロッパでもあまり浸透していないと聞く。だが米国でボクシングのビッグカードが今回のように莫大な収入を稼ぐのはPPVシステムが一般化しているからに他ならない。リングに登場したメイウェザーがリングアナ、ジミー・レノン・ジュニアから「パウンド・フォー・パウンド・キング」といっしょに「PPVキング」と紹介されたのも納得できるというものだ。

PPV購買数を伸ばすため、メイウェザーもパッキアオも最近の数試合では全米の各都市をサーキットし、それぞれメイウェザーはショータイムの「オール・アクセス」、パッキアオはHBOの「24/7」という前ものシリーズに“出演”して前景気を煽っていた。これは密着取材の番組で基本的にヤラセはないのだが、傍目には数字を伸ばすために涙ぐましい?努力をしているようにも見えた。今回もショータイムとHBOが共同で制作した番組が流れたが、周りが煽り立てなくても、このスーパーファイトは順調に客数を増やしていった。

また聞くところによると、試合日5月2日PPV放送がスタートした後も駆け込みで申し込みが殺到したという。通常、放送が始まると料金が割高になるが、それでもファンは見逃したくなかったということか。元PPVキング、マイク・タイソンやデラホーヤの試合でもこんなことはなかった。恐るべき人気である。まさにボクシングを超越した、アメリカの国民的イベントだった。

メイウェザー300億円超?

さて480億円が今後どのように配分されて行くか興味深い。これまでPPV収益はケーブルや衛星テレビの配給会社が50%、冒頭で触れた主催者側が50%受領する仕組みとなっていた。だが今回、主催者側は交渉人を立て、70-30の配分を要求。それが通れば、ただでさえ気が遠くなるような額を稼ぐ両者が報酬倍増なんてこともあり得る。

先週、まだオフィシャルな収益のアナウンスがされなかった時、米国の著名ボクシング記者、ヤフー・スポーツのケビン・アイオール氏が独自の調査でPPV購買数を見積もった。それによると、560万件から643万件という仰天の数値が出てきた。

同記者は衛星テレビのダイレクトTVが115万件、デュッシュ・ネットワークが50万件、携帯電話会社系ケーブルが合計で60万件契約があったとレポート。これで225万件。なぜ上記のような数字になるかというと、他は各地域のケーブル配給会社に申し込むのが普通だから。全体でケーブル配給会社は60〜65%のシェアを占めているとアイオール氏は断定。60%と仮定しても225万件と合わせて562万5千件に達すると試算した。

確かに衛星テレビや携帯電話会社系はテレビ業界では新興勢力。またアパート住まいではアメリカでは衛星アンテナを設置できないところが多い。どうしてもケーブル配給会社に頼らなければならない。シェアをたくさん占めて当然だという見方ができる。

もし同記者の計算どおりなら、驚くなかれメイウェザーの報酬は300億円から350億円、パッキアオも204億円から228億円が見込まれるとメディアは推定。常軌を逸した“天文学ファイト”だと決めつけた。だが同記者が予測した数字には及ばなかった。もちろん、440万件はものすごい数字だが、なぜギャップが生じたのか?

ケーブル離れが鮮明に

先週の時点で衛星+電話会社の購買数は確定していたが、大口と思われたケーブル配給会社はあくまで見積もりだった。計算するとテレビ新興勢力は440万件の約51%に達している。60〜65%のシェアは固いと思われた老舗のケーブル配給会社は49%と半分以下の売上げしか得られなかったことになる。

米国のテレビ業界ではハードの部分の王様に君臨していたケーブルテレビ――文字通りジャックにケーブルを接続して視聴する――が地位を低下させている。テレビ番組配給と同時にインターネット・サービスと自宅電話のパッケージで売り込むビジネスを行っているが、サテライトと携帯電話に押され気味。地域によって(私が住んでいる町もそうだが)ひとつのケーブル配給会社しか選択肢がないところが多く、独占禁止法に触れるような印象もする。

アメリカの内情の話になってしまったが、サービスと価格の点でケーブルテレビは改善が急務。PPV購買で初めてシェアを失ったことが、その顕著な表れだろう。どうもこのままズルズルと後退してしまいそうな気もするのだが・・・。

最後に私なりに両雄のファイトマネーを単純に推測すると、メイウェザーは2億ドル(約240億円)弱、パッキアオは1億3300万ドル(約160億円)。PPVの魔術に目まいがして来そうだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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