Yahoo!ニュース

篠原哲雄監督の新作『お茶をつぐ』など秋沢健太朗主演3本の短編映画を湯布院映画祭で上映

壬生智裕映画ライター
湯布院映画祭に参加した秋沢健太朗(筆者撮影)

 現存している映画祭の中ではもっとも古い歴史を持つ「第46回湯布院映画祭」が11月20日、21日に大分県由布市の、ゆふいんラックホールで行われた。例年8月に開催されてきた湯布院映画祭だが、今年は昨年同様、11月に時期をずらして実施。今年からは道路を挟んだななめ向かいに新たにできた地域複合施設「ゆふいんラックホール」が会場となった。(本文中の敬称略)

 2日目の朝には、「ハイキュー!!」「ミュージカル 忍たま乱太郎」など、舞台を中心に活躍する俳優の秋沢健太朗(https://kentaro-akisawa.biz/)が主演を務める『MISSING』(後藤庸介監督)、『ミスりんご』(岡部哲也監督)、『お茶をつぐ』(篠原哲雄監督)という3本の短編映画を上映。上映には主演の秋沢と、『お茶をつぐ』の篠原哲雄監督、そして三作品の音楽を担当したGENらが参加。こちらでは同作の舞台あいさつ、およびシンポジウムの様子をリポートする。

 普段の湯布院映画祭といえば、シニアの男性層が多い印象だが、この日の客席はいつもに比べて心なしか女性客が多い印象。シンポジウムでも「東京から来ました」と自己紹介をする観客も多かったことから、この上映を目当てに来た人も多かったようだ。

『お茶をつぐ』のメガホンをとった篠原哲雄監督(筆者撮影)
『お茶をつぐ』のメガホンをとった篠原哲雄監督(筆者撮影)

 上映前にステージに立った篠原監督は「僕自身、湯布院映画祭は実に22年ぶりでありまして。『草の上の仕事』という映画が1993年に湯布院で上映していただきました。その時にいろんな映画界の方と出会い、シンポジウムをはじめ、いろんなことで洗礼を受けました。途中、1999年に『はつ恋』という映画でもう一度参りまして。2003年に『昭和歌謡大全集』という映画を上映していただいたんですが、僕自身は来られなかった。だから湯布院に来るのは22年ぶりなんですが、湯布院の場合、作品を選んでくださらないと来られないということもありますので、ようやくここで上映に至る作品ができたと思っております」とあいさつ。

 さらに「このたびは秋沢健太朗くんの映画3本立てを上映することになりまして。僕は3本目の『お茶をつぐ』を監督しているんですが、実はその前に『君から目が離せない ~Eyes On You~』という作品を秋沢くんと一緒に撮りました。そしてその第2弾として、秋沢健太朗主演の映画を作ろうということで、『ミスりんご』から始まり、僕の『お茶をつぐ』、そして『MISSING』という3本ができたということです。それぞれが彼の個性をどう表すかということで、みんなで相談しながら作っていった映画。作品ごとの楽しみがあると思いますので、楽しんでいただけたらと思います」と本作の背景について語った。なお、この三本の短編は、今後三本立て作品として劇場公開される予定だという。

 続く秋沢も「この3本の短編映画を同時上映できるというのは初めてのことで。しかもそれが歴史ある湯布院映画祭で、皆さんにお届けする機会を与えてくださったことを深く感謝していますし、光栄に思っています。まだまだ僕自身、腕を磨いていかないといけない立場なんで。昨日のシンポジウムを見て、こういった(辛口のコメント、批評などの)意見が出る(場所な)んだなと思い、ぜひお手柔らかにという感じです」とやや緊張した面持ちであいさつ。さらに「昨日、奥田瑛二さんが、監督と俳優のタッグというのは伝統があるんだというお話をされていましたが、ありがたいことに篠原哲雄監督と一緒に作品を作らせていただける機会をもらえてるということで、僕はなんて恵まれているんだろうと。すごく感慨深い気持ちでいます。昨日は正直、あまり眠れなかったですが、作品は作品として楽しんでいただいて、その後にご感想をいただければと思います」と観客に呼びかけた。

湯布院映画祭シンポジウムの様子(筆者撮影)
湯布院映画祭シンポジウムの様子(筆者撮影)

 そして3本の映画上映後は、観客、登壇者が意見を交わし合う、映画祭恒例のシンポジウムを実施。まずは篠原監督が、『お茶をつぐ』について「これは2019年くらいに企画をしたんですが、お茶の話を作りたいなという思いが漠然とありました。日本のお茶屋さんというのは、商売としてはだんだん衰退しているところもあるんですが、しかし男の子がもてなすという仕事としては、今後もっと注目された方がいいんじゃないかなという思いがあって。タイトルや設定などは自分でだいたい考えて。それで脚本の蛭田直美さんが書いたという経緯です」と説明。

