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手軽に料理を美味しくしてくれるグルタミン酸ナトリウム(MSG) たくさん食べても大丈夫?

松崎恵理一般社団法人日本栄養検定協会代表理事、博士(栄養学)・料理家

 うまみ調味料として、私たちの日々の食生活に浸透しているグルタミン酸ナトリウム。

 グルタミン酸は、1907年に池田菊苗教授(東京帝国大学理学部化学科)によって発見された物質です。グルタミン酸は、元々酸味がありますが、ナトリウムと一緒に水に溶かして濃縮することで美味しい調味料とすることができたため、グルタミン酸ナトリウムとして商品化されました。池田博士は、美味しく食事を食べることで、日本人の体格を良くし、健康に寄与したいとの思いがあったと伝えられています。

 実際のところ、どれだけ食べても問題ないのか?また、国際的に見た時にどのように評価されているのかを、最新の研究なども参考に見てみたいと思います。

■そもそもMSG(グルタミン酸ナトリウム)って何?

 MSGは、非必須アミノ酸であるL-グルタミン酸にナトリウムがくっついたものです。グルタミン酸は、生体内では脳内に多く存在し、シナプスの形成と安定化、記憶、認知、学習、細胞代謝など、主要な脳機能に重要な役割をもつ脳神経伝達に関与している物質とされています。また、炭水化物のエネルギー代謝にも関与することが分かっています。

 また、ナトリウムとつながることでうまみが感じられるため、うまみを増す調味料として広く使われています。

■海外における使用基準

 現在、食品添加物に関するWHO/ FAO合同専門家委員会(JECFA)、及びFDA(米国食品医薬品局)は、MSGを一般に安全と認められている物質に分類しています。アメリカでは以前は使用基準がありましたが、その後変更されています。(脳神経に作用することから、以前は乳幼児については、使用基準があった時期もある。)

 EFSA(欧州食品安全機関)では、2006年にいくつかの食品添加物の一日摂取許容量(ADI)を設定しましたが、その中でいくつかの添加剤と共にグルタミン酸ナトリウムについても検討され、一日摂取許容量を30mg/kg体重 としているものの、すべての年代においてこの許容量を頻繁に超える量が摂取されていると報告しています。

 なお、アメリカでは、使用基準がなくなった今も NO ADDED MSG と表示されている食品が販売されているなど、MSGを避ける人たちが一定に存在するのが現状です。

(アメリカで販売されている NO ADDED MSG という表示がされた食品)

画像はこちら

 一般に、アジア人のMSGの摂取量は欧米人よりも多いとされていますので、日本人においても食品の選択の仕方によってはEFSAの一日摂取許容量を超えている場合があるかもしれません。

提供:イメージマート

■これまでに懸念された内容とその評価

 これまで、MSGの摂取は、MSG過敏症やMSG使用による疼痛感受性、アトピー性皮膚炎、神経毒性、肝毒性、がん、喘息、肥満、糖尿病などの健康障害が発生する可能性などが指摘されおり、非常に多くの論文が発表されています。

 新生児期のマウスにMSGをに投与すると、血糖コントロールが障害されて肥満マウスとなり、そうしたマウスが大腸がんに対する感受性が高いことが示唆される、といった報告もされています。

 しかしながら、これまでに発表された論文には、研究デザインが不適切であったり、経口摂取ではなく、皮下注射であったりなど裏付けとなるデータが不十分であると評価されているものが多くあります。 

 マウスなどを対象とした研究は、ヒトのMSGの摂取を模倣したものではないことから、すぐにヒトと関連づけて考えるのは無理がありますが、MSGの摂取とヒトの健康とのネガティブな関連は、今だ議論されている状況です。

 また、低用量の使用が及ぼす影響については、ほとんどないと考えられるものの、完全に解明されているわけではない、とも言えます。

 中には、MSGはヒトの健康を害するものと断定して、その害を排除するために有効な食品や成分について発表している論文などもあり、さまざまな観点から研究の対象となっているのが現状です。

 一方、MSGを使うことのポジティブな面としては、MSGを使うことで食塩の量を減らしても美味しく食べることができるため、減塩への寄与が期待できることです。この点に関しては異論はないものと考えられます。

このように、MSGに関する国際的な評価は未だ一定ではない、というのが現状と言わざるを得ません。

■適量を使って、良い面を活用する

 MSGは、安価に食品を美味しく食べることを可能にする調味料です。

長期摂取や多量摂取によるヒトのからだへの影響は、引き続き議論の対象になっています。

一方で、食品を美味しく食べることができれば、精神的な満足感が得られ、しっかり食べることによって栄養素も摂取することができ、減塩にも寄与すると考えられます。こうした面は、私たちのからだにとって良い点であると言えます。

 からだに必要な栄養素であっても、取り過ぎるとネガティブに働く栄養素は多くあります。例えば、塩は、ヒトが生きていくためには必要な栄養素ですが、摂りすぎは高血圧などのリスクを高めます。どんなにヒトのからだに必要なものであっても過剰摂取は、良くない影響を与える可能性があります。

 MSGは、食品を減塩しながら美味しく食べるための手軽な方法のひとつとして取り入れつつも、使いすぎない、適量を活用する、という意識が大切と言えるでしょう。

(参考論文)

Zanfirescu A et al. A review of the alleged health hazards of monosodium glutamate.Compr Rev Food Sci Food Saf. 2019 Jul;18(4):1111-1134.

写真:アフロ

一般社団法人日本栄養検定協会代表理事、博士(栄養学)・料理家

一般社団法人日本栄養検定協会代表理事、博士(栄養学)、料理家。専門は栄養疫学。栄養学の基本をだれでも学べる栄養検定を実施・運営。美味しく、健康的なレシピ作りも行う。日本栄養・食糧学会会員。慶應義塾大学卒業。オートファジーコンソーシアムアカデミア会員、栄養士養成校にて「統計学」の非常勤講師。LE CORDON BLEU(代官山校)料理を首席で卒業しグランディプロム取得。Paris Ecole Ritz Escoffier 短期クラス修了。毎週月曜日気軽に読める無料メルマガ配信中!https://system.faymermail.com/forms/7515

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