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若手実力者・増田康宏新八段がA級に昇級 名棋士・屋敷伸之九段は無念の降級 B級1組全日程終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月7日。第82期順位戦B級1組最終13回戦がおこなわれました。結果は以下の通りです。

千田翔太八段(9勝3敗)○-●大橋貴洸七段(7勝5敗)

増田康宏七段(9勝3敗)○-●屋敷伸之九段(5勝7敗)

近藤誠也七段(7勝5敗)○-●山崎隆之八段(5勝7敗)

羽生善治九段(7勝5敗)○-●三浦弘行九段(5勝7敗)

糸谷哲郎八段(6勝6敗)●-○佐藤康光九段(6勝6敗)

横山泰明七段(2勝10敗)●-○木村一基九段(3勝9敗)

澤田真吾七段(7勝5敗)空き番

 以上の結果、千田八段に続き、増田康宏七段(新八段)のA級昇級・八段昇段が決まりました。

 また木村一基九段、横山泰明七段に続き、屋敷伸之九段のB級2組降級が決まりました。

大橋七段、無念の敗戦

 愛知・名古屋対局場でおこなわれた▲大橋-△千田戦は、大橋七段先手で角換わり腰掛銀に。後手に華麗な攻め手順が続く現代最前線の定跡を経て、早い段階で終盤戦に入りました。

 終盤はきわどい一手争い。大橋七段は歩頭に桂を打ち捨て、千田玉に迫り続けます。対して千田八段は正確にしのぎ続け、一手勝ちを確かなものとしていきます。

 104手目。千田七段が大橋陣に打ち込んだ角が攻防に利く決め手。大橋七段は形を作り、110手目、自玉への王手を見て21時49分、投了しました。

 千田八段は9勝3敗。増田七段より順位が上のため、1着でのA級昇級を決めました。

 リーグ終盤で追い込んだ大橋七段は7勝5敗。昇級には届きませんでした。

増田新八段、最後を勝ってA級に

 東京・将棋会館でおこなわれた▲屋敷九段-△増田七段戦は、屋敷九段先手で角換わりから相早繰り銀になりました。

 力のこもった中盤を経て、終盤に入ったところでは、屋敷九段がやや指せるようにも見えました。しかし屋敷九段の攻めを増田七段が正確に受け続けるうちに、形勢の針は次第に増田よしへと傾いていきます。やがて増田七段は満を持して反撃。勝勢を築きました。

 120手目、増田七段が成香を寄せた局面を、屋敷九段は見つめていました。負けを受け入れる、つらい時間だったと思われます。11分が過ぎたところで、屋敷九段は次の手を指さず、投了を告げました。

 先に名古屋で大橋七段が敗れていたため、増田七段の昇級はすでに決まってはいました。しかし増田七段は自身の手で勝利をつかみ、9勝3敗の好成績でA級へと駆け上がりました。

 早くから将来を嘱望されていた増田新八段。26歳の若さでA級に昇級し、名実ともにトップクラスの仲間入りを果たしました。

 来期のA級は次のようなメンバーとなります。

 藤井聡太名人(21歳)に豊島将之九段(33歳)が挑戦する名人戦七番勝負は4月に開幕します。その両者を含め、11人の棋士の平均年齢は現時点で31.4歳と、記録的な若さです。

 A級6期、B級1組10期の名棋士・屋敷九段。今期は熾烈な残留争いの末、5勝7敗でB級2組への降級が決まりました。

 B級1組では長く降級枠は2でした。その間、5勝7敗で降級した棋士は、数えるほどしかいません。しかし2020年度から降級枠は3に増え、残留争いは熾烈さを増しました。今後は5勝7敗でも降級となるケースは増えてくるのかもしれません。

 来期のB級1組は次のようなメンバーとなります。

「鬼のすみか」と呼ばれるB級1組。来期もまた、ハイレベルの戦いが見られそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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