減塩が病気をつくる?SNSにはびこる「反減塩」が危険な理由とは?

先日、「反減塩」なる考えがSNSで盛り上がりを見せていました。

その内容は、減塩が病気をつくっている、塩化ナトリウムではなく上質な塩をとろう!というもの。

減塩を心掛け、少々味気ないごはんを食べている人にとっては、上質な塩?それなら減塩しなくていいの?と嬉しい気持ちになった人もいらっしゃったかもしれません。

残念ながら、上質な塩なら減塩しなくても大丈夫、ということはありません。その理由を解説します。

■そもそも塩ってなに?

みなさん「塩」というと、売られている塩を想像すると思います。白いさらさらしたものや、少し湿った感じのするもの、粒の荒いものや塊になっているものなどいろいろありますよね。

国際的な食品規格を定めているコーデックス委員会では、食用の塩の規格は、塩化ナトリウム97%以上、人体に有害な微量成分であるヒ素、カドミウム、鉛、水銀、銅について基準値を定めています。

日本では、塩事業センターや日本塩工業会で定めた規格があり「食塩」「並塩」「精製塩」などが塩化ナトリウムの含有量などによって定めてられています。ですが実際には、平成9年の塩の専売の廃止に伴って様々な塩が販売されています。

(塩の規格)

精製塩:塩化ナトリウム99.5%以上の乾燥塩

食塩:塩化ナトリウム99%以上の乾燥塩

並塩:塩化ナトリウム95%以上、水分約1.4%の非乾燥塩

■塩に含まれるミネラル

SNSで使われていた「上質な塩」というのは、おおむね「ミネラルが豊富に含まれる塩」という意味で使われているようでした。

塩に含まれているナトリウム以外のミネラルは、塩の原材料が何かによって傾向が違います。塩の原材料には、海水、天日塩、岩塩や湖塩などがあります。この中でナトリウム以外のミネラルが多く含まれているのは、海水から作られる塩です。海水に含まれる苦汁(にがり)を残して作った塩には、苦汁成分であるマグネシウム、カリウム、カルシウムが含まれます。岩塩などは、塩が結晶化してできることや、不純物がある場合には精製して作るため、ナトリウム以外の栄養素としてのミネラルの含有率は低い傾向があります。

海水と海藻を使って作られた塩として「藻塩」があります。マイルドな塩味でミネラルが豊富とされていますが、市販食用塩データブック(塩事業センター)に掲載されているものを見る限り、塩化ナトリウムが少ないものでも約87%は塩化ナトリウムでした。

ナトリウムは、ヒトにとって必要なミネラルです。ですから必ず摂取する必要はありますが、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどを塩からとろうとするとナトリウムの過剰摂取になってしまいます。ミネラルは、他の食品から効率的に摂取して、ナトリウム以外のミネラルが多く含まれている塩は、味わいの違いとして楽しむのがおすすめと言えるでしょう。

■適切な食塩の量ってどれくらい?

日本人の食塩摂取の目標量はご存じでしょうか。

日本人の食事摂取基準2020年では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満です。

これを調味料の量で見ると、こいくちしょうゆ小さじ1の食塩量は0.9g、みそ大さじ1では2.2gです。1日に3食として、1食あたり男性で2.5g、女性で2.2gとなり、食材自体にも塩が含まれることを考えると、えー!少なすぎる!無理ー!と思われる方も多いでしょう。

ちなみに日本人の食塩摂取量は、約10g/日(※1)です。これは、アメリカの9g/日、韓国の7.3g/日など他国の食塩摂取量と比べて多くなっています(※2)。

※1令和元年国民健康・栄養調査

※2National Health and Nutrition Examination Survey,2013-2014(アメリカ)、Korean National Health and Nutrition Examination Survey,2015(韓国)

■なぜ減塩、げんえんと言われるのか

2019年の国民生活基礎調査によると、通院している人の通院理由で最も多いのは、男女共に高血圧です。成人では約3割、65歳以上の場合で4割近くが、高血圧となっています。これからさらなる高齢化によって高血圧の人が増えることが予想されています。

高血圧症は、脳卒中や心疾患の最も大きなリスクです。また、腎不全の発症リスクや高齢期の血管性認知症の発症リスクが高くなるという研究結果も示されています。そのため、高血圧の人を減らすことが大変重要になっています。

減塩が血圧を下げる効果があるという研究結果は、世界的に数多く報告されています。血圧が高くなる要因としては、肥満や喫煙、ストレス、加齢など他の理由もありますが、食事に関連する項目としては、食塩の過剰摂取が最も大きな課題です。

そのため、WHOにおいても食塩摂取量のガイドラインは、1日あたり5g未満となっています。また、食塩の過剰摂取は、胃がんのリスクをあげることも分かっています。そのため、食塩の過剰摂取を避けるべく減塩をすることが大切なのです。

■減塩しても血圧が下がらない人がいるってほんと?

実は、以前の研究で食塩摂取によって血圧が上がる「食塩感受性」の人と血圧に影響しない「食塩非感受性」の人がいる可能性が指摘されています。ですが、この区分は統計的に導きだされたものであるため、自分がどのタイプかということを調べることはできません。また、このタイプが途中で変化しないものかどうかも分かっていません。

これまで報告されている疫学研究で減塩が血圧低下に有効ということは、多く報告されていますから、やはり減塩を心掛けることが重要ということになります。

写真:アフロ

■イギリスでは、減塩で死亡率40%減少

イギリスでは、2003年に食品における食塩含有量を減少させることを目標とする政策がスタートしました。特にパン、シリアルなどの加工食品について、食品企業が共同で減塩目標を自主的に設定しました。

この減塩は、時間をかけてこっそり行われたことでも有名です。パンに含まれる塩の量を急に減らしたり、他のものに変えるのではなく、消費者が味の変化に気づかないように少しずつ減塩していったのです。結果として2003年から2011年で成人における塩分摂取量は約10gだったものを、約15%減少させることに成功しています。その結果、平均の収縮期血圧が低下し、なんと脳卒中や虚血性心疾患による死亡率は40%も減少、医療費は1年あたり日本円で約2600億円削減されています。

■日本における減塩のとりくみ

日本においても現在「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」において減塩の取り組みが課題のひとつとして議論されています。また、各自治体で減塩の取り組みがされているところも多く、成果をあげているところも出ています。

企業でもさまざまな取り組みがされています。例えば「こっそり減塩」なるプロジェクトを行っているのはファミリーマートさん。商品に「減塩」とうたってしまうと、お客様に敬遠されて売れないというジレンマを解消するための方法として、あえて表示せずに「こっそり」減塩しているというもの。栄養成分表示を見なければ塩の量が少ないことに気が付かない仕組みになっています。知らずに美味しく減塩できているなら、そんな嬉しいことはありませんね。どんどんこのような取り組みが広がって欲しいものです。

ヒトのからだにとって必要な塩。だからこそ以前は日本で塩は専売とされ、大切にされてきました。

一方で、塩の摂り過ぎは高血圧をはじめとする関連する疾患の原因になります。

今は、さまざまな種類の塩が手に入ります。好みの塩を美味しく効果的に、少量使うことで食事をより楽しめるとよいですね。