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伊藤匠七段、13戦目で藤井聡太叡王に初勝利! 藤井叡王のタイトル戦連勝は16でストップ 叡王戦第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月20日。石川県加賀市「アパホテル&リゾート 佳水郷」において第9期叡王戦五番勝負第2局▲伊藤匠七段(21歳)-△藤井聡太叡王(21歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は18時20分に終局。結果は87手で伊藤七段の勝ちとなりました。

 五番勝負は両者ともに先手番を勝ち、これで1勝1敗となりました。

 第3局は5月2日、愛知県名古屋市・名古屋東急ホテルでおこなわれます。

 伊藤七段は藤井叡王から初の勝利を挙げました。

伊藤「なかなか勝てていなかったので。一つ結果が出たことはよかったですけど。まだ番勝負は続くので、引き続きがんばりたいと思います。(第3局に向けて)しっかりと準備して臨めればと思います」

 藤井叡王のタイトル戦連勝は16でストップしました。

藤井「仕方ないかなと思っています」

 藤井叡王自身は意識していない記録ですが、大山康晴15世名人が残した歴代1位の17連勝には届きませんでした。

藤井叡王、意表の変化球

 伊藤七段先手で対局開始。10手目、藤井叡王はいつものようにすんなり角を交換せず、3三の地点に上がります。

 相手に指されたことはあっても、自分で指したのは初めての作戦でした。

 伊藤七段も意表を突かれたところでしょう。しかし叡王戦五番勝負は持ち時間4時間のチェスクロック方式。比較的短い時間設定です。伊藤七段は決断よく、右端1筋を突き越します。こちらは藤井叡王の想定をはずれていたようです。

藤井「予定の作戦だったんですけど、ただ、そのあとにかなり早くそこからはずれてしまったので。ちょっと認識不足だったかなという気もしています。△3三金の形はやったことがなかったので。やってみたらどうなのかなということは思っていました」

 藤井叡王は早繰り銀に出て、仕掛けていきます。中段に出た飛車を引かず、伊藤陣の歩をかすめとり、互いにあとに引けない戦いになりました。

伊藤「ちょっと早い段階で前例の少ない将棋になって。一手一手、手探りで指していました。(23手目)▲1五歩と端に2手かけたんですけど。けっこう激しく動いてこられる展開になって。一手一手、難しい将棋だなと思っていました」

 昼食休憩のあと、13時、伊藤七段は左側の桂を跳ねます。

伊藤「難しいのかなと思っていました」

藤井「昼食休憩明けに(39手目)▲7七桂と跳ねられた局面が、ちょっと既に、自信がないような気がしたので。もう少し、なんというか、工夫が必要だったかなという気がしています。3三金型の薄さが出るような展開になってしまったので。やっぱり失敗してしまっているかなと思っていました」

 49手目。伊藤七段は金取りに桂を跳ねます。

 形勢は互角ながら、相手の3三金型をとがめた進行となりました。

伊藤「一手一手お互いに、選択肢は広いのかなと思っていて。ちょっとそうですね、よくわからないまま指していました」

 藤井叡王は金桂交換の駒損に甘んじながらも手番を得て、反撃に転じます。59手目、伊藤七段は馬を逃げました。

 持ち時間4時間のうち、残りは伊藤11分、藤井27分。互いに残り時間が切迫する中、複雑きわまりない局面を迎えていました。

伊藤「はっきり自信のないという順は見えていなかったんですけど。ただ、よくわからないまま指していました」

藤井「攻め方としては銀を4七か2七か4五か、3通りあって。あとは△6六飛車と切る手と。あと△8七歩成というのも手の組み合わせとしてあるので。その中で、なにかどれか勝負できる順があればというふうに思っていたんですけど。ちょっと考えてみても、なかなかそういった順が発見できなかったかなというところでした」

 藤井叡王は17分を使って決断。飛車で金を取りました。しかし結果的にこの手を境に、形勢の針は次第に伊藤七段の側に傾いていきます。

藤井「本譜はそうですね。(63手目)▲2四歩の突き捨てがぴったりのタイミングで。はっきり負けにしてしまったかなという気がします。基本的には苦しいかなと思っていたんですけど、もう少し違う勝負手を掘り下げるべきだったかもしれません」

伊藤「(71手目)▲4四歩と打ったあたりはいけそうかなとは思ってたんですけど」

 互いに持ち時間を使い切り、一手60秒未満で指す終盤戦。73手目の時点で、伊藤七段は勝勢の局面を迎えていました。

 図で▲4四歩△5二玉▲3四馬と追えば、長手数ながら詰みがあったようです。本譜、伊藤七段は▲4四銀以下の順で、藤井玉を追いました。手順に3五の桂をはずしながら馬を攻防によく利く位置に据え、やはり伊藤七段よしです。

 最後は伊藤七段が藤井玉を即詰みに討ち取り、87手で伊藤七段の勝ちとなりました。

 終局後、両者は大盤解説場において、多くのファンを前にあいさつをしました。

伊藤「早い段階から、前例の少ない将棋になって。また、かなり午前中から激しい展開になったんですけど。午後に入ってから、一手一手、選択肢の広い局面が続いて、非常に難しい将棋だったかなと思います」

藤井「こちらから動いていくような将棋だったんですけど。それを伊藤七段に手厚く受け止められて。最後はきっちりカウンターをあわされてしまったという内容の一局だったかなというふうに思っています」

伊藤「次局、1、2週間ほど空くと思うんですけど。しっかりコンディションを整えて臨めればと思います」

藤井「1勝1敗という形になったので、まず気を取り直して。また、叡王戦は2週間ぐらいあとになるので。その間(かん)にしっかり準備をしていきたいと思います」

伊藤「なんとかタイに戻すことができたので、第3局も前向きに準備してがんばりたいと思います」

藤井「本局はちょっと形勢判断の甘いところが出てしまったかなというふうに感じているので。そのあたりを修正しつつ、また第3局で熱戦にできるようにがんばりたいと思います」

 藤井叡王から大きな1勝をあげた伊藤七段。藤井叡王よりあとに生まれ、藤井叡王に最初に勝った棋士となりました。

【叡王戦】

主催:株式会社不二家、日本将棋連盟

特別協賛:ひふみ

協賛:中部電力株式会社、株式会社豊田自動織機、豊田通商株式会社、日本AMD株式会社、アパリゾート佳水郷

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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