 今回上映された三本の短編で秋沢が演じたのは、兄への複雑な思いを抱える弟(『MISSING』)、女装をする無鉄砲な若者(『ミスりんご』)、聴覚障害を持ちふさぎこむ青年(『お茶をつぐ』)と、それぞれのベクトルがバラバラな役どころ。まずは『お茶をつぐ』について「脚本の蛭田直美さんとは舞台でご一緒させていただいたことがあって。僕は舞台の仕事が多いんですが、その時に『健太朗くんから言葉を奪ってみたい』という言葉をいただきまして。それで手話というところにたどり着いたんです。それが乗り越えないといけない壁になったんですが、それがこの作品の色になったんじゃないかなという風に思います」と振り返った秋沢。

 そして『ミスりんご』については「ご覧になっていただいた通り、女装のシーンがすごく多かったわけですが、これも実をいうと、舞台で女装をすることが多かったんです。不思議なもので、舞台では派手な衣装を着たりもしますし、しかも相手役の反橋宗一郎さんとはそういう舞台をやったことがあったので、むしろホッとするくらいで。そこで目覚めたというわけではないですが、楽しくやらせていただきました。もちろん課題はあったんですが、そこは仲が良かったので。すんなりと乗り越えていけましたね」。

 さらにこの日が初お披露目となった『MISSING』については、「これは兄弟の血の濃さというのがテーマとなっておりまして。一番乗り越えないといけなかったのは痛みですかね。この痛みというのは、本当にこれで良かったのか。撮り終わった後もずっと疑問に残るような作品でした」と説明。三者三様の役柄について明かしてみせた。

 さらに『お茶をつぐ』の手話について尋ねられた秋沢は、「手話は始めてだったんですが、手話の先生が4人変わったんです」と述懐。「最初は職業手話の方というか、例えばテレビなどで、視聴者の方に手話をハッキリと伝えるというような手話を習ったんですが、どうもこれは会話になるとすごく大げさになってしまう。そこで次の先生に習ったんですが、その先生は非常に玄人向けで、あまりにも早くて僕が目で追えなかったんです。果たしてこれは通じるのか、ということになって、その次にある親子の方から教えていただくことになったんです」とその経緯を振り返ると、「お母さんの方は耳が聞こえますが、息子さんの方は耳が聞こえませんということで、後天的に覚えた手話だったんですね。家族の中で使う手話というのは、こういう風に使うといけるよというのから派生して教えていただいたんです。その時にお母さんからお話をお聞きしたんですが、やはり苦労されたと。学校に行っても、正直いい待遇ではなかった。ほかのお母さんたちの間でも可哀想という言葉が聞こえてきたそうです。でも(お母さんは)『これは障害じゃない、個性なんだ』とおっしゃられていたという声を聞いて。ああそうかと思いました。キャラクターの中のひとつの個性が、たまたま手話という表現で表すだけなんだと思ったら、すごくすんなりといきました。今では息子さんとは友人になって。映画祭に行くんだよと連絡しあったりしています。本当にその親子の方がいなければ僕の手話は完成しなかったと思うので、感謝しています」と感謝の思いを述べた。

 そして会場の観客からは「これはパイロット版のようなもので、ここから長編を観たい」という意見も。それには秋沢も「ぜひお願いしたいです。そういった声がいろいろなところに広がりますから。伸びしろがある映画なので」と前向きなコメント。続く篠原監督も「確かに。今回は短編で撮りましたけど、題材としてはまだ終わっていないと思います。今後どういう形になるのかは分かりませんが、長編に対するトライはし続けていきたいと思います」と意欲を見せた。

湯布院映画祭会場内の様子(筆者撮影)
湯布院映画祭会場内の様子(筆者撮影)

 その後も「お茶を飲みたくなりました」「題材が興味深いので、世界に向けて展開する予定はないのか?」「この上映順で良かった」などなど、観客からは多くの意見が寄せられた。そして最後に秋沢が「本日は貴重なお時間いただきまして本当にありがとうございます。まだまだ未熟者なので、たくさんの方に育てていただいているような感覚があります。湯布院(に参加すること)も僕にとっては勇気のいることであったので、まずは上映できて皆さまにお届け出来たことに感謝しています。今後も、やはり映画にチャレンジできる機会があれば頑張りたいなと思いますし、そして僕は言霊を信じているので、“また湯布院映画祭に作品とともに来ます”ので、その時はよろしくお願いします」とあらためて決意を語ると、会場からは大きな拍手がわき起こった。

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』のパンフレットなど。

壬生智裕の最近の記事